株式およびマルチアセット ‘25年第4四半期見通し

20 分間で理解する 25年10月15日

裸で泳いでいるのはだれか?

  • 最近のAI関連銘柄の活況ぶりがAIバブルの懸念を高め、一部の投資家は株式市場がピークに達したのではないかとの思惑を強めています。
  • 今のところ、リスク資産のけん引役である企業業績について目立った問題は見当たりませんが、引き続き注意深く見守る必要があります。また、関税の問題はもはや主要なテーマではないかもしれませんが、影響を無視することは出来ません。米国の信用不安の影響も今のところ限定的ですが、引き続き注視が必要です。
  • 市場の一部に過熱感や過大な期待が生じていることに疑いの余地がありませんが、株価指数の銘柄集中度が依然として高いことは、多くの場合ほんの一握りの銘柄が指数の上昇を支えていることを表しています。裏を返せば、大幅な上値余地のある銘柄が多数存在すると言えます。
  • 重要なのは、結論が誰の目にも明らかな時(例えば、「今はバブル?」という問いの答えが「もちろん!」であるような場合)こそ、異なる見解を持つ人やその理由に耳を傾けるべきです。
  • 裸で泳ぐ人が常にいる一方で、潮が引いたときに水着をしっかりと身に着けている人も、少なからずいるものです。

ファビアナ・フェデリ
CIO、株式&マルチアセットおよびサステナビリティ投資

深掘りし、有望銘柄を見極める

ウォーレン・バフェット氏は、「潮が引いて初めて、誰が裸で泳いでいたのかが分かる」という名言を残しています。

世界のAI大手企業間の相互依存度を助長している、最近のAI関連銘柄の活況ぶりは、ドット・コム・バブルの記憶を彷彿とさせます。投資家の頭をよぎるのは、AIバブルに直面しているのではないかという問いでしょう。それに続く質問は、株式市場は驚異的な上昇を経てピークに達したのではないか、ということかもしれません。しかし私たちは、状況はさほど単純ではないと考えています。

マクロ経済や地政学的な不透明感が続く中、投資家には引き続き「危機疲労」の様子が見られます。頻発する国際紛争や政治的ショック、また政策の変更などが続く状況下にあっても、投資家のリスク資産に対する見方は依然として楽観的です。これまでのところ企業業績には目立った問題は見られず、マクロ経済や地政学上の問題がリスク資産に持続的な悪影響を及ぼす状況に陥っていないため、市場の底堅さは妥当だと思われてきました。しかし、「危機疲労」が容易に「慢心」へと変わるリスクもあります。

前記の通り、現時点で企業業績に関する目立った問題は見当たりませんが、関税が業績に及ぼす影響は、まだ完全には現れていません。市場の関税に対する関心が後退したとは言え、影響が無くなる訳ではないのです。また、米国で最近発生した信用不安の影響や波及効果も今のところは限定的とみられますが、警戒を緩めるべきではありません。

そのほか注視すべき潜在的な不安定要素としては、不透明な政治情勢、中央銀行の独立性、高水準の政府債務(特に米国)、マクロ経済指標の入手可否や信頼性に対する懸念、株価指数構成銘柄の集中度の高さなどが挙げられます。

市場全体を一括りに捉えると、最悪の長期リターンに見舞われかねないことを私たち投資家は知っています。2024年末までの20年間において、日次リターンの上位30日を除いただけで、MSCIオールカントリー・ワールド指数の年率トータルリターンは8.2%から1.2%に、S&P500指数は10.4%から1.3%に下落します。1 重要な点は、こうしたパフォーマンス上位の日々は、往々にしてパフォーマンスが下位の日々の直後に訪れているという事実です。すなわち、市場が激しく変動する中で取引タイミングを見極めることは困難なのです。

M&Gの株式&マルチアセット・チームは、Al関連の設備投資や市場の集中度、また好業績が期待される企業が市場予測を達成できるかどうか、といったテーマについて活発に議論しています。

市場の一部に過熱感や過大な期待が生じていることには疑いの余地がありません。M&Gのアジア投資チームが指摘するように、中国における多くの半導体企業はまだ成長の初期段階で商業的な成功に至っていないにもかかわらず、バリュエーションは非常に高まっています。さらに韓国と台湾では、目先の旺盛な需要の恩恵を受けている中堅AI企業の多くが、長期的な競争優位性をほとんど持ち合わせていません。

一方で、株価上昇余地のある企業も依然として存在します。AIの活用により恩恵を受ける様々なセクターのサービス・プロバイダーやその他のAI関連企業はその一例です。M&Gのテクノロジー投資チームは、勝ち組と負け組の見極めには、厳格なデューデリジェンスが必要だと言います。「実際の買い手はだれか?」、「テクノロジーを大規模に利用しているのはどの企業か?」、「どう言った業務フローが変化しているのか?」といった質問をデューデリジェンスで問う必要があります。

