レバレッジドファイナンスにおける持続可能性の全体像

9 分間で理解する 26 5月 22

ESGと持続可能性は、急速に様々な角度で欧州のレバレッジドファイナンス市場に浸透しています。過去1年間に欧州で発行された新規あるいはリセット (投資期間の延長等) のCLO案件のほとんどすべてにおいて、何らかの形でESG要件に基づく除外規定が組み入れられていました。シンジケートローン市場では、サステナビリティ・リンク・ファイナンス(SLL)がその持続力を証明しています。CLOとSLL、いずれの場合も、契約書・目論見書の標準化はまだ不十分ですが、CLOに投資する運用会社は枠組みの改善を目指している一方、プライベートローンの貸手も、融資先企業のESG目標が有意義で野心的であることに、以前に比べて強い焦点を当てるようになってきています。

重要性が増す持続可能性

プライベートデットの貸手が、長い間、環境、社会、ガバナンス (ESG) の諸課題に関する透明性を求め、積極的かつ体系的なエンゲージメントを通じて、投資先企業とオーナーに対してより持続可能な行動を採用することを促していたことが奏功し、レバレッジドローン投資においてESG要因が考慮されるようになりました。

『CLOに投資する運用会社は、投資先企業選定のための基準の一つとして、ESG要因に基づき特定事業の除外対象の範囲を拡大することに努めてきました』
 

2021年初頭、投資適格未満(サブIG)の領域で「サステナブルラベル付き」ローン発行が増加し、サステナビリティ・リンク・ローン (SLL) 市場が急速に拡大したことにより、投資家の注目を一気に集めました。これは、投資家のESGリスクに対する認識が高まり、積極的な行動を起こし始めたことを象徴しています。当然の事ながら、機関投資家向けのローン投資戦略では以前から浸透していたESG革命が、ここにきて、欧州のローン担保証券 (CLO) 市場にようやく浸透してきたということです。CLOがレバレッジドローンの最大の投資家であるため、これは非常に重要なことです。現状では、ESGに基づいた投資除外基準を設けるのが一般的ですが、CLOに投資する一部の運用会社は、ESG要件をより厳しいものにする方向にあります。

欧州のCLOにおけるESG要件

肯定的または否定的なESGの文言を文書に組み込んでいるCLOの割合が増加していることは注目すべきことです。Barclays Researchのレポートによると、2021年には、新規発行あるいはリセット (投資期間の延長等) 案件のうち、欧州ではほぼすべてが、また米国では60%以上が、何らかの形でESG要件を組み入れています。文書で規定されたESG要件の除外基準により、CLOの運用会社は、特定の業界や事業に従事する企業に対するローンへの投資を制限するもので、通常そのような事業から一定割合以上の収益を得ている場合に適用されます。

CLOの運用会社は、投資先企業選定のための基準の一つとして、ESG要因に基づき特定事業の除外対象の範囲を拡大することに努めてきており、多くの案件には、「ESG関連の報告義務、ESGの社内スコアリング、そして少なからず、ESG基準を満たさなくなった場合の売却規定」を設けています。Barclays Researchによると、2021年は、平均的なCLOは前年の6業種から13業種を投資対象から除外し、米国の平均的なCLOは4業種を制限し、タバコが最も多くの案件で除外されていました。これに対し欧州では、除外対象となった上位4業種は、「問題兵器」、「タバコ」、「核兵器」、「燃料炭」でした。

しかしながら、データ提供業者である9finが最近指摘したように、投資規定のなかには、既存の法律や国連グローバルコンパクトなどの国際的条約を引用したにすぎないものもあります1。また、CLOにおけるESG規則はその普及にもかかわらず、その内容が標準化されているとは言えず、特定の業界への投資を完全に除外することは困難な場合があります。

欧州では、「ESG CLO」として販売されているCLOがいくつかありますが、これらは、担保資産の除外規定の適用だけでなく、運用会社独自のESGスコアリングに基づいたポジティブスクリーニングを導入しています。このようなCLOは、制度的には開示対象ではありませんが、「SFDR第8条に準拠した」CLOとして分類されます。ポジティブスクリーニングの基準と持続可能性の要素を促進することが同義であるかは現段階では不明です。

グリーンファイナンス革命―ラベル付きローンの急増

2021年の年初以来、世界的にシンジケートローン市場で サステナビリティ・リンク・ローン(SLL) の発行量が急増しています。2021年の発行額は前年比で239%増の4,300億米ドルに達しました。これは、SLLが、登場してからわずか4年間で86倍の規模になったということです。2022年第1四半期のプライマリー市場の混乱もあり発行額は減少しましたが、依然として、とりわけ欧州企業を中心に人気の高い商品です。

