株式およびマルチアセット ‘25年第3四半期見通し

20 分間で理解する 25年7月8日

危機疲労:適応力の進化

  • 拡大する地政学リスクに対する市場の反応は変わりつつあります。これまでのように米ドルや米国債を自動的に安全資産とするような形式的な市場「ルール」は、機能しなくなっています。
  • 投資家には、「危機疲労」の兆候が現れつつあるように見えます。これは、コロナ危機、戦争、米国の政策転換など、過去数年間に直面し、乗り越えてきた絶え間ないリスクイベントが原因かもしれません。
  • 耐性ができているのは、ある意味で合理的です。というのも、地政学的な対立が市場に与える影響は、関連する経済圏や企業のファンダメンタルズの範囲にとどまるからです。しかし、市場はオオカミ少年(繰り返される警告)に慣れすぎています。絶え間ない政治的ショック、政策の急転換、紛争関連のニュースにより、即座に相応の影響が顕在化しない出来事については、投資家は注意を払わなくなってきています。しかし、この感覚の鈍化自体がリスクです。
  • 以降では、M&Gの株式&マルチアセット投資チームが新たな市場動向に適応しながらも、投資哲学とプロセスを堅持しつつ、2025年四半期(4-6月)の環境にどのように対応したのかについて解説します。

ファビアナ・フェデリ
CIO、株式&マルチアセットおよびサステナビリティ投資

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地政学リスクの高まりに対する市場の反応は、従来とは異なったものになってきています。2025年第2四半期(4-6月)は、中東での紛争激化や、トランプ政権が打って出た予想以上に広範で大胆な関税戦争、期待外れとなった終わりの見えないウクライナ戦争に終始しました。こういった情勢で、“従来”の教科書的な資産配分(株式を売却し、債券を購入、資産は米ドル建て)は有効なはずでした。

しかし、現実は全く異なる結果となりました。第2四半期に米国30年国債利回りは20ベーシスポイント(bps)上昇し(価格は下落)、上半期では8 bpsの上昇となりました。さらに、これまでは米国債に資金が逃避し、敬遠されることが多かったイタリアやブラジルの国債も第2四半期には長期金利が低下(価格は上昇)するという動きが見られました。

米ドルは同期間に7%下落したことで前期の弱含みをさらに拡大し、上半期全体で10.7%の下落となりました。さらに注目すべきは、グローバル株式市場の急上昇です。MSCIオールカントリー・ワールド指数(米ドル建て)は、第2四半期にS&P 500種指数を上回り、11.7%上昇しました。これはナスダックの18%上昇に次ぐパフォーマンスです。この状況下で、新興国市場株式は、主に通貨高の追い風によるところが大きいものの、米ドル建てでS&P 500種指数を上回るパフォーマンスを示しました1。投資適格債とハイイールド債のスプレッドも同様の傾向を示し、当初は「解放の日」後の混乱で拡大したものの、最終的に歴史的な低水準までタイト化しました。明らかに、過去に地政学リスクが高まった局面で見られた動きとは異なっています。

同様に興味深いのは、株式とクレジット市場は、ボラティリティが最も高い時でさえ流動性の面からも機能し続けたことです。第2四半期には、クレジットと株式の両方で資金調達活動が増加しましたが、市場は追加の資金調達を問題なく吸収したように見受けられます。

これまでとは異なる市場の反応は、ここ数年のコロナ危機、戦争、米国の政策転換などが生み出した膨大な量のニュースを処理し、対応を続けてきたことで投資家に相応の「危機疲労」が蓄積していることが影響しているように思われます。

しかし、これは投資家が現実から目を背けているわけではありません(表現力豊かで、かつ聡明な私のイタリア人の祖母なら、「プロシュート(イタリアの薄切りハム)で目を覆っているわけではない」といったかもしれません)。このレジリエンスには合理的な側面もあります。なぜなら地政学的な対立がリスク資産市場に与える影響は、経済や企業の基礎的な部分に限られるためです。例えば、中東紛争の場合、極端なシナリオを除けば、原油の供給と価格が世界経済への最も直接的なリスクとなるでしょう。しかし、ホルムズ海峡(世界全体の原油と液化天然ガス(LNG)の大部分が通過する)が長期的に封鎖されない限り、影響は限定的です。市場は、現時点ではそのような封鎖の可能性は低いと判断しているのです。

同様に膨張する米財政赤字の懸念から、米国外の投資家と中央銀行が相応の規模の米国債のポジションを見直し、リスク回避のために売却に走るのを非合理だとは言えないでしょう。

