株式
5 分間で理解する 25年6月19日
長年の低迷を経て、本稿執筆時点の欧州株式は、米国株式を上回るパフォーマンスを見せています。トランプ大統領による大規模な関税政策にもかかわらず、欧州株式は4月の急落から力強く反発しました。
年初の欧州に対する悲観的な見方を踏まえると、投資家の欧州株式への見方は大幅に変わったと言えるでしょう。
欧州に対するネガティブなセンチメントは、フランスやイタリアの財政状況や、ウクライナの戦争、欧州域内における経済成長の鈍化などが背景にありました。
欧州に対する悲観的な見方は、欧州株式から主に米国株式へ資金が移動していたことや、欧州株式のバリュエーション水準からも明らかでした。『米国例外主義と衰退する欧州』というコンセンサスにより、欧州と米国のバリュエーション格差は極端な水準にまで拡大しました。
投資家は、米国例外主義を過大評価していたかもしれません。GDPを6%超える水準で連邦政府の財政赤字が推移していたにもかかわらず1、米国が実施した巨額の財政刺激策は、堅調な経済をさらに後押しし個人消費を支えました。私たちは、これが株式市場の特定の分野でバブル的な行動を助長したとみています。
しかし2025年に入り、米国例外主義を支えていた要因が部分的に後退しはじめ、欧州では、より前向きな見通しを形成する動きが見られるようになりました。
米国に対する投資家の大きな懸念は、トランプ大統領が米国の貿易相手国に対して課した広範な輸入関税でした。貿易交渉が行われている間、最も高い関税率は一時停止または撤回されたものの、米国経済の見通しに多大な不確実性をもたらしました。
また、米国政府の支出がいずれ持続不可能な状態に陥るのではないかという懸念も広まっているようです。米政府効率化省(DOGE)の設立がそれを示唆しています。米国政府の財政状態に対する懸念は、トランプ大統領の「大きくて美しい法案」の減税措置によりさらに強まっています。
トランプ大統領の 『アメリカを再び偉大にする』 という取り組みは、むしろ欧州に活気をもたらしているようです。特に欧州大陸の政府関係者は、米国の軍事支援縮小に対し、自主防衛のための政策を打ち出しました。特筆すべきは、ドイツの新首相フリードリヒ・メルツ氏がインフラと防衛への大規模な財政出動を発表したことです。いわゆる「債務ブレーキ」の緩和により防衛支出のための借入れ拡大が示されたことは、ドイツが新たな道筋を歩み始めたことを明確に示しています2。
欧州連合(EU)が提案する防衛支出(8,000億ユーロの増額)と組み合わせると、ドイツの刺激策は欧州大陸の将来展望にとってゲームチェンジャーとなる可能性を秘めています3。
トランプ大統領の通商政策は欧州にとって逆風となる可能性がありますが、米国は貿易関係の維持を望むと思われるため、結果的には欧州にプラスに働くとみています。最近発表された米英貿易協定や米中交渉の進展の兆しは、今後の合意形成と貿易摩擦の緩和の可能性を示唆しています。
当然ながら、欧州にとっての懸念事項は、これまで米国向けだった中国製品が今後どこに流れるかということです。 欧州は、中国の過剰生産能力から自国を守るための明確なルールを確立する必要があります。
マクロ経済に先行き不透明感はあるものの、投資の観点からは、この新たな環境が欧州の成長ストーリーの始まりになるかもしれません。今年の欧州株式の堅調なパフォーマンスは、投資家センチメントの変化を示唆しており、新たな投資環境の始まりとなる可能性は十分にあります。
これまで投資家が欧州より米国を選好してきたように、欧州の投資家は明らかにバリュー株式よりグロース株式を選好してきました。欧州株式市場に流入した資金は、その多くがグロース株式に向かい、割安で人気がない市場が注目されることはありませんでした。
そのため、バリュー株式とグロース株式には極めて大きなバリュエーションの差が生じており、過小評価されたバリュー株式に魅力的な投資機会があると私たちは考えています。
欧州における防衛支出の増加見通しは、今後数年間で欧州経済に大きな刺激を与えるでしょう。重要な点は、再軍備の効果は防衛産業を超えて波及する可能性が高いことです。欧州経済は比較的相互依存が強いため、支出は乗数効果をもたらし他の産業にも波及する可能性があります。
欧州のバリュー投資家にとって朗報なのは、欧州への投資と経済復活から恩恵を受ける可能性が高い企業やセクターの多くがバリュー株式であることです。
防衛関連株が最も顕著な例です。長年不人気だったこれらの銘柄は、欧州の再軍備からの成長が期待され、株価が上昇しています。その他には、伝統的な「バリュー株式」の銀行株があります。銀行は、経済回復と貸出の増加から収益が向上する可能性があります。さらに、資本財と素材関連企業は、防衛とインフラ支出の両方からの恩恵が期待されます。
昨年末にかけて、セメント、建設、化学、素材関連企業等の欧州経済動向の影響を受けやすい一部の銘柄は、先行き懸念が株価に重くのしかかり、大幅に割安なバリュエーションで取引されていました。しかし、市場の見方は急速に変わり、これらの企業こそが欧州経済の再工業化において重要な役割を果たすという見方が現在では大勢です。
欧州市場は年初から堅調なスタートを切りましたが、米国とのバリュエーション格差や潜在的なファンダメンタルズを考慮すると、見通しは依然としてポジティブだとみています。
現在も関税やウクライナ戦争などに関する不確実性が依然として存在しており、リスクはあります。しかし、私たちは欧州の成長ストーリーを描くことは可能だと考えています。特に、欧州の成長ストーリーがバリュー投資家に多くの機会をもたらす可能性がある点について私たちは楽観視しています。
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