株式
20 分間で理解する 25年1月15日
Fabiana Fedeli,
Chief Investment Officer,
Equities, Multi Asset and Sustainability
私は読書が好きですが、市場はもっと好きです。毎年年末になると、ノートパソコンに最新の市場見通しレポートをいくつか保存し、休暇中に(夫には嫌がられますが)それらを読むのを楽しみにしています。今年は、レポートのエグゼクティブ・サマリーを見る前から、取り上げられているトピックを容易に推測できました。トランプ関税は米国やその他の国々にとって何を意味するのか、中央銀行はどう動くのか、金利は長期間高止まりするのか、欧州の弱体化と中国のさらなる弱体化を背景に米国の例外主義と株式市場のアウトパフォームは続くのか、などです。
大局観に触れた後、ほとんどのレポートは2025年の市場見通しに移ります。まず、債券を取り上げます。確かに、金利上昇と国債の供給(またはそれに対する懸念)はイールドカーブに影響するので、債券を取り上げるのは妥当と言えるでしょう。
次に株式がきて、私は一瞬考えます。経済の強弱で株式の投資機会が本当に変わるのでしょうか。確かにある程度は影響がありますが、多くの人が考えているほどではないでしょう。我々の見解では、マクロ経済の成長と株価動向の相関関係の理解は簡単ではなく、その理解を誤るとリターン創出の機会に重大な悪影響が及ぶ可能性があります。
2024年の株式市場を見てみましょう。世界の主要市場で最もパフォーマンスが良かったのは、米国ではなく中国でした。ハンセン中国企業指数のトータルリターンは、香港ドルベースで31.2%、米ドルベースで32.0%でしたが、米国ナスダック総合指数のトータルリターンは29.6%でした。昨年、中国経済は、おそらく世界の主要国の中で最も弱い状況にあったにもかかわらず、です1。
次にドイツに目を向けると、2024年のDAX指数のトータルリターンは、ユーロベースで18.9%、米ドルベースで11.7%でした。米国S&P500指数の25.5%には及びませんが、「ヨーロッパの病人」と呼ばれる経済としては悪くない数字です。なぜこのようなことが起きたのでしょうか。それは、DAX指数を構成する40銘柄のうち13銘柄が、ユーロベースで20%超のリターンをあげたためであり(米ドルベースでは12銘柄)、これらの銘柄が指数全体のパフォーマンスをけん引しました2。
イタリアとスペインの株式市場も、それぞれユーロベースで18.9%、米ドルベースで11.7%のトータルリターンを達成しました(米ドルベースリターンの低さは足下の米ドル高による)3。興味深いことに、両市場ともリターンの3分の1強が配当によるものでした。これは、次の四半期レポートで取り上げる価値のあるトピックかもしれません。
こういった経済成長と株式市場のリターンの不一致は、2024年に限ったことではありません。下掲のグラフは、GDPデータが取得可能な国の過去5年間における実質GDP成長率と、その国の株式市場の年率リターンの関係を示しています。
株式市場のリターンは、比較を容易にするため、米ドルベースで表示されています。一見しただけでも、株式市場のリターンとGDP成長率の相関性が低いことが分かります。GDP成長率が低い一部の国の市場が比較的良好なパフォーマンスを示す一方で、GDP成長率が高い国の中でパフォーマンスが低調な市場もあります。R2値も同様の傾向を示しており4、同期間のGDP成長率によって説明できる株式市場のパフォーマンスの差異は、僅か1%未満に過ぎない、という結果になっています。
その理由は?