私たちのクライアントの中には、このような資産配分の見直しを進めている投資家もいます。欧州域内の防衛とインフラ支出の増加などの新たな成長ドライバーの出現により、欧州は現在最も注目されている市場の一つです。

同様にアジアへの関心が高まっています。また、最近では新興国市場への関心も回復傾向にあります。これらの市場への関心の高まりは、欧州のクライアントの間で顕在化し、現在ではアジアにおいても同様の傾向が見られます。

とは言え、ナスダックの著しい回復は言及すべきであり、理由についても取り上げます。まず、ディープシーク後の下落は行き過ぎだったと言えるでしょう。さらに2025年第1四半期(1-3月)の決算期からは、人工知能(AI)関連の設備投資に減速の兆しがないことが見て取れます。

したがって投資家は、リスクを無視したり、従来の投資戦略を忘れたりしているわけではなく、単に新しい世界秩序に適応しているだけなのです。米国は依然として投資機会が豊富ですが、世界唯一の魅力的な市場ではなく、弱点も抱えています。投資家は理性を失ったわけではなく、単に考え方を変え、より慎重かつ選別しながら行動しているのです。

投資家として、私たちは新たな現状に適応する必要があります。これまでのように米ドルや米国債を自動的に安全資産とするような形式的な市場「ルール」は、機能しなくなっています。新しいフェーズでは、臨機応変に適切な判断や他者とは異なる思考、差別化されたアプローチが求められます。

また、マーケットに対応するスピードも変わらなければなりません。私たちは以前、市場の動くスピードが速くなっていると述べましたが、4月初旬のリスク市場の急反転でも市場の動きが加速していることを目の当たりにしました。このような速度では、投資機会が生まれた際に可能性を探り、調査し、ボラティリティを活用するといったことはできません。調査が完了する頃には、投資機会は既に失われています。

これまでの経験からM&Gでは、事前にしっかりと調査を行い、資産クラスや証券について現在のバリュエーションとは別の観点で独自に深掘りしたウォッチリストを用意し、価格が望む方向に動いたときには、すぐに行動できるよう備えています。

見過ごされたリスクの危険性

私たちは、より臨機応変な考え方をしている投資家を称賛しつつも、リスク資産がこれほど強いパフォーマンスを示している現在、先々のリスクを考慮する必要があると考えています。広範な市場で観察される「危機疲労」は、現時点では合理的な反応のように感じられるものの、市場がリスクを画一的に見過ごし始めると下り坂へと転落する可能性も十分にあります。

私たちの英国株式部門責任者は、市場がオオカミ少年(繰り返される警告)に慣れつつあると指摘しています。度重なる政治的ショック、政策の急転換、紛争関連のニュースにより、即座に相応の影響が顕在化しない出来事については、投資家は注意を払わなくなってきています。しかし、この感覚の鈍化自体がリスクです。

多くの関税交渉がまだ決着していない中で、企業利益や実需に影響を与えかねない消費者および企業のセンチメントが再び悪化するリスクは依然として存在しています。

そのため、私たち投資家は市場の動向、特に関税に関する新たな展開を注視しています。関税が引き上げられると、世界中の企業利益に直接的な悪影響を及ぼす可能性があるからです。また、価格上昇によって需要の減速が引き起こされる可能性もあります。マクロ経済的な観点では、需要変化の前兆となり得る消費者および企業の信頼感の変化、そしてもちろん失業率の悪化にも注目しています。

とは言え、タイミングがすべてです。パニックに陥って市場から撤退するタイミングが早すぎたり、急ぎすぎたりすることが投資リターンにとって最善の策ではないことは既知の通りです。

現時点では、政策の着地点の予測は困難であり、先行きの見通しが限られているため、資産クラス間および資産クラス内での分散が不確実なマクロ経済環境におけるポートフォリオのレジリエンス(耐性)を高める最善策であると考えています。

M&Gの株式戦略では、企業の固有リスクに注目することでリターンの創出を目指しています。そして可能な限り、ポートフォリオ構築を通じて意図しないリスクを軽減し、集中投資を避けるよう努めています。

ポートフォリオのポジション

M&Gのマルチアセット戦略では、株式を小幅にオーバーウェイトしていますが、最近これを縮小しました。株式の小さなロングポジションは、満期を分散させた国債のロングデュレーションでバランスを取っています。

長期債は、マクロ経済環境が悪化した場合の保険の役割を果たすとみています。ただし、直近数ヶ月間で、ドイツ国債、英国債、新興国債(現地通貨建て)への分散をさらに進めています。

