株式およびマルチアセット ‘25年第2四半期見通し

20 分間で理解する 25年4月17日

群衆心理の落とし穴

  • トランプ大統領による一方的な関税措置の決定や加速する市場変化に直面するなか、現在の環境下で幅広い市場ポジションを取ったり、事態の行方を予測しようとするのは愚かなことのように思われます。しかし、それを試みる投資家は多数います。
  • 関税が撤回されない、または少なくとも緩和されない場合、株式市場やクレジット市場に対するネガティブなセンチメントが再燃する可能性は高いと考えます。マクロ環境が不透明なときには、企業固有のファンダメンタルズに焦点を当てることが求められます。
  • 米国例外主義は、強力な知的資本、深淵な資本市場、起業家精神を育む文化という形で存続していますが、米国が安全な避難先という従来の考え方は疑問符を突きつけられているように感じます。
  • 世界経済は短期的な混乱状態にあり、それが新たな長期的な世界経済秩序につながる可能性が高いと思われます。米国からの撤退を完全に正当化するような投資の代替先はいまだに存在しませんが、ポートフォリオを分散し、レジリエンスを構築するための選択肢はあります。

Fabiana Fedeli,
Chief Investment Officer,
Equities, Multi Asset 
and Sustainability

帝国は崩壊するが、一日にして崩れるものではない

4月初頭に、トランプ大統領による関税措置が発表され、その後、方針が二転三転したのに伴い、我々はこの四半期レポートの発行を延期しました。背景にある、より多くの情報を収集することで、市場の重大局面に関するM&Gの最新の見解を読者の皆様にお伝えしたいと考えたからです。

投資家は年初時点では、企業や各国政府が第2次トランプ政権下の貿易戦争に対し、十分な準備を整えていると考えていましたが、その想定は外れました。発表された関税措置はその範囲と深刻さの点で予想を上回り、市場を慌てさせました。企業は、脱中国依存の中で意図的にサプライチェーンの多様化を慎重に進めてきましたが、ベトナムなどの新たな製造拠点も高い関税を課せられることが判明しました。

投資家として我々は、今後起こり得ると想定される範囲を設定し、その想定範囲外の市場ポジションがどこかを見つけることを目指しています。それが将来のアルファ獲得につながるミスプライシングの発見となるためです。しかし、今のところ180度異なる矛盾した結果となっています。なぜなら、それは少数の個人の決断、もっと言えばトランプ大統領の決断によるものだからです。ポジティブな面は、現在の不確実性が長引けば長引くほど、不確実性の幅が狭まることであり、ネガティブな面は、現在の不確実性が長引けば長引くほど、望ましくない結果に向かう可能性が高くなることです。  

本レポートの執筆時点では、報復措置を講じない国々を対象とする90日間の相互関税停止が発表されてから数日が経過しています。家庭用電子機器は関税対象から除外されることになり、医薬品と半導体についても、国家安全保障の観点から調査が開始されており、結果的に追加関税が課せられる可能性もあります。

株式や債券市場は「解放の日」以来、多くの局面をくぐり抜けてきました。株式市場は暴落した後、一部の国々が交渉に前向きに応じるとのニュースを受けて回復し、さらに90日間の関税停止が確認されたことで回復が一段と進みました。信用スプレッドも当初はワイド化しましたが、その後多少改善しました。関税発動が企業の利益やキャッシュフローに及ぼす影響を考慮すると、市場が下落したのは当然のことでした。企業はサプライチェ-ンと最終市場の再構築への対応を余儀なくされ、これがコスト基盤の上昇につながるでしょう。企業がコスト上昇を消費者に転嫁しようとすれば、最終需要は減少する可能性があります。

国債、特に米国債の動きは読み解くのが困難でした。というのも、通常であれば安全資産への逃避が米国長期債に有利に働くはずの環境の下で、米長期債が売り込まれたからです。証拠金取引のポジションカバーのために流動性を確保する必要があったのかもしれませんし、より投機的なレバレッジのかかったポジションの解消によるものだったのかもしれません。ただ、いずれにせよ、市場にとっては予想外の展開でした。英国債は、米国債と同じパターンをたどったのに対して、ドイツ国債は「不確実性の高い局面での利回り低下」という想定内のシナリオに沿った動きをしました。

米国債利回りの動きと米ドル安の動きを併せて考えると、米国が安全な避難先という従来の考え方は疑問符が突きつけられているように感じます。

問題はこれだけにとどまりません。市場はさまざまな面で進化しています。毎日マーケットの動きを追う職業に就いている人々にとって明らかに重要な変化は、市場の動くスピードが加速しているということです。