株式市場は、企業収益とそれに対する期待、そしてそれらが既に株価に織り込まれているかどうかによって変動します。したがって、マクロ経済成長は、最も直接的には企業収益の成長という形で株式市場のパフォーマンスに影響を与えます。M&Gのマルチアセット・チームが、マクロ経済成長が株式市場に与えるインパクトが弱い理由について探ったところ、3つの重要な要因が浮き彫りになりました。
第一は、タイミングです。マクロ・データは、そのほとんどが過去を振り返るものですが、株式市場は将来の期待に基づいて動きます。
第二に、正確性です。マクロ・データは収集が非常に難しく、頻繁に修正されます。第三に、複雑さです。マクロ・データは単独で存在するのではなく、他のデータと複雑に結びついているため、他の要因が及ぼす影響は単純ではありません。例えば、2024年1月の時点では、米国の政策金利が20数年ぶりの高水準となっており、その影響で米国経済が打撃を受けると予想するのは至極自然でした。しかし、この予想は誤りでした。
元ファンドマネジャーの視点から、私も4つ目の理由を付け加えておきたいと思います。多くの企業は、比較的劣悪なマクロ環境下でも収益を伸ばすことができます。M&Gのグローバル投資チームが指摘するように、収益の伸びは、企業が実際に事業を展開する市場(当該企業の上場国とは異なる場合がある)の状況に依存するだけでなく、製品の適性や革新性、また品質、さらに事業とバランスシートの強さや効率性、そして最終的には強力な経営陣にも左右されます。もちろん、マクロ動向は常に考慮すべきですが、株式市場のパフォーマンスに関する一般的かつ包括的なバロメーターと捉えるべきものではありません。
その一例が、昨年の消費関連銘柄のパフォーマンスです。M&Gの消費セクター調査チームは、2024年を通じて、特に低所得世帯において、インフレと金利上昇を背景に家計がひっ迫していた、と指摘しています。このような中、消費意欲の減退を予想するのはもっともなことでした。しかし実際には、消費者がより選別的な消費行動を取るようになったため、多くの企業がその恩恵を享受しました。
1ドルショップのダラー・ジェネラルとダラー・ツリーが2024年に時価総額の40%以上を失った一方で、ウォルマートは、価格競争力や品ぞろえ、さらに利便性向上への投資を実施し、より幅広い消費者の共感を得る戦略が奏功したことで、市場シェアを拡大し、売上高を伸ばし、収益性の改善を推進しました。この結果、同社の株価は2024年に72%上昇しています5。
英国では、マークス・アンド・スペンサーが、消費の低迷という逆風に打ち勝ちました。魅力的な商品を手頃な価格で提供し、また利便性の高いオムニチャネル(実店舗とECサイトの連携)による流通を活用することで、市場シェア拡大と売上および収益の成長を達成し、株価は2024年に39%上昇しました6。
そして、破壊的イノベーションと新市場の創造から生まれる構造的成長もあります。代表的な例がAIです。M&Gのテーマ型テクノロジー投資チームは、卓越した製品やサービスを通じて、イノベーションが、必ずしも経済全体の成長とは関係なく収益を生み出していることを説明しています。
もちろん、株式市場は短期的にはマクロ・データに反応します。例えば、1月第2週の終わりに米国で堅調な雇用統計が発表されると、金利上昇への懸念が強まり、米国株式市場は下落しました。しかしこの株式市場は、ちょうど1年前に「長期わたる高い金利水準(“higher for longer”)」という金融政策スタンスに対する不安を乗り越え、2年連続で20%以上のリターンを達成したのと同じ株式市場なのです。マクロ・データに対する市場の無条件な反応は、アクティブ投資家に投資機会をもたらします。
さて、マクロ経済が重要ではないと皆さんに納得してもらえたでしょうか。そうではないことを願っています。なぜなら、経済環境が弱い中で株式市場が堅調なパフォーマンを示した例は数多くあり、マクロ経済は将来の株式市場のパフォーマンスを示す指標にはほど遠いと考えてはいるものの、マクロ経済は依然として株式市場のリターンに影響を与える可能性があるからです。このようなことが起きるのは、マクロ経済の動向が企業の事業および財務状況に具体的な影響を及ぼす場合、もしくは影響を及ぼすことが予想される場合です。
フランスを例に挙げましょう。2024年のCAC40指数のトータルリターンは、現地通貨ベースでは期待外れの横ばい、米ドルベースでは6.0%の下落となりました。法人税などの増税や深刻化する財政赤字を穴埋めするための公共支出削減などに対する懸念が、中国と自動車市場における継続的な消費低迷と相まって、指数を構成する多くの企業の利益成長見通しに疑問が生じました。実のところ、2024年に20%以上のリターンを達成した指数構成銘柄もいくつかありました(正確には、現地通貨ベースで9銘柄、米ドルベースで6銘柄)。しかし、指数全体をプラス圏に押し上げるほどの銘柄数や上昇率ではありませんでした。もちろん、我々は、アクティブ投資家として、投資する銘柄を選択できる立場にあるため、指数のパフォーマンスはポートフォリオのリターンにそこまで影響を及ぼしません。
マクロ経済が株式市場に与えるもう一つの影響は、間接的に生じる為替の影響です。ぜい弱なマクロ環境、財政健全性への懸念、さらに金利差が為替レートに大きな影響を与え、為替がリターンに影響を及ぼします。例えば最近の日本の例でみると、2024年のTOPIXのトータルリターンは日本円ベースで20.4%でしたが、米ドルベースでは7.9%でした7。
もちろん、M&Gの日本株式投資チームが指摘するように、2024年にはアクティブ投資家の投資対象となり得る好パフォーマンスの銘柄が数多く存在しており、MSCIジャパン指数構成銘柄の約4分の1が、米ドルベースで25%以上のトータルリターンを達成しました8。
株式投資戦略への影響は?
