持続可能性を明確に視野に入れているプライベートエクイティ

7 分間で理解する 22年4月21日

プライベートエクイティ (PE) 業界に関して多くの人は、PE業界の投資の規模や対象としている分野、及び企業に直接出資という投資形態を考慮すると、ESG要因や持続可能性というテーマにとりわけ適していると考えています。PE業界は、ESG統合の基準を確立することを目的としたさまざまなイニシアチブに参画する一方、投資先企業における気候変動への対応に焦点を当てています。このことは、貸手などの利害関係者にとって好都合ではありますが、借手がESG統合を確実に進めるために、借手とのエンゲージメントを継続する重要性が低くなるわけではありません。

アセットオーナーの資金を重要事項に振り向ける

一部のPE企業にとって、ESGと持続可能性は、企業の存続という要素にとどまらず、積極的な企業価値の創造の要素になっています。この数年間でESG統合が進展していることは明確ではありますが、PE業界と投資先企業におけるESGに対するリスク管理や開示基準の統一が図られていないなど、依然としてPE業界全体におけるESG統合がパブリック市場に後れを取っています。多くの非公開企業の開示基準は上場企業の基準に達していない場合が多く、歴史が浅いことを考慮すれば、ある程度仕方のないことだと思われます。

『ここ数か月の間に公表されたプライベートエクイティ業界に特化したイニシアチブは、業界が真摯に気候変動対策を課題として認識し、プライベート市場においてネットゼロを加速させる意志があることを示唆しています』

プライベート企業の変化が実世界に与える影響を及ぼす可能性があります。2000年以降、現在の上場企業の時価総額が4倍であるのに対し、PEの純資産価値は14倍とはるかに速い速度で成長しています1

PEという投資形態に関して多くの人は、投資の規模や対象としている分野、企業に直接出資するという形態、並びに投資先企業に与える経営、戦略、ガバナンスの影響度を考慮すると、PE業界がESG要因や持続可能性というテーマを推し進めるのに適合した業界だと考えています。PwCは最近のレポートにおいて、「ESG革命の初期段階にあると見受けられる…」と述べています。IPOが比較的規模の大きな投資先企業の一般的な出口戦略であることから、PEの投資家にとっては、将来の上場を見据えて、多くの投資先企業と適切な開示に関してエンゲージし、影響を与え、提唱することは特に意義が深いとM&Gは考えます。

オルタナティブ投資の情報サービスプロバイダーであるPreqinによると、世界のPE運用資産残高は、2021年末に5兆米ドルに達し、ドライパウダー (投資待機資金) の規模も過去最大の2.2兆米ドルに達しました。今日では、より多くのプライベート投資家が投資決定やポートフォリオの運用にESG要素を考慮しており、PwCルクセンブルグによる調査結果では、ESGを考慮したPEの運用資産残高は2015年~2020年に年率17% (複利ベース) で成長しましたが、一方では、2020年末時点の欧州PE資産のESGファンドへの投資配分は約11%にすぎないというものでした2。PwCの基本シナリオによると、2025年までに欧州におけるPE のESGファンドへの投資残高は2,920億ユーロに達し、「…ESG要因がバリュエーションを上昇させ、下落への耐性が強力であるという認識の高まり、並びにプライベート市場における進展が継続していること …」をその理由として挙げています。

プライベート市場においてネット・ゼロ達成のための重要な役割

他の業界と同様に、PE業界の脱炭素化にはまだ長い歳月を要するでしょうが、ここ数か月の間に公表されたプライベートエクイティ業界特有のイニシアチブは、業界が真摯に気候変動対策を課題として認識し、プライベートエクイティの投資家がプライベート市場においてネットゼロを加速させようとしていることを示唆しています。有力PEであるCarlyleは、2050年までに投資ポートフォリオ全体でネットゼロを達成することにコミットしており、2025年までに投資先企業の4分の3でスコープ1及び2に相当する排出量をパリ協定における気候目標に準拠させること、などの中間目標を設定しました。

