プライベート・アセットへの分散が必要な理由

10 分間で理解する 25年3月27日

近年、多くの投資家がより高いリターンを求めて、プライベート・アセットに資産を振り向けるようになっています。しかし、プライベート・アセットには、ポートフォリオ分散という、おそらくリターン追求と同様に重要な特長があります。本稿では、プライベート・アセットが従来のポートフォリオ分散を超えた価値を提示することで、さらに投資家を惹きつけることができるのかを考察します。

歴史的には、バランスの取れたポートフォリオはその中核となる原則に基づいて構築されてきました。ボラティリティを管理するにはポートフォリオを分散し、株式と債券の両方の資産を組み合わせる必要がありました。その根拠となったのは、歴史的に株式と債券は負の相関関係にあり、つまりは互いに反対方向に動くため、どちらにも配分することでポートフォリオ内の収益のボラティリティを管理できるという考えでした。これは通常「60対40」ポートフォリオと呼ばれ、ポートフォリオの 60%を株式に、40%を債券に幅広く投資する方法でした。

2020年までの過去20年間、この負の相関関係はほぼ維持されていました。しかし、最近ではこの関係が崩れており、両資産クラスが負ではなく正の相関に動く傾向にあるようです¹。なぜこのような珍しい状況が生じたのでしょうか。従来の「60対40」アプローチは依然として有効なのかどうか、そして今こそ投資家が分散を確保するための代替手段(オルタナティブ)を見つけるべき時なのでしょうか。

新しい時代の到来?

投資のポートフォリオ、中でも年金基金は退職後の収入を提供する役割があるため、通常は安定したリターン特性を必要とします。過去20〜30年間、株式は比較的変動が激しく(上にも下にも)、対照的に債券は一貫して堅実ながら控えめなプラスの収益をもたらしてきました¹。変動が少ないという債券の特性は、ポートフォリオ全体のボラティリティとリスクを低減します。2022年は、ロシアのウクライナ侵攻と新型コロナウィルス感染症の拡大による世界的なサプライチェーンの混乱により、株式と債券の両資産が同時に下落するという非常に例外的な動きがみられました。

“金利の上昇は株式と債券の両資産にマイナスの影響を与える可能性があります”

しかし、2022年は、株式と債券の相関関係を導く上でインフレが果たす中心的な役割に焦点が当たった有益なケーススタディとなりました。世界的なサプライチェーンの混乱問題によりインフレが急上昇したため、2022年には両資産クラスが同時に下落しました。中央銀行は金利を引き上げることで対応しましたが、金利の上昇は株式と債券の両方にとってマイナスになる可能性があります。

債券と株式の相関関係を決定づける上でインフレがそれほど重要であるならば、どのようなインフレシナリオが株式と債券の正または負の相関への動きにつながり得るでしょうか。

  • の相関。インフレが抑制されている場合、焦点は経済の成長期待に向けられます。GDP 成長のサプライズは、上振れか下振れかを問わず、企業収益に影響します。たとえば、GDP が上振れした場合、企業収益への期待が高まるため、株式は上昇することが予想されます。ただし、GDP 成長が強まることでインフレが高まり、それに伴って金利も上昇する可能性があるため、債券価格は下落する可能性があります。金利が上昇すると、割引率が上昇するため、債券価格は下落します。この「成長主導のシナリオ」では、債券と株式の相関は負になります。
  •  の相関。上記とは対照的に、2022年のようにインフレ率が高く変動が激しい場合 、資産クラス間の相関の原動力は GDP 成長から決定的に離れ、インフレ期待に確実に向かいます。債券の元本とクーポンはどちらも名目価格で表示されるため、高インフレは債券にとってマイナス要因です。同時に、2022年に見られたように、高インフレは金利の上昇を招きますが、それは株価にとって良いニュースではなく、企業の借入コストを増大させ、新規投資を阻害します。この「インフレ主導」のシナリオでは、債券と株式の相関は正になります。

現在、変動が激しく高インフレの期間が続いており、株式と債券の従来の逆相関をもはや当てにできません。この場合、ポートフォリオの分散の欠如に対処するためにポートフォリオ内で他に配分できる資産は見つかるのかという疑問が生じています。

プライベート・アセットが救世主に

近年プライベート・アセットは、機関投資家の資金を惹きつけており、現在では資産配分の平均値は約12%に達しています(Aviva Private Markets Study、2024年)。個人投資家は、プライベート・アセットへのアクセスが限定的だったことや、流動性に関する懸念によって投資が制限されているため、資産配分の平均値はわずか5%(Bain、2023年)に留まっています。

“プライベート・アセットのパフォーマンスは、通常、株式や債券とは独立した動きを見せる”

