ローン見通し:良好な市場ダイナミクスは持続可能か

15 分間で理解する 24 1月 22

欧州のローンにとって、2021年は多くの面で素晴らしい年でした。新規組成額は、比較的高い安定した利回りを求める従来のローン投資家やアセットアロケーターの強い需要に支えられて、過去最高額となりました。そのなかで、持続可能性への取り組みは顕著で、高い目的意識も見られました。本レポートでは、2022年の欧州ローン市場を左右する主要な投資テーマについて解説します。
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2022年の投資テーマ

欧州のレバレッジドローンに関するM&Gのベースシナリオは、投資家が、実質利回りがプラスの資産を求めるなかで、①強力なファンダメンタルズが継続すること、②市場ではテクニカル要因による追い風が吹くこと、③安定的で良好なインカム収入源となることです。プライベートエクイティのドライパウダー(投資待機資金)の規模を勘案すると多くのバイアウト案件が見込まれるものの、既存企業の債務が削減傾向であることと、市場の流動性は潤沢であることから、当面はデフォルト率が低い状況が継続し、結果、2022年もリスク調整後リターンがプラスになると考えます。多くの企業は、リファイナンスは終了したか、あるいは有利な条件で期限を延長させたため、短期的な借り換え圧力も限定的です。

『欧州のレバレッジドローンに関するM&Gのベースシナリオは、強力なファンダメンタルズが継続すること、市場ではテクニカル要因による追い風が吹くことです』

『欧州のレバレッジドローンに関するM&Gのベースシナリオは、強力なファンダメンタルズが継続すること、市場ではテクニカル要因による追い風が吹くことです』欧州のローン発行企業の信用力見通しは概して堅調ですが、もしパンデミックに起因した混乱がインフレと経済成長の見通しを悪化させることになった場合、そのような事態に対処するための金融政策に注意を払う必要があります。2022年にこのようなリスクが高まった場合、投資先を厳選する重要性がさらに高まることになると思われます。強固な持続可能性の体質を持つ質が高く重要と見られる企業だけを融資の対象とすることで、その有益性が証明されると考えられます。さらに、中央銀行による資産購入やその他の支援策の縮小に伴う企業の資金調達コストの上昇が同時に起こると、市場参加者が市場に対する信頼を失う可能性が高くなり、このことも、投資先を慎重に選択することが重要であるもう1つに理由です。金利が緩やかに上昇することは、融資の金利が市場金利に連動するローンやローン担保証券(CLO)などの変動金利商品にとって、プラスに働きます。

 

2021年はESGリスクに対する認識が高まったことで企業による開示に大幅な進展が見られ、また、一方では「ラベル付き」ローンの組成も増加しましたが、2022年にはさらに勢いが増すと考えています。非上場企業やローン投資家などの利害関係者にとって、今年の最重要テーマとして『持続可能性』を挙げます。

ローン市場のリターン

Credit Suisse Western Europeanレバレッジドローン指数(CS WELLI)は、2021年に4.63%上昇(ユーロ換算)しました。これは、米国のローンおよび債券のリターンである4.53%および4.45%(同)を上回り、欧州ハイイールドの固定金利債の3.31%(同)を大幅に上回りました。

