エンゲージメントの力:企業の真の変化を促す

5 分間で理解する 22年8月30日

企業とのエンゲージメントは、企業を変革させ、目標を気候変動やコーポレートガバナンスなど、世界が真に達成しなければならない長期的な目標に合致させるために重要な役割を果たすと考えられます。効果的なスチュワードシップにより、投資家は企業の積極的な行動や経済の変化を促進させる役割を果たしますが、一方企業は、行動計画を策定する以前に目標を設定することに消極的になることが多くあります。

「投資家や、規制当局、NGO、メディアなど、その他の利害関係者が気候変動やダイバーシティ&インクルージョン (多様性・包摂) などの問題に関心を示す以前は、これらの問題の解決には余り進展が見られませんでしたが、この数年で状況は劇的に変化しました」と、M&Gインベストメントのコーポレート ファイナンス・ファイナンス スチュワードシップ部門の責任者であるルパート クレフティング (Rupert Krefting) は述べています。

企業とのエンゲージメントは、企業を変革させ、目標を気候変動やコーポレートガバナンスなど、世界が真に達成しなければならない長期的な目標に合致させるために重要な役割を果たすと考えられます。

『エンゲージメントは、効果的に行えば非常に強力なツールになると言えるでしょう。それは、企業と個別でエンゲージする場合にも、他社と協力して行う場合にも当てはまります』

ただし、企業は、行動計画を熟慮する以前に目標を設定することに慎重になることが多くあります。企業のなかには、関係を築くのが難しい企業もあり、特に幹部が外国人の場合は通常よりも困難である傾向があります。

「適切に経営されている企業は、株主に対して経営陣との定期的な対話の機会を設けており、その際に株主に重要なメッセージを伝え、そのフィードバックを求めます。これにより、例えば、ポジティブな変革や開示の改善を促進するための建設的な関与の機会を株主が得ることができます」とクレフティングは述べています。

気候変動は、M&Gが投資している先進国・発展途上国の両方の企業に対する、脱炭素化を達成するための戦略、開示、最終的なゴール、当面の目標設定に焦点を当てたトップダウンのエンゲージメントにおける中心的なテーマです。

しかし、果たして企業はネットゼロ達成のために十分な速度で行動を起こしているのでしょうか。クレフティングによると、これは国によって異なっており、判断が難しいケースも少なからずあります。

「多くの約束を目にしますが、行動の大部分は2020年代の終盤に集中して実施される予定になっています。ただ、欧州や北米の公益事業セクターなどの企業は、段階的に石炭の使用を打ち切り、再生可能エネルギーに置き換えることを進めています」とクレフティングは説明します。

議決権の威力

投資家は企業の些細な改善に目を向けるべきではなく、ガバナンス、戦略、資本配分などの大きな課題に焦点を当てるべきとクレフティングは述べています。

「クライメート・アクション100+ (気候変動に関するエンゲージメントを推進する投資家グループのイニシアチブ) などに参加する投資家とのエンゲージメントは、効果的に行えば非常に強力なツールになると言えるでしょう。エンゲージメントが成功裏に終わらない場合でも、議決権行使は常に可能であり、それでも不調となった場合、最終的には株式を売却することもできます」

2021年で注目すべき出来事の1つは、大手石油・ガス会社の年次株主総会でのことでした。M&Gは、株主との積極的なエンゲージメントを受け入れない数人の取締役の選任案に対して、その考え方は会社の利益にならないとの理由で反対票を投じました。

「エンジンNo.1 (Engine No.1、米国のヘッジファンド) は企業方針とは異なった意見を有する取締役候補4人を推薦し、M&Gはこの案を支持しました。結果として、現職の3人の取締役が再任されず、反対派の候補者のうち3人が選出されました。これは、株主アクティビズムにとって画期的な出来事であると言われています」とクレフティングは言います。

もう1つの株主アクティビズムの具体的な行動として、財務会計に気候変動リスクを織り込むことの重要性に関して、他の株主と共同で提案しました。

ネットゼロへの取り組みが加速するなか、M&Gは、気候目標達成に貢献するためのるために行動計画を策定しました。これには、一般炭を使用する企業への投資を段階的に引き揚げることや、二酸化炭素排出量の多い投資先企業とのエンゲージメントが含まれます。

