プライベート・アセット
9 分間で理解する 24年12月5日
ABSは、原資産の集合体である資産プールを裏付けとするクレジット商品(債券)です。通常、原資産は住宅ローン、消費者向けローン、中小企業向けローンなどの類似ローンで、定期的な支払利息を生み出します。
ABSは証券化と呼ばれるプロセスを通じて組成されます。原資産は倒産隔離された特別目的事業体(SPV)に一括してプールされた後に、銀行や住宅ローン貸付業者などのスポンサーが、資産プールを裏付けとする新たな債券を投資家向けに組成・発行します。債券は、案件の資本構造における弁済順位を表す複数の「トランシェ」(通常シニア、メザニン、ジュニア、残余(エクイティ))に分類されます。
資産プールから生み出されるキャッシュフローは、「ウォーターフォール」方式を通じて分配されます。すなわち、まず弁済順位が最も高いシニア/AAA格トランシェが支払いを受け、シニア債保有者への支払いが完了すると、その下のトランシェの投資家が順に支払いを受けることになります。一方、損失はトランシェの下位から上位の順で負担されます。すなわち、まず最下位であるジュニア・トランシェが損失を負担し、ジュニア・トランシェだけで損失をカバーできない場合に、はじめてシニア・トランシェが損失を負担することになります。
欧州ABSは2007年~2008年の世界金融危機の震源となった米国のサブプライムローンと同じである、という誤解がありますが、これはまったく事実ではありません。下の図表は、すべてのトランシェの1年ローリング・デフォルト率を欧州ABSは青色、グローバル(主に米国)ABSは緑色で示しています。世界金融危機におけるピーク時のデフォルト率は、グローバルABSが12%だったのに対して、欧州ABSは2%をわずかに上回る水準にとどまりました。この数値は資本構造全体を反映したものであり、欧州ではデフォルトに陥った銘柄の数が比較的少数で、そのほとんどが投資不適格債、周縁国の債券、あるいはCMBS(商業不動産担保証券)でした。我々が知る限り、AAA格の欧州RMBS(住宅ローン担保証券)や消費者ローンABSがデフォルトに陥ったケースはありません。さらに、M&Gの投資適格ABSファンドでデフォルトが発生したことは、過去一度もありません。
特にRMBSに注目すると、米国RMBSのデフォルト率が平均4.7%で推移しているのに対して、欧州RMBSのデフォルト率は0.3%にとどまっています。主な原因は、両市場の構造的な違いにあります。米国では、世界金融危機の局面では「販売するために組成する」というビジネスモデルの下、銀行が信用リスクをまったく保持せずに、販売目的でABSを組成していました。これは、結果的に利害の不一致と甘い引受基準につながりました。
一方、欧州では、オリジネーターは欧州証券化規制の下で各案件の5%を自己保有することが義務付けられています。オリジネーターと投資家の利害が一致することで、より厳格な引受基準が設定されるのです。さらに、米国と欧州では破綻に関する制度が大きく異なります。米国では、不動産所有者が住宅ローンの返済に窮する場合、不動産価値が残存住宅ローンの価値をカバーできなくても、不動産所有者への遡及権なしに不動産の所有権を住宅ローン貸付業者に譲渡することができます。これは欧州では当てはまらず、このシナリオでは貸付業者が不動産所有者への遡及権を有します。このため、欧州では世界金融危機におけるRMBSのデフォルト率が総じて米国を大幅に下回る結果となり、米国サブプライムローンのような不良債権化は発生しませんでした。
欧州ABS市場は米国を凌ぐパフォーマンスを上げているにもかかわらず、現在のスプレッド水準は米国を上回っています。
こうした状況の背景には、世界金融危機を契機とした米国と欧州の金融当局のABS規制への対応の違いがあります。前述の通り、米国では、パフォーマンスが欧州に劣後するにもかかわらず、世界金融危機後、スプレッドは欧州よりも早くタイト化しました。一方、欧州では格付けが最も高いAAA格のABS債券でさえも、保有するにあたって高い資本コストが一部の投資家に課せられたため、タイト化にははるかに長い時間がかかりました。