しかし、プライベート・アセットは今やどの投資家にとっても無視できないほど大きくなっています。152兆米ドルの市場規模を持つ株式と債券のパブリック・マーケット(JP Morgan、2023年)に比べると、プライベート・マーケットは14.3兆米ドル(UBS、2025年)とはるかに小さいものの、市場拡大のペースでは、パブリック・マーケットの株式や債券より速く拡大しています。実際、Preqinはプライベート・マーケットが2033年までに2倍以上の30兆米ドルに拡大する可能性が高いと予測しています。

プライベート・アセットがポートフォリオ構築、中でも分散効果をもたらす役割を担っているのは、通常プライベート・アセットのパフォーマンスは、伝統的な株式や債券とは独立した動きをするためです。以下のグラフは、プライベート・アセットがこれら 2 つの資産クラス との相関が低い、または負であることを示しています(債券は米国債で代用)。

+1.0 の正の相関は、異なる資産が連動して動くことを示し、-1.0 の負の相関は、異なる資産が互いに独立して動くことを示しています。グローバル株式については、このグラフでは正の相関がみられるものの、比較的低めの相関となっているものもあります。しかし重要な点は、伝統的な株式のポートフォリオにおいて、プライベート・アセットへの資産配分が、パブリック債券と比較してより高い分散効果を示すかどうかです。データは、実際にはそうではないことを示しています。上場株式と米国債の相関は -0.04² で、グローバル株式とプライベート・アセットの相関よりもかなり低くなっています。

しかし、これは債券に関しては当てはまりません。図が示すように、すべてのプライベート・アセットは米国債に対して負の相関があり、それは上場株式と米国債の相関関係の-0.04 よりも低くなっています。このことから、既存の債券への配分を一部削減し、プライベート・アセットへのエクスポージャーをいくらか追加することで、既存の伝統的な株式と債券の両資産を持つポートフォリオの分散度合を強化できる可能性が高いことが示唆されます。

重要な注意点があります。プライベート・アセットと伝統的な債券または株式との低いあるいは負の相関の大部分は、混乱を招く市場イベント、または経済成長の低迷や不況期によって引き起こされた可能性があります。堅調な経済成長の期間が継続した場合、これらの相関関係はそれほど顕著ではない可能性があります。

プライベート・アセットにおける多様化

2つの主要資産クラスとの相関が低い、若しくはマイナスであるという分散効果をさらに際立たせているのは、プライベート・アセットが決して均質な市場の集合ではなく、実際には互いに低相関であるという事実です。

上の表は、異なるプライベート・アセット間の相関がプラスではあるものの、その絶対値は小さく、バランス型ポートフォリオの中でプライベート・アセットへの配分を行うことでリスク軽減のメリットがさらに高まることを示しています。

“プライベート・アセットは多様な戦略で構成されている”

プライベート・アセットが多様な戦略で構成され、様々な市場や経済の動向や出来事に敏感であることを考えると、この結論は驚くべきことではありません。 プライベート・アセットは、異なる時期に、それぞれが異なったパフォーマンスを示す可能性が高いと期待されるべきでしょう。

ポートフォリオ全体のリスクの引き下げのみならず、ポートフォリオ内で様々なプライベート・アセットを精緻に組み合わせるという行動は、多くの場合、ポートフォリオの投資目的によって決まっていきます。資産クラスには株式、クレジット、不動産、インフラなどが含まれるため、様々なプライベート・アセット間のウェイトは、投資家が資産の成長を優先するのか、インカム収益を優先するのかによって決まります。

投資目的

成長:

  • ベンチャーキャピタル
  • プライベート・エクイティ
  • 天然資源

インカム:

  • プライベート・デット
  • プライベート不動産
  • プライベート・インフラストラクチャー

追加リターンの可能性

バランス型ポートフォリオにプライベート・アセットを追加することによる分散効果に加え、プライベート・アセットは、さらなる魅力で投資家を惹きつけることができるでしょうか。 幸いなことに、その答えは「イエス」である可能性が高いと考えています。それは特に、プライベート・アセットがアクセス可能な経済や企業へのエクスポージャーを通じてもたらされるでしょう。

“プライベート・キャピタルは、より広範な経済にアクセス可能”

投資可能なユニバースが広ければ広いほど、ミスプライスを特定し、ポートフォリオのリターンを高める機会が増加します。 米国では、売上高が1億米ドルを超える企業の87%が非公開企業で、取引所には上場されていません(Capital IQ, 2023)。 従って、非公開企業への投資は投資ユニバースが限定的な上場企業よりも、より広範な経済にアクセスすることができるのことを意味します。

加えて、プライベート・アセットが主要なグローバル成長トレンドで重要な位置づけを占めていることも高リターンを達成する可能性の裏付け要因となっています。 これらは数年、数十年単位の成長トレンドであり、特に長期的な視点を持つ年金基金をはじめ、多くの投資家のポートフォリオの投資期間に合致するものです。 プライベート・アセットが恩恵を受け得るグローバル成長トレンドはいくつか存在します。