『現在、市場価格はほぼ正常な状態に戻っており、2022年におけるリターンは「クーポン」がもたらす4%程度(ユーロベース)になると予測されています。』

レバレッジドローン価格は、2020年に価格が回復したものの、完全に以前の水準に戻らなかったことなどから、2021年は上昇しましたが、リターンの大部分はインカム収入がもたらしたものでした。「超」が付くほどの金融緩和政策と財政政策、段階的ながら経済の再開(少なくとも夏と秋の大半において)、非常に低水準の企業デフォルト率は、リスク資産に対する投資家の投資意欲をかきたてました。その結果、2020年の大部分と2021年7月までは、格付けが極めて低い企業、特に経済の再開への依存度が非常に高い、旅行やレジャーセクターの企業(WELLIに占める比率は5%未満)が市場の上昇をけん引しました。スプレッドの低下はほぼ2021年の前半で終了しました。年の後半に関しては、新型コロナウイルス感染症の新たな変異株のまん延や、それに伴う欧州全域における新たなロックダウンに対する懸念が影響し、年の前半のスプレッド低下をけん引したセクターにとって逆風の環境となりました。CCC格が付与されている映画館の運営会社であるCineworldのローンのセカンダリー市場における価格は、年初に69程度であったのが6月には89程度にまで上昇し、年末には78程度まで下落し、これは、厳しい状況に置かれた企業のローンの価格が「経済の再 再開」というテーマで上下した典型的な例です。

 

現在、市場価格はほぼ正常な状態に戻っており、2022年におけるリターンは「クーポン」がもたらす4%程度(ユーロベース)になると予測されています。ただし、再びパンデミックに陥った場合や、金融・財政政策の失敗は(可能性はそれほど高くはならないでしょうが)、ある程度のボラティリティを生じさせる可能性があります。ただし、クレジットスプレッドがタイトであることとデュレーションが短いことを勘案すると、広範な債券市場ほどの悪影響を受けることにはならないと思われます。これは、ローンが変動金利の担保付きシニア債権であるためだけでなく、プライベートローンが中央銀行の購入対象外であることから、金融政策措置の影響をあまり受けないためです。

 スプレッド動向

世界金融危機以降、新規ローンの価格設定は、概ねEURIBOR (E) + 350~450bpsの範囲と比較的安定しています。2021年も例外ではなく、2022年もこの長期的な傾向から外れると考えるべき理由はほとんど見当たりません。これはローン市場の特性として、ローンのスプレッドとCLOのスプレッドが裁定関係にあることから、なおさらです。

 

2021年上半期には、需要の急増により、AAA格のCLOのスプレッドが縮小するなかで、ローンに対する需要が供給をわずかに上回り、ローンのスプレッドが(E +) 350bpsに向かって一旦は縮小しました。しかし、7月には情勢が一変し、AAA格のCLOのスプレッドは元に戻り、さらに、欧州の夏休み期間を前にローンのアレンジャーは、1か月間に130億ユーロにも上る新規ローンを組成しました。これにより、投資家にとって案件の選択範囲が広がったため、金利条件は投資家に有利になりました。夏休み明けの数か月間は、需給のバランスが拮抗していましたが、7月の供給過多の影響は払拭されず、新規ローンのスプレッド水準が(E +) 400bpsを下回ることはほとんどありませんでした。上記図表のとおり、3か月の移動平均のスプレッドは着実に上昇しました。

 

スプレッド水準は、主として需要と供給のバランスというテクニカルな要因と、需給ほどの影響はないものの、投資不適格級デットのセカンダリー市場における直近の取引価格の影響を受けます。将来のスプレッドを予測するためには、本質的に多くの変数を必要としますが、M&Gとしては、上述した今後の需給を勘案すると、0%のEURIBORフロア付き(50bps程度の利回りに相当)でE + 375-425bps、それに若干の新規案件ディスカウントが付いた水準が持続すると考えます。とはいえ既存のローンに関しては、レバレッジ比率のラチェット(事前に設定されたレバレッジ比率を達成するとマージンが25bpsずつ2あるいは3段階低下する設定)を注意深く見ることが重要になります。企業の収益性が向上し、買収が行われない場合はレバレッジ比率が低下することによりラチェットのトリガー条項が発動され、そのたびにローンのスプレッドが縮小することになります。これは、ポートフォリオのインカム収入に影響するだけでなく、セカンダリー市場で取引されている既存のローンの時価を低下させることにもなります。したがって、ポートフォリオ全体のリスク調整後リターンを最大化するために、個々のローンを綿密にモニターしてラチェット発動を予測し、細心の注意を払って売買することが重要になります。