米国債に関しては、ボラティリティの観点から10年債の方が30年債よりも安心感を持っています。インフレ連動債も保有していますが、クレジットはバリュエーションが高いためアンダーウェイトし、ハイイールド債よりも投資適格債を選好しています。

マルチアセット株式の配分では、米国をアンダーウェイトし、欧州とアジアをオーバーウェイトしています。欧州では国とセクターを分散し、アジアでは韓国、香港、インドネシアを選好しています。

株式ポートフォリオの最近の変更

M&Gの投資チームは、特に第2四半期前半の市場変動からの投資機会を活用してきました。米国、欧州、アジアのポートフォリオに共通するテーマは、テクノロジー銘柄へのエクスポージャーを増やしたことで、特にAI関連半導体とサービスプロバイダーの中にはバリュエーションが2022年の底値に近い水準まで下落していたものもありました。

私たちのイノベーションに対する長期的な見通しは変わっていません。半導体は引き続き高性能化が進み、AIも計算能力の向上とともに進化しています。コンピューティングやAIの新たな市場も出現しており、AIエージェントやAIロボティクスなどの新たなAIの応用事例が成長するコンピューティングへの需要をさらに押し上げる可能性があるとみています。

欧州では、防衛関連のポジションを一部縮小しました。この分野には依然として成長の可能性があると考えていますが、銘柄選びには慎重さが求められます。新しい技術や性能の開発には一般的に思われている以上に時間がかかる可能性があります。しかし、一部のサブセグメントでは市場の盛り上がりにより、過度な期待が高まっています。

その他の地域およびポートフォリオ全般においては、私たちは資本財からスペシャリティ・ファイナス、さらには苦境にある自動車セクターまで、イディオシンクラティックな要因に着目してきました。また、政治的な対立の渦中に置かれているヘルスケア銘柄にも選択的に追加投資を行っています。

グローバル上場インフラ戦略では、欧州と米国の公益事業セクターが回復したことから、アジア(特にインド)と新興国市場への新規投資をしました。

アジアのポートフォリオでは、インド関連の保有率を引き上げました。インドは海外収益への依存度が比較的低いため、関税リスクの影響を受けにくいと考えています。一方で、アジアの金融株やグレーター・チャイナ関連株、そして期末には一部の通信株の保有比率を引き下げました。

日本では、第2四半期の開始時に比較的保守的なポジションでスタートし、少数銘柄に厳選して投資しました。日本企業の業績改善から生じる投資機会は依然として豊富です。企業の利益は健全な水準を維持しており、2025年3月に終了した2024年度は、前年比で9.8%の増益となりました。また、今年4月には企業による自社株買いが過去最高の3.8兆円に達し、前年の1.3兆円の約3倍にまで拡大しました2

日本企業は自社株の5%を買い戻す方針で、市場最大のネットバイヤーとして位置付けられています。

今期のレポートでは、M&Gの株式&マルチアセット投資チームが新たな市場動向に適応しながらも、投資哲学とプロセスを堅持しつつ、第2四半期の環境にどのように対応したのかについて解説します。

最後に、私たちは急速に変化する世界に住んでいます。AIがけん引するイノベーションを受け入れることは、もはや選択肢ではなく必須事項です。市場環境も変容しており、より広範な市場アクセスと進化する技術が株価変動の範囲とスピードを再定義しています。これは投資家にとって必ずしも否定的なものではありません。より容易にかつ広範に市場にアクセスができるようになれば、市場はセンチメントに左右されやすくなるでしょう。アクティブ・マネジャーにとっては、活用できる投資機会が生み出されることを意味します。

私たちは、投資家として、そしてお客様の資産を預かる責任ある立場として、長期的な視点に立ち、時代の試練に耐えうる強靭なポートフォリオの構築を目指しています。市場の動きに左右されてパニックに陥ったり、過度な楽観に流されたりすることは、私たちの選択肢にはありません。他者とは異なる思考、確固とした投資プロセス、そして多様な市場環境への柔軟な対応力こそが、リスク調整後の優れた長期リターンをお客様にもたらす鍵であると考えています。

本レポートが、皆様にとって有意義で、そして興味深いものとなれば幸いです。

 

ファビアナ・フェデリ
CIO、株式&マルチアセットおよびサステナビリティ部門

 

1 出所:Bloomberg、2025年7月、トータルリターン(米ドル建て)。新興国市場ベンチマーク:MSCIエマージング・マーケット・インデックス
2 出所:M&G、モルガン・スタンレーMUFG リサーチ、Japan Equity Strategy、2025年6月4日
 

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