M&Gのインパクト株式部門の責任者が指摘するように、米国の例外主義の裏側には、欧州は絶望的であるというコンセンサスがあるようです。確かに、欧州のマクロ経済の状況はエキサイティングなものではありませんし、AIのイノベーションも米国の方がはるかに進んでいます。しかし、特定の国や地域のGDP成長率が株式市場の原動力となることはまれであり、また欧州は、世界的なリーダー企業から特定の分野で支配的な地位を占めるニッチ・プレーヤー、さらには構造的成長を遂げる地場企業まで、経営が順調で守りも強固な企業に事欠きません。我々は、弱いセンチメントとバリュエーションの低さを利用し、資本財、生活必需品、素材など、様々なセクターで投資機会を見出してきました。
また、アジア市場にも、依然としてミスプライシングによる投資機会が豊富に存在しています。米国金利高止まりの悪影響を懸念する東南アジア市場には、構造的かつボトムアップの成長機会から追い風を受ける優良企業が数多く存在し、1桁台後半の高配当利回りで割安に取引されている銘柄もあります。同様に、アジアの他の地域でも、トランプ関税への懸念から多くの輸出企業の株価が急落しています。しかし、そのような企業の中には、サプライチェーンを中国から他国へ変更したり、また米国内での原材料供給能力を増強する例もあり、市場の懸念を背景に割安となったこれらの銘柄は、魅力的な上昇ポテンシャルを秘めていると見ています。
最後になりますが、日本株式に対するM&Gの長期的な見方に変更はなく、リスク対比リターンの面で魅力的な長期の投資機会を提供していると考えています。日本株式のバリュエーションは、本質的価値(イントリンジック・バリュー)に対して割安な水準にあり、企業行動の変革により、「自助努力」が収益成長と株価上昇を支えると確信しています。2025年の日本について1つ予測するとすれば、M&Aとアクティビストによる活動件数が史上最高を更新する、ということになります。
もちろん、我々は米国市場を無視しているわけではありません。AIエコシステムの恩恵を受ける銘柄を含め、イノベーションの視点とテクノロジーを選好しています。ただし、寡占化が進み少数の企業が市場をけん引する状況下、メガキャップ銘柄は敬遠し、幅広いセクターや最終市場において、バリュエーション面で妙味の高い銘柄への投資機会を見出しています。足下では、一般消費財、ヘルスケア、住宅、銀行などの銘柄へ新規投資を行っています。
以降では、M&Gの株式とマルチ・アセット投資チームが、それぞれの投資対象にマクロ経済がどのような影響を与えた(あるいは与えなかった)かについて解説し、マクロ経済の成長と株価動向の相関関係の理解が簡単ではない中で、現在どのような投資機会を見出しているかについても触れます。
皆様が、本レポートを楽しんで下さり、また願わくば興味深くお読み頂き、2025年が実り多い1年になることを祈念しております。
ファビアナ・フェデリ
株式部門CIO
マルチ・アセットおよびサステナビリティ投資
投資元本は変動し、投資から得られる利益は上昇することもあれば、下落することもあり、お客様の投資元本は保証されません。
本項に記載されている内容は現時点におけるM&Gの見解であり、投資に関する推奨、助言に該当するものではなく、また将来の状況やパフォーマンスを予測するものではありません。
当資料は、一般的な情報提供を目的としており、金融商品取引業登録に基づく業務又は当社関連会社が組成するファンドの持分等の勧誘を目的としたものではありません。