ESGと持続可能性

2021年は、国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)をはじめ、持続可能性全般において大きな進歩が見られ、M&Gを含む450の金融機関がネットゼロ社会実現のための取り組みに署名しましたが、その運用資産残高は130兆米ドルに上ります。450の金融機関は、2050年までに全ポートフォリオでネットゼロを達成することと、今後30年間でネットゼロ経済構築に必要な100 〜150兆ドルの投資を実行することにコミットしました。

 

EUによるサステナビリティ情報開示規則は予定より6か月遅れ、ようやく2023年1月1日に施行されたものの、現在の情報開示の分断状態は、さまざまな報告枠組みを1つに統合する取り組み(国際サステナビリティ基準審議会)の実現により、改善が期待されています。

 

非上場企業も、持続可能性への取り組みの例外として認められてはいません。ラベル付きローンの増加は、企業の持続可能性への取り組みと開示に対する真剣さを象徴しています。2021年における欧州の新規レバレッジドローンのほぼ40%には、企業の持続可能性に関するパフォーマンス目標(SPT)にリンクするラチェット条項が織り込まれており、金利条件と主要業績評価指標とが明示的に連動しています。サステナビリティリンクローン(SLL)は、2022年に拡大が予想される投資不適格級企業に対するラベル付き商品(グリーンローン、ソーシャルローンなど)に含まれています。

『今後は、企業の枠組みが環境目標よりも社会目標により強く焦点を当てることを期待しています。企業の事業分野や所在地における社会リスクが大きい場合は特にそうです。』

広範なサステナビリティリンクローンの組成額に関しては、全世界で見た場合、2021年は最高額を記録しました。持続可能性に関連したローンの組成額は前年比239%増の4,300億米ドルとなりましたが、この額は、市場が始まったわずか4年前の86倍の規模です。欧州は他地域に比べて圧倒的に大規模ですが、米国も急速に規模を拡大させています。

 

投資不適格企業は、持続可能性に関連するローン市場で大きな割合を占める重要な借手です。今後は、企業の枠組みが環境目標よりも社会目標により強く焦点を当てることを期待しています。企業の事業分野や所在地における社会リスクが大きい場合は特にそうです。ジェネリック医薬品メーカーのTevaは典型的な例です。オピオイド(モルヒネに類似した作用を示す合成麻酔薬)のスキャンダルを起こした同社にとって、2021年11月に調達した50億米ドルの持続可能性にリンクした大型案件におけるSPT(サステナビリティパフォーマンスターゲット)は、多くの環境目標と曖昧な社会目標を設定したものでしたが、真に内在するESGリスクに対処できず、持続可能性目標を設定するという効果を完全には発揮できませんでした。

 

スポンサーが所有する非上場企業の業歴が浅いため、完璧な持続可能性をいつも求めるのは難しい面が多々ありますが、世界中の、特に欧州における非上場企業の利害関係者が設定する基準は高いものになってきています。債券投資家とは異なり、ローンの貸手であることの利点の1つは、直接の契約関係がもたらすエンゲージメント機会の増加です。有害な活動を行う企業への資金供与は2022年にますます厳しくなると予想されます。化石燃料のファイナンスや、武器、タバコ、賭博企業への資金供与を拒否する投資家の数は着実に増えています。一部のプライベートエクイティのスポンサーは、EQT(北欧最大のプライベート・エクイティ・ファンド)のような先駆者を手本に、企業として、および全投資ポートフォリオにおいて、科学に基づいた目標を導入して、民間の企業全体を前進させるというコミットメントを達成することを目標にしています。スポンサーは影響力と実行力をもっている一方、多くの企業に投資しているため、スポンサーによるこのような固い決意は、多くの投資先企業で一時(いっとき)に実行されることにつながるため、非常に重要です。