投資先企業のなかで、二酸化炭素排出量が多く、保有する株式残高が多い企業を特定し、そのなかからエンゲージメントの候補先を選定しました。企業ごとに具体的なエンゲージメント戦略を立案し、明確な目標、成果を判断するための主要業績評価指標、及びエンゲージメントの具体的な工程表を策定します。

最終的には、投資先企業がパリ協定に沿ってネットゼロをコミットし、達成するための具体策を、信頼できる目標と指標で提供することを期待しています。

「投資先企業の株式の売却は、企業がネットゼロに移行する見込みが全くない場合にのみ検討の対象となります。一例は、石炭が事業戦略の中心である企業の場合です」とクレフティングは言います。

技術面での大きな課題

一部のセクターの投資先企業にとり、二酸化炭素排出量の削減などの問題を解決するための最大のハードルは、グリーン水素、電気アーク炉、炭素回収・貯蔵などの新しい技術に依存せざるを得ないことだと思われます。

このことは、鉄鋼、セメント、化学製品など、「削減困難な(hard to abate)」セクターに特に当てはまります。

「例えば、鉄鋼は精錬に大量の熱を必要とし、セメントは一部の化学反応過程において二酸化炭素を排出するだけでなく、大量の熱を必要とします。そのため、二酸化炭素の回収は有望な解決策と見られていますが、まだ多くの企業で試験段階にあり、商業規模に達するにはまだ時間を要します」とクレフティングは説明します。

ダイバーシティ&インクルージョン

職場をより多様で包摂的なものにすることも、エンゲージメントにおける優先度の高いテーマです。M&Gは、外部の影響を受けず、人種、ジェンダー、年齢が多様なメンバーによって構成される取締役会は最適な長期戦略を策定する可能性が高く、また、従業員、顧客やその他の利害関係者の多様性を反映できると考えます。

この考え方に基づきM&Gは、2027年までに取締役会におけるジェンダー平等を投資先企業に達成させるという野心的な目標を設定しました。もちろん、目標達成までのペースは地域によって異なります。

取締役会におけるジェンダー平等を達成するための道筋に関しては、大企業と中小企業、また、地域によって期待値が異なります。

例えば、ある鉱山会社に従業員のジェンダー平等を高めることを推奨しました。M&Gは、同社の最高経営責任者、新任の持続可能性責任者兼広報責任者と面会し、M&Gが期待することを伝えました。

現在、同社のモザンビークにおける従業員の約10%が女性ですが、今後1年間でこの比率を大幅に引き上げる野心的な目標を同社は設定しました。ただ、従業員の離職率は年2%であるため、ジェンダー平等が急速に進む可能性は高くありません。同社は、多様性がM&Gにとって極めて重要な事項であることを認識しており、従業員のジェンダー平等を高める具体策に引き続き取り組んでいく予定です。

また、あるサイバーセキュリティとソフトウェアレジリエンスのグローバル企業は、近い将来に33%のジェンダー多様性を達成することにコミットしています。M&Gは2021年の年次株主総会ですべての社外取締役候補に賛成票を投じましたが、総会の後、今後の議決権行使の方針を書面にて会社に送付しました。

M&Gは、翌年の年次株主総会の後に改善が見られない場合は、指名委員会の委員長選任に反対票を投じる可能性が高いことを示しました。同社は、取締役会において女性の取締役をもう一人任命し、2022年1月に就任しました。このことは、同社がダイバーシティの問題を真剣に受け止めており、取締役会における多様性を改善するという方向性を表したものだと考えます。

しかし、多様性はジェンダーだけの問題ではありません。M&GがFTSE100銘柄の企業に期待する最低要件は、少数民族の取締役を少なくても1人任命することです。

M&Gは、多様性の目標を達成するための進捗状況を、株主が判断するために必要な情報と実行計画を投資先企業が開示することを期待しています。

最終的な目的が何であれ、エンゲージメントのプロセスが長期になる可能性があります。クレフティングの指摘として、企業を変革させるときに投資家が直面する大きな課題は、時間を必要とすることです。

投資元本は変動し、投資から得られる利益は上昇することもあれば、下落することもあり、お客様の投資元本は保証されません。

本項に記載されている内容は現時点におけるM&Gの見解であり、投資に関する推奨、助言に該当するものではなく、また将来の状況やパフォーマンスを予測するものではありません。

当資料は、一般的な情報提供を目的としており、金融商品取引業登録に基づく業務又は当社関連会社が組成するファンドの持分等の勧誘を目的としたものではありません。

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