欧州が主導権を握る

欧州のSLL発行額は大きく (季節的、月による増減幅が小さい) 、2022年の第1四半期はウクライナでの戦争の勃発を契機に、ローン市場の取引が全般的に落ち込んだ影響で、欧州のSLL発行額は、絶対額においても、プライマリー市場全体に占めるシェアにおいても、減少しました。しかし、4月に入り、借手が市場に戻ってきました。

LCD (S&P グローバル・マーケット・インテリジェンスの Leveraged Commentary & Data) の四半期レポートによると、2021年に欧州で機関投資家向けに組成されたタームローンの22%がESG要件を対象とするマージンラチェット条項 (事前に設定された条件を達成するとスプレッドが縮小される) が組み入れられていました。この数値は対する米国でが1.38%でした。2022年第1四半期は一転して、欧州で組成された案件のうち、ESG要件を対象としたマージンラチェット条項を含む案件の割合はわずか11%で、その額は18億2,000万ユーロ相当でした。

借手にとってSLLのメリットは、融資の価格設定ができることに加え、グリーンローンやソーシャルローンのように資金使途が特定の環境、社会課題の寄与に限定されるラベル付きの従来型商品とは異なり、調達した資金を一般事業資金として使用できることです。

SLLの場合、持続可能性にリンクしたストラクチャーの重要な要素は、理想的には、持続可能性の枠組み並びに対象企業及び業界が目指していることに基づき、どのような主要業績評価指標 (KPI) を選択するかです。KPIは、借手の持続可能性のパフォーマンスを評価するためのものであり、通常、KPIの達成度に基づいてマージンラチェット (融資金利) が変動します。

市場慣行の確立には相応の時間を要する

急速に発展している他の市場と同様に、実際には重要でない又は内容が疑わしいKPIを採用したSLLが一部で登場したことに貸手が反応し、「グリーンウォッシング」としてすぐにイエローカードが出されました。ローン取引の国際業界団体であるLoan Syndications and Trading Association (LSTA) は、サステナビリティ リンク ローン原則 (SLLP) を2021年半ばに更新した際に、このことに警鐘を鳴らしています。貸手のなかにはSLLの健全性に対し、ある程度懐疑的な見方をする投資家はまだ存在しますが、SLLは市場から消し去られることがないことが実証されています。欧州のローンマーケットアソシエーション (LMA) も、KPIは、明確で強固な科学的根拠に基づく目標と整合させる必要があるとしています。理想的には、これらのKPIは第三者によって承認される必要があります。

SLLPは、SLLの発展を促しながら、一貫性を維持し、市場の標準を促進させることを目指していますが、SLLは、程度の違いこそあれ、案件ごとに内容が異なるため、大幅にKPIが違うケースが多々あります。それにもかかわらず、SLL市場における標準化が進んでいるとは言えません。今後市場がさらに発展するにつれ、貸手と融資先企業の双方がSLLをより深く理解して発展を促し、SLLの適切なスプレッド算出根拠に対する信頼性を高める機会が訪れるものと思われます。

ローン取引におけるESG KPI 新たなテーマ

サステナブルボンド及びサステナビリティローンの市場のデータを包括的に扱うEnvironmental Finance Bond Data (EF) によると、SLLに含まれるKPIの数は一般的に1つです (同データベースが捕捉している案件の40%) 2。同社のデータベースがSLLの全案件を網羅してはいませんが、一般的にどのようなKPIが選択されているかの目安にはなるでしょう。

テーマとしては、環境面のKPIが選好される傾向があります。SLLで採用されるKPIのテーマとして圧倒的に多数を占めるのは、二酸化炭素・温室効果ガス排出量です。KPIの範囲は、サステナビリティリンク債 (SLB) よりもSLLの方が広い傾向にあり、またEFは「二酸化炭素・温室効果ガス排出量」及び「グローバルESG評価」のKPIに関しては、SLLはSLBよりかなり広範に採用されていると分析しています。社会的テーマのなかでは、「男女平等」と「健康と安全性」が多く採用されています。

プライベートローンの貸手は伸びしろを求めている

4月21日付けのM&Gのレポート「持続可能性を明確に視野に入れているプライベートエクイティ」で述べたように、依然として、データの一貫性、測定、開示がプライベート市場の投資家にとって最大の課題です。現在、企業とそのPEオーナーによるESGデータの開示内容と一貫性を向上させるためのさまざまな取り組みが進行していることは心強いことです。