ローンの供給

2020年は、新型コロナウイルス感染症がプライベートエクイティのポートフォリオと企業のバランスシートに与えた影響によって評価額が下落した後、安定に向かいました。2021年はその安定化の流れのなかで、世界的に企業買収市場での潜在案件が具体化したことにより、買収総額は約6兆米ドルという記録的な規模になりました。プライベートエクイティは投資家から集めた資金のうち2兆米ドル以上がドライパウダー(投資待機資金)となっていたため、企業買収市場においてシェアを拡大しました。グローバルに資産を配分するアセットアロケーターもプライベート資産全体にわたって利回りの向上を図っているため、配分を引き続き増加させています。その結果、欧州のローン市場は活発化し、新規組成額は1,300億ユーロと、それまでの年間最高額であった2017年の1,210億ユーロを上回り、世界金融危機以降で最大となりました。リファイナンスやリプライシング案件の組成額は、買収案件の大幅な増加を受けて、全体に占める割合が2017年の約40%から約60%に上昇しました。その結果、2021年における欧州のローン市場全体の組成額も前年比で約20%増加し約4,000億ユーロに達しました。

 

バイアウトファンドは従来にも増して規模を拡大化しており、供給面で2021年の最大の話題は案件の規模でした。Blackstone、H&F、Carlyleによる300億米ドル規模の米国医療用品Medlineの買収、ApaxとWarburg Pincusによる48.4億ユーロのT-Mobile Netherlandsの買収をはじめとするジャンボ案件が見出しを飾った1年でした。ブレグジット後の影響は英国の一部のセクターで残りましたが、スーパーマーケットチェーンのMorrisons、医薬品グループのUDG、防衛関連部品メーカーのUltra Electronicsなどの非公開化(P2P)案件が散見されました。

 

非上場企業のエクイティとデットの両方に対する需要が継続している追い風を勘案すると、2022年においても新規案件が多くなることが予想されますが、2021年が、2020年の混乱による停滞の反動で、潜在需要が一気に現れた尋常ではなかった市場だったことを考えると、2022年の組成額は2021年には届かない可能性があります。2022年の組成額は、すでに発表されているMorrisons買収のための66億英ポンドの資金調達パッケージ、財産管理会社のIntertrust、製薬グループの Clinigen、ユニリーバのお茶事業のekaterra、さらにはKKRがスポンサーとなっている約300億ユーロのTelecom Italiaの投機的な買収を含め、750億から1,000億ユーロになると予想されています。

『2021年が、2020年の混乱による停滞の反動で、潜在需要が一気に現れた尋常ではなかった市場だったことを考えると、2022年の組成額は2021年には届かない可能性があります。』

また、既存の借手は、追加的に、ボルトオン買収(既存事業を補完する買収)のための資金や資本再構成のための資金調達を続けると考えられます。パンデミックにより業績を向上させた企業は、EBITDAが持続不可能な高水準にある現在を好機と捉えて資金調達する可能性があり、日和見的に資金調達を行う企業には細心の注意を払うことが特に重要になります。2021年は、ヘルスケア企業が、パンデミックによってもたらされた調達の「チャンス」を積極的に活用した年でした。2022年は、スポンサーが資本再構成を試みた場合、ヘルスケアセクターはそれほど魅力的でなくなる可能性があります。また、2021年末にNordic CapitalがUnilabsを50億ユーロでAP Moller家に売却したように、バリュエーションが高い現在は売却の好機であり、その売却代金が期限前返済の原資となる可能性もあります。

ローンに対する需要

一般的に、欧州のローン市場における需要は、CLO、機関投資家、保険会社、年金基金(マネージドアカウント-投資一任勘定又はファンドを介して)、そして上記ほど大きな額ではありませんが、マルチアセットクレジットのファンドから生じます。また、ローンの返済を受けた投資家による再投資の需要もあります。欧州のローン市場は相対(あいたい)的な性質が強いため、投資家業態別のフローや市場シェアは概算であることに注意が必要です。

2021年は、前年から続いていた良好な資金調達環境のなかで、新規CLO発行額は約390億ユーロと、世界金融危機以降の最高額を記録しました(この数字は、投資活動を活性化させた、既存案件のリファイナンスやリセット(投資期間の延長等)の約420億ユーロを含みません)。CLOのシェアは、ここ数年と比較して約15%増加しています。マネージドアカウントによる需要も引き続き堅調でしたが、2021年の最大の需要はCLOによるものでした。

