消費者の時代

6 分間で理解する 2 9 21

新型コロナウイルス危機への対応とした大規模な財政出動により、先進国の多くでは、家計の見通しが良くなったとも言えるのではないでしょうか。さらに、一般的に消費者である個人が先進国において経済成長を担っていることから、景気浮揚が必要な各国政府にとって、消費者対策が政治の優先的課題であり続けることは当然だと考えます。

なぜ以前に比べて個人消費の重要性が増しているのか

新型コロナウイルス危機における一般消費者は、世界金融危機後(2009年)に各国政府が緊縮的な財政政策を採用していた時期とはかなり異なった状況に置かれています。

『危機的なパンデミックのなかでも、先進国の国民の多くは、家計の先行きについて楽観的でいられると言い切れる理由があります』


今回の危機は以前の危機とは大きく異なり、パンデミック直後から政府による財政出動が実行され、消費が減退することによる企業の倒産や人員削減、その結果としての失業率の急上昇(雇用減少)、最終的には富と経済の安定性が損なわれるリスクを回避することを最終目標として、平均的な消費者の返済能力と購買力を維持することによって需要の大幅な減少を防ぐことに焦点を当ててきました。

これらの背景には、消費者を経済活動の中心に据えるという政治的必要性があります。先進国経済では、サービス業に対する依存度がますます高まっているため、経済成長を維持するには、成長エンジンである消費者が資金面でゆとりを持ち、将来の生活を楽観的に捉えることが不可欠です。

個人資産には不動産と金融資産があります。世界各国の中央銀行が、前例のない規模の流動性を供給し、金融資産の下落の防止を図り、さらに、個人資産の残りの50%を占める不動産の価値の下落を食い止めるような政策を採用した理由は容易に理解できます。パンデミックが始まって以降、不動産市場に直接的・間接的な影響を与える多くの措置が講じられた理由はそこにあります。

個人消費の先行きは今もって不透明ですが、危機的なパンデミックのなかにおいて、先進国の多くの国民が依然として今後の家計を楽観的に捉えていると考えられる理由は以下のとおりです。

1. 過去に例を見ない大規模の財政政策

財政を出動させることを一旦決定した後、その規模は莫大な金額(12.7兆米ドル1)になっており、先進国政府による景気刺激策はGDPの5%に膨れ上がったとされています。さらに、危機への大規模な財政対応は、通常中央銀行が採用するような政策にとどまらず、住宅ローンの返済猶予を貸手に強制する措置などに拡大しました。

同時に、政策立案者が広範にわたる混乱に直面していた経済を支えるために「必要なことは何でも」行うことを最重要の政策とするのに歩調を合わせて、主要な中央銀行は金利を歴史的な低水準に保ちつつ、量的緩和(QE)を再開しました。量的緩和が先進国の多くの市場における投資リターンを人為的に低下させたのとは対照的に、個人に焦点を当てた各国の財政政策は、量的緩和策の場合とは異なり、金融商品価格に影響を与えずに個人の返済能力向上に寄与しました。

2. 家計の貯蓄余剰

多くの世帯はパンデミックの間に貯蓄額を増加させました。

経済協力開発機構(OECD)のデータによると、2020年の先進国の家計貯蓄率は今世紀で最も高くなりました2。貯蓄率は通常の年でも低いのですが、言うまでもなく不況時ははるかに低くなります。景気後退と不況は家計にとって困難になる環境であり、通常は失業率の上昇と賃金の減少によって家計収入は減少します。しかし、昨年の様相はまったく異なったものになりました。多くの財政支援策が奏功し、雇用水準が維持されたのみならず、家計収入にいたっては増加しました。ただ、ロックダウン(都市封鎖)の影響により、宿泊業、旅行業、小売業などの特定分野での裁量的支出の機会が減少しました。

当然ではありますが、ロックダウンが多くの都市で実施され、政府支出が多額であった欧州各国の貯蓄超過の水準は、世界の他地域に比べて高いものとなりました。

在宅勤務の割合が大きくなったことにより、労働者はより広い面積の住居を希望するなど、住宅に関する優先順位や状況は変化しています。このような状況は、広い面積を求める個人による需要増と平行して、借入額の圧縮を図る個人も現れることも予想され、過剰となっている貯蓄が住宅市場に向かう可能性が十分に考えられます。

3. 需給良化が見込まれる住宅市場

主要国の住宅市場は活況を呈しており、低金利と高い家計貯蓄により住宅価格が上昇している一方、住宅ローン金利は過去最低水準となっていることを背景に、需要が高まっています。

ユーロスタットのデータによると、2021年第1四半期のEUにおける住宅価格の上昇率は、過去約14年間で最も高く、デンマーク、オランダ、ドイツでは年間ベースでも価格が強く上昇しました。対照的に、スペインの不動産価格の上昇率は0.9%にとどまりました。英国の住宅価格も急速に上昇しており、6月の上昇率はほぼ17年間で最も高いものとなり、その結果、住宅価格対平均所得の比率は過去最高に近い水準に上昇しています3。不動産購入時の印紙税を不要にした一時的な特例も、購入者の意欲を駆り立てました。

消費者の返済余力は持続するのか

一般的な結論としては、欧州の平均的消費者の家計は良好な状態にあると考えます。もちろん、所得の低下の緩衝材として寄与した賃金保証や雇用維持スキームなどの政府による一時的な支援措置の終了が失業率にどのように影響するかなど、不確実な部分が残っていることは否定できません。

しかしながら、住宅ローンや消費者ローンを含めた個人債務のデフォルト率・損失率は、失業率が高かった時期でさえ、比較的低いということが実証されています。また、欧州の規制当局は、効果的に個人が返済を持続できないほどの水準の借入れを抑制する目的で、銀行に対し、債務者のデューデリジェンスの厳格化やローンの適合性のチェックなどを長年にわたって徐々に強化させ、住宅ローンなど、個人に対する与信の保全態勢を強力に向上させてきたことも注目に値します。欧州中の貸手が実施している審査が厳格になっていることは、個人向けローンのデフォルト率と損失率が低い一因と思われます。

消費者の返済能力と購買力を保つことが政府にとって経済を支えるための優先事項であり続けることに変わりはなく、このことは、慎重な審査が実施される消費者リスクへのアクセスを提供する投資戦略には好都合であると考えています。

1  国連『Monthly briefing on the world economic situation and prospects – No. 146』2021年2月5日

2 フィナンシャル・タイムズ『Global savers’ $5.4tn stockpile offers hope for post-Covid spending』2021年4月18日

3 フィナンシャル・タイムズ『UK house price growth soars as buyers race to beat end of tax holiday』2021年6月29日

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