特定の持続可能性の目標を設定し、そのためのKPIを選択することに対する借手・スポンサーの意志が強くなっていることは心強いことですが、達成できると考えるKPIに合意する傾向が強くなると思われます。一方、貸手は、通常の事業の範ちゅうを超えて、有効で伸びしろのある企業目標に基づいた、信頼できる測定可能なKPIを採用し、透明性の高いESG開示と厳格さを求めています。

持続可能性の融資枠

プライベートエクイティ投資戦略とプライベートデット投資戦略の双方のうち、ESG要件を対象とするマージンラチェット条項があらかじめ規定されている投資戦略がファイナンスを受けるケースが見られます。これは、投資対象企業に対する影響度が強い場合、運用担当者はポートフォリオ全体の信用指標に責任をもってコミットする準備ができていることを物語っています。北欧最大のプライベート・エクイティ・ファンドであるEQTが、運用ポートフォリオにおけるさまざまなESG指標の達成度に応じたマージンラチェット条項付きで20億ユーロの融資枠を設定したのはその一例です。

ESG開示の標準化に向けて

SLLPは、「内部 (グローバルな持続可能性戦略に沿って借手が定義したもの) 又は、外部 (第三者機関が外部の格付基準に照らした評価) のいずれか」と記しているように、借手があらかじめ定めたパフォーマンス目標を基準にするよう導くことを目的としています。科学的根拠に基づく目標イニシアチブ (SBTi) による検証が必要な事業 (スコープ1・2の排出量) 、投資・融資 (スコープ3) において、二酸化炭素・温室効果ガス排出削減目標を策定する際、貸手がどの程度の野心的目標を有しているかを評価するために外部機関の基準を使用するのはその一例です。

しかしながら、プライベートローンの貸手は、融資先企業のなかには、より良い借入条件を得るためにグリーン性や持続可能性を実態以上に誇張しているリスク、あるいは設定されたESG目標が真にESGの改善に寄与するかの信頼性を欠くリスクが存在することに十分注意する必要があります。これは、貸手は、投資を検討しているSLL全案件について、取引条件と目標が有意義であり、十分に野心的であることを吟味するなど、適切なデューデリジェンスを実施する必要があることを示しています。

ELFAは、貸手の審査に役立てるべく、欧州社債及びCLOの運用会社が行うネガティブスクリーニングや除外プロセスを合理化し、新規の企業ローン供与時や起債時に、貸手が企業を評価するための必要な情報源として、昨年末「ESG Exclusion Checklist for Business Activities  (事業別ESG除外チェックリスト) 」を公表しました。「ESG除外チェックリストは、該当企業の売り上げのなかで、投資家の内部ESGガイドラインに抵触する可能性のある事業の比率の情報を提供します3」。ELFAは、ESG開示の一貫性とベストプラクティスを促進するために、セクターごとのESG開示の推奨案も発表し、この案が契機となり、ESGに関する関係者の議論が始まることを目指しています。セクター別のESGファクトシート (科学的知見に基づく概要書) は、ESG開示における最も重要な分野のガイドラインとして投資適格未満の企業のために作成されており、ESG KPIの概要を示す表が含まれています。そのKPIには、エネルギー消費、温室効果ガス排出量、役員の多様性などに関連する指標が含まれています。

より広い意味では、貸手が対話を通して、融資先企業がESG目標達成を確実に前進させる重要な役割であるとM&Gは考えています。最近ELFAが開催した投資家とのESGエンゲージメントに関するワークショップでは、ESGデータ開示の改善のための融資先企業とのエンゲージメントの重要性に焦点を当て、レバレッジドファイナンス市場の発展を促進するには、個別の融資先企業だけでなく、PEスポンサーや (案件を組成する) 銀行を含めることも同様に重要であると参加者は認識するようになりました。

1 9fin.com『Sustainable Junk - April 2022 Wrap』2022年5月10日
2 SLL市場の透明性は不完全であり、EFのデータベースの数値が公開情報に基づくものにすぎず、SLL活動の全容を反映していない可能性があります。
3 European Leveraged Finance Associationは、市場関係者に対するアンケートの結果をベースにESG除外チェックリストを公表しています。 (European Leveraged Finance Association、elfainvestors.com) 

投資元本は変動し、投資から得られる利益は上昇することもあれば、下落することもあり、お客様の投資元本は保証されません。

本項に記載されている内容は現時点におけるM&Gの見解であり、投資に関する推奨、助言に該当するものではなく、また将来の状況やパフォーマンスを予測するものではありません。

当資料は、一般的な情報提供を目的としており、金融商品取引業登録に基づく業務又は当社関連会社が組成するファンドの持分等の勧誘を目的としたものではありません。

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