金利の動向が不透明な中、投⁠資家に安心感を与える欧⁠州⁠ABS

5 分間で理解する 21年8月26日

投資家はインフレが一時的なものであるかの判断がつかず、各中央銀行の一挙手一投足に神経を集中させています。このような不確実性が高いなかで、欧州の資産担保証券(ABS)を含めた変動金利商品は、住宅ローン市場の良好なファンダメンタルズも好材料として寄与し、投資家が抱いている不確実性を緩和しています。

今年に入り、インフレの先行きが大きな論点になっており、多くの投資家は、予想される世界経済の回復が持続的な消費者物価の上昇につながるのかどうか、そしてインフレ率の上昇が金融政策にどのように影響するかについての評価に悩んでいます。主要な中央銀行は、経済を「過熱気味」とすることに目をつぶることとし、インフレ率の上昇を要因としました。このような環境のなか、経済成長率の鈍化や労働市場低迷の可能性を指摘するアナリストもいれば、各中央銀行が金利引き上げを余儀なくされると考えるアナリストもおり、先行きが不透明であることには変わりありません。

このような不確実性の中で、2021年の上半期における欧州の資産担保証券(ABS)などの変動金利商品市場のパフォーマンスは、投資家が求めていた安全性を提供しながら、主要債券市場をアウトパフォームしました。

『欧州ABSは、デュレーションが短く、ファンダメンタルズが堅調で、さらにスプレッドプレミアムが魅力的であるため、投資家の需要は堅調です』

過去の実績は、将来の実績を示すものではありません。

デュレーションが短いことは事実ですが、投資家の関心はむしろ、パンデミック期間を通じて強固であった担保による与信保全が機能し続けたこと、新規に組成された案件の与信保全ストラクチャーが強固であったこと、そして社債に対し魅力的なスプレッドプレミアムがあったことなどの強固なファンダメンタルズでした。

どのような担保プールにおいても、延滞、デフォルト、損失のすべてがパンデミック当初の予想を下回っています。また、信用格付けの引き下げは、宿泊、運輸など一部のセクターに集中しています1。担保価値維持に最も寄与したのは政府支援策のスピードと規模であったことは間違いありませんが、一般論として、欧州市場における厳格な審査基準が重要な役割を果たしたことも事実です。

投資家に安心感を与える住宅ローン担保証券

欧州の住宅ローン担保証券(RMBS)の担保物件の価値は、欧州最大の市場である英国を中心に、過去12か月間は堅調に推移しました。昨年住宅ローンの返済猶予制度が導入されたことにより、キャッシュフローに若干の問題が生じた案件もありましたが、時間の経過とともに、猶予制度を利用する借手は大幅に減少しました。

M&G独自の分析によると、英国のプライムRMBS残高のうち返済猶予の対象となった比率は2020年夏頃に約25%で最大となりましたが、その後は急速に減少傾向を辿りました。11月以降は、猶予制度を利用した借手の割合は約2%でした。一方、住宅ローンの本格的な延滞(90日以上の延滞)比率は2020年を通じて約0.5%と比較的安定しており、返済猶予制度を利用した借手のうち本格的な延滞となった借手はわずか2%程度でした2

2021年後半と2022年には、雇用維持スキームなどの支援制度の終了に伴い失業率が上昇することが見込まれるため、延滞率は、緩やかに上昇すると推測されます。ただし、この10年間で審査基準の厳格化と案件ストラクチャーが大幅に貸手に有利になっていることから、英国と欧州大陸各国で住宅ローンのデフォルトが大幅に増加するとは予想されていません。

欧州ABSのスプレッドはそれほどタイト化していない

債券利回りはこの約1年間で大幅に低下し、信用スプレッドは歴史的にタイトな水準にあります。欧州ABSのスプレッドも回復傾向にありますが、引き続き低格付債を含め、社債のスプレッドよりもはるかにワイド化した状態にあります。

2021年6月末時点におけるAAA格の欧州CLOのスプレッドは、平均格付けA-の欧州投資適格債を約40bps上回っていました。一方、AAA格の英国ノンコンフォーミング(信用履歴に問題がある借手)ABSは、格付けが大幅に劣るA格の社債のスプレッド(86bps)に対し70bpsを下回る水準で取引されました。

今後の展望としては、シニア及び高格付けの欧州CLOは、RMBS市場ほどスプレッドがタイト化していないため、魅力的な投資機会を提供する可能性があると思われます。実際、CLOのスプレッドは2021年第2四半期に拡大しました。これは、供給増、大口購入者の手元キャッシュが第1四半期に大幅減少したこと、直前のバリュエーションが投資適格のメザニントランシェと比較して過大評価であったことなど、根本的な要素というよりはテクニカルな要素が原因であったと考えられるからです。この判断に基づき、2021年6月下旬~7月上旬より、高格付けのCLOへの配分を増加させました。

欧州ABSのクレジットカーブは比較的フラットであるため、一般的にデュレーションが長く、それほど魅力的なスプレッドを享受できない新規案件よりも、魅力的な投資機会は短期の借換案件や流通市場での購入にあるというのがM&Gの見解です。

足許のテクニカル要素を見ると、欧州ABS市場は、供給が需要をやや上回る状況になることを示唆しています。2021年上半期の新規発行額が497億ユーロにとどまったことは、市場が新型コロナウイルス感染症の影響から回復途上にあることや3、借換案件の一部が公開市場以外で行われていることを示唆しています。新たなブラックスワン(ほとんど予想できず、起きたときの衝撃が大きい事象)が発生しない限り、この環境は、経済ファンダメンタルズの改善や案件のストラクチャーが貸手に有利になっていることと相まって、欧州ABSのスプレッドが今後も安定的に推移することになると考えます。

1 S&P グローバル『Global, European Leveraged Finance Conference』2021年6月
2 Moody’s セクターコメント『Covered Bonds and RMBS – UK』2021年3月
3 BofA グローバルリサーチ『European SF Weekly』2021年6月21日

本項に記載されている内容は現時点におけるM&Gの見解であり、投資に関する推奨、助言に該当するものではなく、また将来の状況やパフォーマンスを予測するものではありません。

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