インフレ:日本の不動産市場に与える変化

6 分間で理解する 23年5月22日

日本の不動産市場はこの数年間の超低金利の恩恵を受けてきましたが、インフレが本格化していることがこの状況を変えるかもしれません。しかしながら、集合住宅や物流施設など、長期的な潮流の恩恵を受ける可能性が高い分野に投資機会があるとM&Gリアル エステートのアジア太平洋地域リサーチ責任者であるレジーナ・リムは考えています。

1980年代の日本の高度成長は、不動産価格の高騰を引き起こしました。1991年に始まった金融引き締めを契機としたバブル崩壊で、不動産市場は大打撃を受けました。経済や株式市場とともに、不動産価格も長期的な低迷期に突入しました。

『期待インフレ率に変化が生じており、インフレ率が当分の間高止まりする兆候があります』

この数年間で、日本の不動産市場は回復を見せました。超低利の借入コストと魅力的なイールドスプレッド (不動産の利回りと市場金利の差) が不動産投資家を惹きつけてきました。為替が円安に振れたことは、米ドルベースの投資家にとって日本の不動産への投資の魅力をさらに高め、外国からの投資も増加しています。

変化する環境

しかしながら、日本では長い間待望されていたインフレがようやく戻りつつあって、この数年間安全であった不動産投資の環境に変化が起きています。物価上昇がないデフレ状態が数十年継続した後、インフレ率は1年以上にわたって日銀の目標を上回っており、ある指標では、インフレ率は過去40年以上で最も高い水準に上昇しています。

期待インフレ率に変化が生じており、インフレ率が当分の間高止まりする兆候があります。今年の春闘で、企業は久しぶりに4%という最大級の賃上げに合意しました。大幅な賃上げおよび構造面から生じている労働市場の逼迫が相まって、今後数年間は賃金インフレが継続する可能性があります。賃金上昇は、国内消費の押し上げを通じて経済成長を持続させることにつながるため、日本経済の先行きにとって明るい材料であると考えられます。

一方、インフレ圧力が持続する見通しを受けて、経済活動の活発化とインフレを引き起こす目的で継続している超低金利政策を、日銀が転換するか否かの憶測を呼んでいます。昨年12月、日銀はイールドカーブ コントロールにおける長期金利の誘導目標の上限を引き上げたことは市場にとって驚きでした。

日銀の植田和男新総裁が今後数か月のうちに、現在の緩和的な金融政策を、イールドカーブ コントロール政策の撤廃、国債購入規模の縮小、政策金利を現在の-0.1%からの引き上げなど、さらなる修正が加えられると予想する投資家もいます。

インフレ環境への対応

金利が上昇する可能性を理由に、日本の不動産に対してより慎重な姿勢を示す投資家が増加するかもしれませんが、M&Gは引き続き日本での投資機会が存在すると考えています。

政策立案者は、長年にわたって断行してきた非伝統的な金融政策を終了させることによる弊害、特に国債残高の規模や為替への影響に十分注意を払い、どのような変更が加えられるとしても、緩やかで慎重なものになると思われます。

今後2年間の金利の上昇が緩やかであれば、不動産利回りはわずかな上昇にとどまると考えられ (利回りと価格は反対方向に動く)、不動産価格が下落することはないと考えています。実際のところ、投資可能な多くの国では、昨年来の利上げを受けて、不動産利回りが借入コストを下回っている状況になっており、日本における不動産投資が魅力的に映っていると考えています。

さらに、物件の種類によっては、緩やかながら賃料の上昇が予想され、インフレ高進のなかでポジティブ サプライズになる可能性があります。不動産がインフレ環境に対応できる理由として、不動産が理論上、物価上昇の恩恵を受ける実物資産であることを考慮する必要があると考えます。

現在の環境では、物流施設と賃貸住宅 (集合住宅) の2つの物件種類が投資対象として特に興味深いと考えています。

集合住宅:不況期でも強さを発揮する

集合住宅 (法人所有の賃貸住宅) は日本で既に確立されている分野ですが、その需要は、都市化や大都市での住宅不足などの要因に引き続き支えられると考えています。

近年、日本の人口は減少に転じましたが、大都市への移住人口は増加しています。大都市、特に東京や大阪などには、教育や就職の機会、快適な住環境や利便性の高いインフラを求めて小都市から移住する若年層が増加の一途をたどっています。