関税措置が発表される前でさえ、S&P500種株価指数の年初来高値からのドローダウンは、わずか3週間(2月後半から3月前半)でした。これは、1929年以来、8番目に速いペースで、1930年、1939年、2003年に匹敵するペースとなりました1。下落率は10%強とそれほど大幅ではなかったものの、非常にスピードが速かった点で注目に値します。4月7日には、取引開始前のE-mini株価指数先物の動きを受けて、S&P500種構成銘柄の時価総額は、ほんの数分間で約2.5兆米ドル膨らみました。

高度な取引システムの台頭や、個人投資家がスマートフォンで簡単に取引できるようになったこと、パッシブ戦略やクオンツ戦略のシェア拡大等が、市場の動きが加速している一因かもしれません。政策面のニュースもこの傾向を後押ししています。第2次トランプ政権は政策を急ピッチで進めているようにみえるからです。トランプ大統領は就任後85日間で125の大統領令を発令しました。これは、第1次トランプ政権の23、バイデン政権の39に比べると、驚異的な数字です。市場の動きが加速している背景にある理由が何であれ、多くの投資家が市場動向を予測するという不毛な試みをするのに伴い、群衆行動が台頭し、その行動はますます一貫性のないものになっています。

市場が揺れ動く中、私たちはアジアで顧客を訪問し、アジア以外の国々の顧客とは電話で会議をしました。会議のテーマと質問の多くは、「グローバル市場における米国の優位性は変化しつつあるのか。米国例外主義は終わったのか」ということでした。

世界経済は短期的な混乱状態にあり、それが新たな長期的な世界経済秩序につながる可能性が高いと、私は捉えています。帝国は崩壊しますが、一日にして崩れるものではありません。米国例外主義は、強力な知的資本、深淵な資本市場、起業家精神を育む文化という形で存続していますが、米国市場が唯一の選択肢というわけではありません。

市場はそうした現実に気づいたようです。米国資産に代わる投資先がないという世界的な考え方は徐々に揺らぎつつあります。米国からの撤退を完全に正当化するような代替投資先はいまだに存在しませんが、ポートフォリオを分散するための選択肢はあります。

米国の経済・財政の健全性は世界の他の国々に比べて悪化しています。米国が景気後退に陥る確率は大きく上昇しています。雇用市場の直近データは誤った安心感をもたらしましたが、企業の景況感や消費者の信頼感など先行きを示す指標は異なる状況にあります。最終的に景気後退へと向かいかねない悪化の兆候が既に現れ始めています。

4月初め、全米供給管理協会(ISM)が発表した新規受注指数は引き続き軟化傾向を示しました。中でも重要だと感じたのは、ISMサービス業調査委員会の委員長が直近の発表で、「調査回答者にとって関税に関する最大の懸念事項が 『事業の不確実性』 と 『長期的な契約を成立できないこと』 であった」と報告した点です。これは先行きが滑りやすい坂のようであることを示唆するものです。

また、ミシガン大学消費者信頼感指数も軟化し続けています。こうした指標をモニタリングし、それが経済活動に現れているかどうかを見極める必要があります。もちろん、トランプ政権がより明確な方針転換を打ち出せば、信頼感が好転する可能性もあります。しかし、関税が現在の水準に据え置かれる期間が長ければ長いほど、景気後退の可能性は高まります。

関税に関するポジティブなニュースがリスク市場のセンチメントを改善できることは証明されていますが、関税が撤回されない、または少なくとも緩和されない場合、株式市場やクレジット市場に対するネガティブなセンチメントが再燃する可能性は高いでしょう。現時点での不確実性は極めて高く、トランプ大統領の決断に左右されます。

マクロ経済環境が極めて不確実な市場では、ミクロ経済環境に注目することが最善の方策です。つまり、個別銘柄、事業の底力、ポジティブな要因による波及効果とネガティブな要因に耐える力に注目することです。現在のように至るところで底流が渦巻く市場も含め、いかなる市場でも勝者と敗者が必ず生まれます。

関税の影響を最も受けるのは、主にアジアのサプライチェーンに依存する輸出企業です。なぜなら、サプライチェーンを米国に移転することは、たとえ実行可能であったとしても長い時間と膨大な資金を必要とするからです。最終市場を移転することで他の企業との競争にさらされる企業もあります。これは、必ずしもセクターや国をより慎重に吟味するという意味ではなく、企業ごとに環境とファンダメンタルズを検証するという意味です。もちろん、関税の影響を受けにくい銘柄が相対的に多い国やセクターはありますし、他の要因によってもたらされるプラスの影響が関税によるマイナスの影響を上回るような銘柄もあります。