中には、業績の直接なけん引役がAIではないために、単純に「AI至上主義」の波から取り残されている優良な企業も存在します。

異なる意見に耳を傾ける

経験上、こうした局面においてこそ、より詳細な分析を行う必要があります。運用会社にとっては次の二つの要素が特に重要です。一つ目は、企業の実力が過大評価されていないかを見極めるために、適切な調査能力と知識を保有していること。二つ目は、年齢や性別、文化的または社会的バックグラウンドが異なるメンバーによる、多様な視点を持つチームを構築することです。結論が誰の目にも明らか(例えば、「今はバブル?」という問いの答えが「もちろん!」であるよう)な時こそ、異なる見解を持つ人を探し、そのベースとなる考え方に耳を傾ける必要があります。

“結論がほとんど自明に思えるようなときこそ、異なる意見を求め、違う考え方の人を探すべきだ。“

以降では、M&G株式&マルチアセット・チームが、様々な市場や資産クラスで行ってきた投資判断と今後も上値余地があると考えられる投資機会について解説します。

アロケーションの観点では、私たちは、マルチアセット・ポートフォリオにおける株式の比率をほぼ中立に維持し、パフォーマンスの強さが際立った分野については投資比率を引き下げています。

ただし、こうした配分比率の「引き下げ」は、ごく一部にとどまっています。多くのお客様から「株式市場のバリュエーションはピークに達したか」というご質問を頂きます。確かに、今年の企業業績の伸びは必ずしも株価の大幅な上昇に追い付いておらず、世界の主要市場の多くでバリュエーションが10年前の水準を上回っています。しかし多くの場合、こうしたバリュエーションの上昇は、ほんの一握りの銘柄によって引き起こされています。株価指数の銘柄集中度は依然として高く、例えばS&P500指数の場合、時価総額上位23銘柄で指数全体の半分のウェイトを占めています。またFTSE全株指数では16銘柄、MSCIアジア太平洋(除く日本)指数では35銘柄で各指数の半分のウェイトを占めています。2

ただし、バリュエーションの上昇は一部の銘柄に限られており、依然として多くの銘柄には大きな上昇余地が残されている点は、ポジティブな材料と言えるでしょう。少数の巨大企業以外の銘柄に注目しているのは私たちだけではありません。リターンの分散は改善傾向にあります。2020年以降、MSCIオールカントリー・ワールド指数の構成銘柄の価格分散は、短期的な下落局面を除き、過去10年の中央値を一貫して上回っています。また、マグニフィセント・セブンの話題ばかりが目立つS&P500指数でさえ、年初来で見ると113銘柄がマグニフィセント・セブンのリターンの中央値を上回っています3

このようなリターンの分散は、アクティブ投資家に投資機会をもたらします。そのため私たちは、引き続きセクターや国よりも個別銘柄の選定に注力しており、欧州やアジアなどの米国以外の市場に有望な投資機会を見出しています。ただし韓国と中国に関しては、最近の株価急騰を受けて一部のポジションを縮小しました。

欧州では、フランスの政治的混乱や期待外れに終わった決算シーズン、さらにインフラ投資が進んでいないことなどを背景に、大幅な上昇相場は小休止しています。しかし、景気循環株の急騰後は、出遅れた多くの優良銘柄の投資機会が出てきています。ドイツのインフラ支出実施の期限が迫るにつれて、欧州市場に新たな追い風がもたらされる可能性があります。アジアでは、バリュエーションが大幅に低下した消費関連の優良銘柄が多数見られたため、過去数週間にテクノロジー・セクターの「勝ち組」銘柄のポジションを一部縮小し、厳選した消費関連銘柄を買い増しました。

米国を含む世界全体では、AI関連のテクノロジー銘柄を引き続き選好しているほか、これまで長期にわたりアンダーパフォーマンスが続いたヘルスケア・セクターにも、投資機会を見出しています。AI関連ならどの銘柄でも良い訳ではなく、バリュエーションの上昇にはファンダメンタルズの裏付けが必要です。現時点では、AI関連のサービス・プロバイダーの一部に妙味があると考えています。

債券については、幅広い地域分散を維持しており、特に新興国の現地通貨建て債券を選好しています。一部の地域で実質利回りが上昇していること踏まえ、固定利付き債およびインフレ連動債を保有しています。

不透明なマクロ環境下では、異なる資産クラス間および資産クラス内での分散投資こそが、リターンの優位性につながると同時に、底堅いポートフォリオを構築するための最善策であると考えます。

その良い例が、市場の下落局面においても底堅さを示してきた資産クラスの一つである「転換社債」です。ドット・コム・バブル崩壊時(2000年~2001年)、地政学・マクロ経済の懸念上昇時(世界金融危機や「解放の日」など)、あるいは突発的な不測事態の発生時(新型コロナなど)などの市場の下落局面で、転換社債は債券に元来備わっている下値抵抗力による保護と、株式部分による上昇に支えられ、下落局面よりも上昇局面をより多く捉えることで、株式市場全体をアウトパフォームしてきました。

市場上昇期には、裸のまま泳いでいる人が常にいます。しかし、潮が引いたときに水着をしっかりと身に着けている人も少なからず存在するものです。

読者の皆様にとって、本レポートが興味深いものとなれば幸いです。

ファビアナ・フェデリ

CIO、株式&マルチアセットおよびサステナビリティ部門

1 Source: M&G Investments, Bloomberg. Data is total returns in USD over a 20-year period through 31 December 2024.
2 Source: M&G Investments, LSEG DataStream, 30 September 2025
3 Source: M&G Investments, Bloomberg, 30 September 2025
 

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