2022年は、機関投資家が、変動金利の担保付きシニア債権のプライベートクレジットを活発に購入すると予想しています。債券の投資家はタイトなスプレッド、インフレの様相とその対処策としての利上げに頭を抱えており、魅力的なインカム収入が期待できる案件に対する需要は高いと考えます。CLOの組成額は約300〜370億ユーロと、2021年よりもわずかに少なくなる可能性がありますが、ここ数年と比較すると依然として高水準を維持すると思われます。

『2022年は、機関投資家が、変動金利の担保付きシニア債権のプライベートクレジットを活発に購入すると予想しています。』

欧州には資金フローの公のデータがないことをお断りしておかなければなりませんが、CLO以外では、米国における資金フローからポジティブな状況が読み取れます。データは、2020年における資金流出、およびその反動による約330億米ドルにも上る2021年の純流入を示しています。対照的に、米国のハイイールド債のファンドは、2020年に純流入となりましたが、反動で2021年は約120億米ドルの純流出となりました。2022年は2021年と同様の状況になるというのがM&Gの見解です。

2021年の返済額比率は約30%と比較的高く、過去最大であった新規供給の圧力を緩和しました。返済は、Blackstoneによる金融データプラットフォームRefinitivのLSE(ロンドン証券取引所グループ)への売却、北欧の決済サービス企業であるNetsをイタリアのトレードバイヤー(同業界の買手)であるNexiへの売却など、純粋に市場から撤退するケースやトレードバイヤーに売却するケースなど、さまざまな形態の案件がありました。Carlyleがスイスの自動車用ソフトウェア企業であるAutoformをAstorgから17億ユーロで買収した案件など、スポンサー間の売買、いわゆるパス・ザ・パーセル(スポンサー間で企業を売買すること))案件もありました。特別目的買収会社(SPAC)を介した上場案件は、予想ほど多くはありませんでしたが、90億米ドル規模のBlackstoneとCVCによるPaysafeの上場案件をはじはじめ、大型案件が散見されました。

今年の上半期には、プライベートエクイティが魅力的な投資資産を自社が保有するファンド(継続ファンド)に譲渡するスキームを含め、リファイナンスやリプライシング案件が期限前返済を増加させました。H&Fは、保有していた警備企業Verisureの株式を新たに設定したファンドに譲渡し、同時にリファイナンスすることで、買収先の経営権を保持するスキームを採用しました。期限前返済の理由が何であれ、投資家にとっては、周知の2020年3月の市場暴落により損失が発生し、その後も額面価格に戻っていなかったローンを、額面で売却しキャッシュを手にすることができました。投資家は、そのキャッシュをより利益率の高い、新規の案件に投資できるようになりました。

プライベートエクイティのスポンサーは、バリュエーションが妥当であることを証明するために、資金を以前に投資していたファンドから引き揚げてより収益力の高い案件に投資することが必要となっており、それに伴って2022年の返済率は、通常の年と変わらない20%〜25%になることが見込まれています。当面は借手が大きな返済圧力を受けることがなく(今後2年間の返済額はわずか13%)、また、パンデミックによる影響はすでに価格に反映されているため、返済案件は、IPO(株式市場が引き続き吸収できるという前提で)、他スポンサーへの売却や第二次バイアウト(別のバイアウトファンドに譲渡する)など、経営権の変更が理由の案件が中心になると思われます。

 

ローンのデフォルト見通しとマクロ経済リスク

 

巨額の財政・金融支援は、家計および企業の資金調達に対する圧力を緩和するのに寄与しましたが、一方では、全世界で推定300兆米ドル1(世界のGDPの3倍以上) に急拡大した深刻な債務の実態を忘れてはいけません。そして、パンデミックの際に、尋常ではない財政刺激策(12.7兆ドルの規模2 ) が採用され、同様の規模の債券購入も実施されました。データによると、パンデミックが始まって以来、世界各国の中央銀行は市場に32兆米ドルという驚くべき資金を注入しました3 。