たとえば、欧州では、防衛支出の増加やドイツによる5,000億ユーロのインフラ基金設立の恩恵を受ける企業もあります。欧州経済は相互の結びつきが極めて強いため、財政支出の影響はドイツを超えて欧州全体に及ぶでしょう。また、ドイツのように健全なバランスシートを後ろ盾とする景気刺激策が生み出す効果は、政府債務が膨れ上がる世界では、決して小さくありません。

ウクライナにおける平和の展望は欧州企業に対する追加的な支援材料となり、制裁対象となっている炭化水素の供給再開とガス価格の低下につながる可能性があります。天然ガス価格は2022年のピークから低下していますが、ウクライナ情勢が深刻化してロシアがウクライナに侵攻する前年の2021年3月に比べると2倍の水準です。

最後に、欧州にとってもう一つの追い風が規制当局の論調の変化によってもたらされるかもしれないことも重要な点です。ドラギ前欧州中央銀行(ECB)総裁が発表した欧州の競争力強化に向けた報告書が、形式的な手続きや官僚主義の排除に向けた欧州委員会の迅速な行動を促すに至らなかったとしても、トランプ大統領がそれを実行するかもしれません。英仏海峡の反対側では既にこの方向に向けた措置が打ち出されています。英国では1月にブレグジット後の新たな金融枠組みの下で特定の資本要件が緩和され、イングランド銀行(英中央銀行)は英国の銀行に対する「報告負担」を軽減する意向を表明しています。

投資機会があるのは、欧州だけではありません。大幅な下落の動きが見られたアジアと米国でも、最近のハイテク株売りから新たなチャンスが生まれています。ハイテク企業の一部では、半導体銘柄や半導体製造装置銘柄を含め、長期的な見通しは依然として良好です。決算発表シーズンが始まるなか、企業は関税をめぐる不確実性を踏まえ、短期的な見通しについては保守的なガイダンスを示す可能性が高いため、アクティブ投資家にとってより多くの投資機会がもたらされるかもしれません。

新興国では、インド、特に内需セクターにチャンスがあるとみています。インドは国内売上高が全体の70%以上を占めるため、関税の影響を比較的受けにくい国です。

もちろん、米国が深刻な景気後退に陥れば、世界中で混乱が生じるのは言うまでもありません。また、米国債のイールドカーブの長期ゾーンで最近発生したボラティリティは多くの市場参加者を動揺させ混乱に陥れましたが、国債がマクロ経済の大幅な悪化に対する優れた保険であることに変わりはないと考えています。

株式と同様に、資産クラスの選別以上に重要なのが原資産の構成と分散です。M&Gは英国とドイツの国債を組み入れることで国債の分散を図っています。英国債は最近、確たる理由なく米国債と足並みをそろえた動きを示しています。ドイツ国債は、財政出動の発表時に利回りが上昇しましたが、依然として堅固なバランスシートを基盤としています。なお、米国債では、イールドカーブに沿って分散(5年、10年、30年米国債を含む)しています。

米国債は、特にイールドカーブの長期ゾーンでボラティリティが発生しましたが、米国のマクロ経済が大幅に減速した場合、米連邦準備制度理事会(FRB)は利下げで対応することを求められるでしょう。もちろん、これはインフレ率の穏やかな推移を前提としています。そうでない場合、FRBは社債や国債の買い入れを含め、コロナ禍の局面で講じた措置を再び導入する可能性があります。

現在の環境下で幅広い市場ポジションを取ったり、事態(およびそれに対する投資家の反応)を予測したりするのは愚かなことのように思われますが、多くの投資家がそれを試みています。我々は群衆が目的もなく右往左往し、増加するノイズに反応するのを注意深く見守り、そこから生じる固有の投資機会を活用します。これがお客様にサービスを提供する最良の方法だと考えます。  

今期のレポートでは、株式&マルチアセット投資チームが最近の市場ボラティリティに関する所見や魅力的な投資機会を引き続き見いだせる分野について述べています。

本レポートが投資家の皆様にとって、興味深いものとなれば幸いです。

ファビアナ・フェデリ

株式部門CIO

マルチ・アセットおよびサステナビリティ投資

1 出所:ブルームバーグ、M&Gインベストメンツ、2025年4月

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