世界的にハイブリッドワークが一般的になっているなか、日本でも雇用者が柔軟性のある働き方を求めるようになっています。投資という面では、「在宅勤務」が増加することはオフィス部門に悪影響を与える可能性がありますが、雇用者が都市部に居住することを全面的に見直すことになるとは考えていません。新型コロナウイルス感染症によるパンデミック時には、ハイブリッドワークにより東京23区から郊外への移住が見られましたが、ここにきて、多くの雇用者が再びオフィスで働くようになり、若年雇用者が東京、大阪、名古屋の中心部に戻ってきています。

今後数年間、主要都市への外国人の流入が集合住宅に対する需要を押し上げることも予想されます。外国人労働者の受け入れが再開された2022年後半には、4万人近い外国人が東京23区に転入しました。国は2030年までの対内直接投資の目標額を80兆円から100兆円に引き上げており、さらに、最近になって大阪に初のカジノを建設することを認可したこともあって、大阪では労働者の増加に伴い住宅を増加させることが必要になると思われます。

2020年の国勢調査によると、日本の世帯数の約3分の2は1~2人の世帯であり、そのことが賃貸物件の軒数を押し上げています[1]。また、集合住宅の価格が上昇している影響もあって、持ち家世帯率は低い状況が続いています。このため、主要都市で立地の良い住宅を手頃な家賃で賃借したいというニーズは高止まりすると考えています。忘れてはならないのは、賃貸用集合住宅は、多くの景気後退期を乗り越え、耐性を備えていることを実証してきたことです。世界の経済成長やインフレ動向の不確実性が高いなか、反景気循環的な投資だと考えられています。

物流施設:電子商取引増加の恩恵

日本において物流施設に対する需要を促進させる最大の要素は、成長を続ける電子商取引業者が必要とする倉庫需要であるとM&Gは考えています。日本での電子商取引の普及率は依然として低い状態ですが、パンデミックにより新たな買い物習慣が形成され、現在ではより多くのショッピングがオンラインに移行しています。

電子商取引に必要な倉庫スペースは、従来型の小売業が必要とするスペースの3倍以上と言われています。一般的に需要の高い物件の特徴は、増加する配送需要に対応するため、交通の利便性が高く、都市部へのアクセスに優れた立地にあり、自動化が可能な最新の物件です。

日本の主要都市において、物件総数に占める最新の物流施設の比率が極めて低いことから、最新の物件に対する需要があると考えます。現在稼働している物流施設の多くは古い倉庫です。このため、特に大阪、福岡、名古屋など、東京に比べて最新鋭の物件が少ない都市における、高スペックでエネルギー効率に優れた物件の建設などに魅力的な投資機会があると考えています。また、電子商取引の規模がもともと低水準であったため、今後の増加に伴い、一部の地域では大幅な賃料収入の増加と物件価値の上昇が期待されます。

物流の分野は、電子商取引に加えて、グローバル企業がサプライチェーンの強化と多様化を図っていることの恩恵を受ける可能性 可能性があります。政府が国内工場の建設をテクノロジー企業に奨励していることを背景に、物流施設に対する需要が拡大しています。半導体製造のTSMC (台湾積体電路製造) が日本で2番目の半導体製造工場の建設を計画している福岡は、その一例です。

需給関係から、日本の物流分野の見通しは非常に有望であると考えています。物流分野は、景気変動に強い長期的な投資機会を提供すると考えていますが、忘れてはならないのは、地域の専門知識が必須であること、および戦略的に優位な立地にある最新の物流施設に焦点を当てることの重要性です。

1 総務省統計局「日本の統計2023、人口・世帯」 (stat.go.jp)

投資元本は変動し、投資から得られる利益は上昇することもあれば、下落することもあり、お客様の投資元本は保証されません。本項に記載されている内容は現時点におけるM&Gの見解であり、投資に関する推奨、助言に該当するものではなく、また将来の状況やパフォーマンスを予測するものではありません。

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