十分すぎるほどの市場流動性を背景に、2021年に企業は、世界の資本市場において、好条件でエクイティ、デット、ローンなどで資金を調達しましたが、その額は過去最高の12兆米ドル4  に達しました 。欧州のローン市場においては、プライベートエクイティスポンサーによる投資先企業への支援は継続しています。その結果、2020年第1四半期時の予想に反して、クレジットファンダメンタルズは改善し、借手がリファイナンスの機会を活用したため、デフォルト率は低下し、格下げされた企業数よりも格上げされた企業数が急増しました。

今年、企業が力点を置くのはレバレッジの引き下げだと考えており、ローンのデフォルトは低い状況が継続すると予想されます。市場予想では、年末時点における欧州ローンの過去12か月のデフォルト率が1.5%〜2.5%になります。ただし、リスクがないわけではありません。インフレ率が急上昇している一方で、債務の額(政府と企業の両方)が膨らんでおり、金融政策立案者と財政政策立案者が直面している課題は深刻です。巨額の債務を考慮すると、むやみに支援策を縮小することはパニックを引き起こすリスクにつながると思われます。

『市場予想では、年末時点における欧州ローンの過去12か月のデフォルト率が1.5%〜2.5%になります。ただし、リスクがないわけではありません。』

.欧州のローン市場の借手は、高いレバレッジ比率に耐えられるような、電気通信、テクノロジー、契約に基づくサービス提供業者などの「ディフェンシブ」セクターの企業を中心に、大規模で安定したキャッシュを生み出す能力があり、かつ所有者の支援態勢が万全な企業が中心であることから、リスクが顕在化する可能性はある程度他の市場と異なると言えます。新規案件のレバレッジ比率は2021年を通じてほぼ横ばいの約5.4倍であり、スポンサーの出資比率は約45%と高い状況が続いているのは安心材料です。また、短期的な返済圧力も高くありません。ローンの基準金利に0%のフロア(最低金利)を設定するのが一般的ですが、ECBが数回の利上げをした段階でフロアが適用されなくなり、それ以降企業の返済は増加します。ただし、現在の企業のインタレストカバレッジレシオ水準を勘案すれば、十分吸収できる範囲に収まると予想されます。

 

信用ファンダメンタルズは概して堅調ですが、2022年は、コストプッシュ型インフレとサプライチェーンの混乱がどのような影響を与えるかを引き続き投資家は注視する必要があります。全般的には、これまでのところ、企業はこの問題に比較的上手く対処できており、原材料価格の上昇を転嫁できています。しかしながら、問題が長引く場合は、価格支配力の弱い企業はキャッシュフローに影響が出る可能性があります。

 

最後に

ローン市場に対してM&Gが積極的な見方をする理由は、市場ファンダメンタルズが堅調であることと、テクニカル要因がさらに好ましい状態になることが予想されるからですが、そのほかにも、ローンとしての固有の強みとディフェンシブな特性が、経済とインフレの動向、ならびに金利の先行きが不透明な環境において、高い投資家需要を集めることが期待できるからです。見通しは微妙なバランスに基づいていることから、2022年はリスクを無理に追うことをせず、新規案件の規模が多額になりプライシングがリスク不相応になった場合は、投資しないという判断を下すでしょう。一方、持続可能性に注意を払っている企業は、下振れリスクに対する強い耐性を示すものと考えられます。ローンは、反復可能で持続可能なリターンの源泉を提供する資産クラスとして有望であるというのが M&Gの見方です。

1  フィナンシャルタイムズ『The liquidity threat looming over markets in 2022』、2021年12月17日
2 国連『Monthly briefing on the world economic situation and prospects – No. 146』、2021年2月5日
3 フィナンシャルタイムズがBank of Americaの『The big market questions for 2022』を引用、2021年12月18日
4 フィナンシャルタイムズ『Companies raise over $12tn in ‘blockbuster’ year for global capital markets』、2021年12月 28日

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