多くの政府が歴史的に前例のない水準の国家債務によって制約を受ける中、必要不可欠なインフラ投資が、民間部門に「外注」され、プライベート・キャピタルがインフラ整備の主導的な役割を担う必要が出てくることは、ほぼ確実です。 AIを筆頭に技術革命も加速していくと予想されますが、より小規模で革新的な「民間」企業がその最前線に立つ可能性が高く、社会のデジタル化はさらに進むでしょう。

多くの投資家は、プライベート・アセットがポートフォリオ分散やリスク低減に果たす役割に注目しているかもしれませんが、リターン向上のためのプライベート・アセットの活用も重要な点の一つです。 プライベート・エクイティや実物資産など、多くのプライベート・アセットへの投資は長期的な性質を有するため、その潜在的なリターン向上のプロファイルは、年金基金をはじめとする長期投資家にとってさらに魅力的でしょう。さらに、プライベート・アセットへの投資は非上場資産への投資であるため、伝統的資産への投資において起こりがちな、「時価評価」によって生じる短期的なボラティリティを懸念する必要もありません。

留意すべき点も…

プライベート・アセットをバランス型ポートフォリオに組み入れることによるメリットは明らかではあるものの、プライベート・アセット特有の特徴には留意すべき必要があります。

流動性

プライベート・アセットはその定義上、非公開な市場であり、取引所に上場されていません。 しかし、これはプライベート・アセットには流動性が全くなく、投資家が数年にわたって拘束されるということではありません。実際、プライベート・アセットの一部では、毎日取引が行われています。しかし、償還請求に応じるために保有資産をいつでも換金できるようにしたいのであれば、流動性は重要な要素となるでしょう。 しかしこれは、ポートフォリオの株式、債券、またはプライベート・アセットの組み合わせのいずれかを通じてポートフォリオレベルで十分な流動性を確保する、という効率的なポートフォリオ運用を通じて解決できる可能性が高いと思われます。

個人投資家にとっては、選択肢が少なく、状況はより複雑です。定期的な取引可能期間を通じて部分的な流動性を提供する ELTIF や LTAFが欧州や英国で登場したことは歓迎すべきことです。  

市場へのアクセス

プライベート・マーケットの急速な成長により、大手年金基金などの機関投資家にとって、プライベート・アセットへの投資は、ますます現実的な選択肢となっています。 プライベート・マーケット全体の規模が大きくなればなるほど、必要な投資規模を実現することが容易になります。

これまでプライベート・アセットへの投資は、機関投資家が中心でしたが、個人投資家にとってまったく未知の分野というわけではありません。富裕層・超富裕層の投資家は長年、この分野に投資を行ってきました。しかし、その他の個人投資家にとって状況はより複雑で、プライベート・アセットへの投資には前述の ELTIFやLTAFに認定された投資商品を介することになります。

デューデリジェンス

プライベート・アセットへの投資の性質上、投資先に対するデューデリジェンスは、上場資産への投資と比較して、より精緻なプロセスが求められます。 必要な財務情報の多くは公開されておらず、投資先の経営陣との緊密かつ継続的な関わりが不可欠となる場合が多々あります

そのため、潜在的な投資先の調査と分析は複雑で、時間がかかる場合があります。

最後に、ファンドのパフォーマンスにはマネージャー間で大きなばらつきがあるため、プライベート・アセットにおけるマネージャー選定は、極めて重要です。また、マネージャーのパフォーマンスはビンテージによって異なる場合があることや、ベンチマークがないことも、マネージャー選定を難しくしています。

破壊的な威力

現在、多くの機関投資家に広く受け入れられているプライベート・アセットは、従来の「60対40」のバランス型ポートフォリオの構築手法を覆し得る破壊的な威力を持っていることが証明されています。 これには十分な理由があります。 株式と債券の従来からの負の相関関係が崩れてきたことに不安を抱くポートフォリオ・マネージャーにとって、プライベート・アセットはあたかも救世主のようにに登場したのです。

株式や債券との相関の低さ、より長期的な投資ホライゾンとの整合性、あるいは高成長を続ける世界的なテーマへのレバレッジなど、プライベート・アセットはその価値を確実に証明してきました。資産クラスの継続的な拡大と相まって、ポートフォリオの真の分散が重視されるようになり、プライベート・アセットが多くの投資家のポートフォリオの中でより大きく、より永続的な構成要素になることは間違いなさそうです。

¹ シュローダー、プライベート・マーケットへの投資、2024年
² モーニングスター、ピッチブック 2024年3月

ELTIFは長期プロジェクトへの投資というその性質上、流動性が低く、 投資家にとって流動性の低い投資です。 ELTIFは、こうした長期かつ低流動性という特性を許容できない投資家には適さない可能性があります。ELTIFへの投資は、ポートフォリオのごく一部にとどめる必要があります。

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