以上を踏まえると、欧州ABSで社債を上回るリターンが得られるのは、高い信用リスクを反映しているからではなく、テクニカルな性質によるものであり、それは以下のような要因によって説明できると考えられます。
今後数四半期で、現状に大きな変化が起こるとは思いませんが、銀行が量的緩和(QE)局面で実施したように、欧州中央銀行(ECB)から低利で資金を調達することはもはや不可能です。このため、欧州ABS市場の規模は現在の推定約5,000億ユーロから大幅に拡大する可能性があるとみています。
ABS市場の流動性はここ数年間で大幅に向上しました。M&Gは2023年に40以上のカウンターパーティーと取引を行い、過去数年間の年間取引額は、英国ABSだけでも30億ポンドを上回っています。こうしたさまざまな要因を考慮すると、欧州ABSには超過リターン獲得のための中期的な投資機会が存在するとみています。
さらに、欧州ABSは伝統的な債券や他の資産クラスとの相関が低いことが示されています(下の図表を参照)。これに加えてボラティリティも低いため、ABSは全体的な資産配分を考慮する上で魅力的な配分先となっています。
相関関係(4月16日以降) | 国債 | 投資適格社債 | ハイイールド社債 | 新興国ソブリン債 | 世界株式 | 欧州ABS |
---|---|---|---|---|---|---|
国債 | 1.00 | |||||
投資適格社債 | 0.75 | 1.00 | ||||
ハイイールド社債 | 0.35 | 0.85 | 1.00 | |||
新興国ソブリン債 | 0.45 | 0.79 | 0.84 | 1.00 | ||
世界株式 | 0.29 | 0.65 | 0.78 | 0.69 | 1.00 | |
欧州ABS | 0.10 | 0.53 | 0.69 | 0.54 | 0.41 | 1.00 |
年率換算ボラティリティ | 5.34% | 5.02% | 7.43% | 9.52% | 14.13% | 2.50% |
ABS市場は、過去10年間のどの年をとっても、格付けの安定感という点で社債よりも優れていることが示されています。これは、借り手の債務返済に伴いローン・トゥ・バリュー(LTV)比率が低下するという住宅ローンや消費者ローンなどの裏付け資産の償却性によって裏付けられています。ABSと社債の格下げ件数に対する格上げ件数の比率の推移は下記をご参照ください(1.00倍という数値は、ある期間における格上げ件数と格下げ件数が等しいことを意味します)。
欧州ABS | 欧州金融債 | 欧州非金融債 | |
---|---|---|---|
2012 | 0.23x | 0.10x | 0.29x |
2013 | 0.31x | 0.34x | 0.43x |
2014 | 2.26x | 1.07x | 1.08x |
2015 | 2.58x | 2.35x | 0.96x |
2016 | 4.90x | 1.47x | 0.64x |
2017 | 5.80x | 1.34x | 0.93x |
2018 | 8.73x | 2.71x | 0.99x |
2019 | 16.55x | 2.37x | 0.80x |
2020 | 1.93x | 0.29x | 0.15x |
2021 | 19.55x | 0.41x | 1.10x |
2022 | 21.19x | 0.73x | 0.65x |
2023 | 10.37x | 1.59x | 0.87x |
YTD 2024 | 7.08x | 2.06x | 1.12x |
M&Gは、欧州投資適格ABSの信用リスク水準は、格付けが同等の他の債券と比較して、あるいは投資家が得られる利回りと比較して、低いと考えています。当資産クラスの安定性は、上記の格付けの安定性や運用実績にも表れていると思います。さらに、ABSは、主に消費者向けローンを対象とする資産クラスであり他資産との相関が低いため、ABSから得られる分散効果は、他の社債に比べて、魅力的であると考えます。
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