新興国市場
5 分間で理解する 25年8月8日
新興国市場は、過去10年にわたり、政治的混乱、複雑な規制、貿易依存、為替変動といった様々な課題に直面してきました。同時に、米国が他の地域と比べて優れた経済成長と市場の回復力を示した「米国例外主義」の時代が投資家を魅了し、投資家のポートフォリオにおける米国偏重は顕著になっていきました。
しかし、ドナルド・トランプ米大統領下での政策不透明感が混乱を引き起こしたことで、米国外の地域に対する投資家の見方はポジティブになっています。足元の動向からは、脱米国資産の「グレート・ローテーション」が勢いを増し、市場の方向性が急速に変化していることがわかります。
投資家の新興国市場やアジア市場に対する関心は、割安なバリュエーションと米ドル安を背景に急速に高まりました。4月の「解放の日」がボラティリティを一時的に押し上げたものの、新興国市場の株価は落ち着きを取り戻し、現在では「解放の日」前の水準を上回っています。過去10年間の傾向とは大きく異なり、2025年上半期(1-6月)のMSCIエマージング・マーケット指数は、米国S&P500(6.2%)を大幅に上回る15.6%という力強いリターンを記録しました(米ドルベース)。
さらに、米国株式市場が恒常的な高ボラティリティの時代に入ったように見られる中、新興国株式のボラティリティは年初来、米国株式に比べて低位に推移しています。米国が政策の抜本的見直しや景気後退リスクの高まり、恒常的な財政赤字(5月にはムーディーズが米国債を格下げをするという歴史的な事態に発展)の対応に追われる一方で、新興国市場ではガバナンスと経済の枠組み強化が奏功し、より強固な財政収支や健全な債務対GDP比率を維持しています。
このようなマクロ経済および地政学上の変化を背景に、約10年間日陰の存在だった新興国市場が再び脚光を浴び、グローバル投資家に説得力のある成長ストーリーを提示しています。以降では、足もとの環境変化が生み出している新たなトレンドの中から、市場の変化や戦略的な取り組みから恩恵を受けている地域をご紹介します。
トランプ大統領の予測不能な通商政策と米連邦準備制度(FRB)に対する同氏の批判は、米ドルの信頼低下につながり、世界的な「安全資産」としての米ドルの地位は疑問視されるようになりました。主要6通貨に対する米ドルの強さを示すドル指数は、インフレ上昇に加え、議会が長年の債務問題をさらに悪化させるのではないかという懸念から投資家が米ドルを手放し始めたことにより、2025年上期(1-6月)で約10%下落しました。
足もとの米ドル安は新興国市場全体にとって好材料となっていますが、特にブラジルと南アフリカはその恩恵を大きく受けています。歴史的に不安定な為替レートに悩まされてきたこれらの地域では現在株価が上昇しており、グローバル投資家にとってより魅力的な投資機会を提示しています。
また、過去10年で最高水準に達したCSI 300指数の配当利回りは、中国本土の企業が定期的な配当を重視するようになっていることを表しており、経済成長が持続可能な段階に移行し始めたことがわかります。この配当増加と自社株買いの加速は、規律ある財務管理を通じて投資家への信頼を高めようとする企業の明確な転換を示しています。
中国が変革を遂げていく中、グローバル投資家が求める水準の収益性やガバナンス基準に整合しながら、戦略的な先見性と財政規律を組み合わせることができるかが、今後の中国市場の発展に大きな影響を与えるでしょう。
企業改革の動きは中国だけでなく、韓国でも起きています。コーポレート・ガバナンス改革を通じて、長年の課題である「コリア・ディスカウント」を解消するための取り組みが進められています。韓国が掲げる「バリューアップ」プログラムは、日本の改革を取り入れたもので、株式保有構造の簡素化、配当支払いの増加、自社株買いの拡大などを通じて、より多くの人々が株式市場にアクセスすることで、経済成長の恩恵を享受できるようにすることを目指します。この改革は時間を要するものの、韓国と他のアジア株式市場のバリュエーション格差の縮小につながることが期待されています。
新興国市場の顕著な特徴はその多様性です。各国ごとにばらつきがあるため、全体では分散効果が発揮され、関税などの外部要因や一部地域では景気の低迷が見られるものの、二桁台のリターンを達成しています。特に足元では、南アフリカの金鉱株銘柄の寄与が大きく、同国のセクター構成が株式の力強さと底堅さに反映されています。
年後半に入り、新興国市場は、(多少の慎重さは求められるものの)良好なモメンタムを維持しています。グローバルな金融ショックにより、各国の株式市場や政治経済に様々な動きが見られる中、銘柄選別に優れた投資家にとって、ダイナミックなボトムアップの機会を活用する理想的な環境を生み出している、と私たちは考えています。
一方で、世界経済の短期的見通しは改善していますが、米国債市場と米ドルの長期的展望には陰りが見え始めています。その結果、知的資本や成熟した資本市場、起業家精神といった米国例外主義は依然として健在ではあるものの、米国市場はもはや唯一の選択肢ではないと言えるでしょう。
世界情勢が変化する中で、新興国市場は米ドル建て以外の資産を模索する投資家に魅力的な分散投資の機会を提示しています。米ドルのバリュエーションはピークに近づいているかもしれず、このような状況においては、市場の上昇を活用してポートフォリオのグローバル化を進めることが重要であると、私たちは考えます。米国集中からのシフトは、グローバルポートフォリオ戦略へ舵を切ることの重要性を意味しています。グローバル市場の潮目が変わる中、ポートフォリオ耐性とリターンの向上に果たす新興国市場の役割はより重要になっています。
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