科学的根拠に基づき気候変動対策の目標への取り組み

昨年末、7つのPE企業(運用資産残高の合計額1,330億ドル)が、自社と投資先企業に設定した脱炭素化目標が「科学的根拠に基づく目標 (Science Based Targets Initiative、『SBTi』)」の認定を受けたことを発表しました。PE業界固有の指針では、PE企業のゼネラルパートナー (GP) が、投資先企業ではスコープ1及び2の排出量の削減、PE企業自身としては投資及び融資事業におけるスコープ3、カテゴリー15の達成に科学的根拠に基づく野心的な温室効果ガス (GHG) 排出削減目標の設定を支援することを目標にしています。

気候変動に対するアプローチやデータの基準が不明確で一貫性がないため、この指針は多くの関係者に歓迎されています。PE企業にとっての科学的根拠に基づく目標は、2030年、あるいは2040年までにポートフォリオの一定割合が目標を達成させることにコミットする、認証義務のある長期的なものです。

ゼネラルパートナー・リミテッドパートナー向けのネットゼロ枠組みを策定

「気候変動に関する機関投資家グループ (IIGCC)」も、ネットゼロ投資フレームワーク (NZIF) に基づくPEに特化した指針を発表しました。2021年3月に開始されたNZIFは、上場株式、債券、不動産、ソブリン債を対象としており、今回提案されたプライベートエクイティ向けの新しい指針では、追加要素としてPEの投資先企業の指標、目標、ポートフォリオ企業の範囲や、GP及びリミテッドパートナー (LP) の推奨行動などが含まれています。IIGCCの枠組みに関する最終指針は、2022年の第2四半期に公表される予定です。

容易ではないESGデータの収集

データの一貫性、測定、開示は、間違いなくプライベート企業にとって最大の課題のひとつであり、上場企業のように、一定のデータの作成が義務付けられ、通常、MSCIなどの第三者のデータ提供業者の評価を受けている企業に比べ、利害関係者に事業や投資資産の持続可能性を証明する具体的な証拠やデータの提供が比較的困難になっています。サステナビリティ報告の基準は多数存在しますが、その結果、一貫性のない開示を招き、投資家や市場参加者に混乱を与えています。ただ、ここにきて、企業に、投資家に対してどのような持続可能性の開示を行うべきかの標準的なESG報告基準を提供することを目的に、国際サステナビリティ基準委員会 (ISSB) が設立されました。

カリフォルニア州職員退職年金基金 (CalPERS) とCarlyleを中心に、2021年9月に導入された「ESG Data Convergence Project (ESGデータの収集と報告に関するプロジェクト) は、ESG指標を標準化し、特にプライベート市場の関係者向けに、他社と比較可能なレポートの枠組みの提供を目指しています。総額で8.7兆ドルの運用資産残高を有するグローバルなLPとGP、及び1,400社を超えるプライベート企業がこのイニシアチブにコミットしたことが今年の初めに発表されました。

規制は重要な推進力

規制や政策において急速な進展を見せていることは、持続可能性にまつわるビジネス、投資、資本市場を前進に寄与しており、透明性を向上させること、並びに「グリーンウォッシング (うわべだけ環境保護に熱心に見せることこと)」を防ぐことを目的とした新しいルール、基準、枠組みを策定することにより、投資業界全体が使用できる基礎ができました。

気候変動対応の報告様式、及び全世界の投資家向けの広範なESG要因に関する報告様式の基準の統一化も歓迎すべきことです。「保険監督者国際機構 (IAIS)」は、気候変動リスクと持続可能性の問題に関する多国間の調整を促進すると同時に、「国際的に活動する保険グループ (IAIG)」に適用する「合算ベースのグループ資本計測 (ICS)」の基準策定の取り組みを進めています。全世界のIAIGの3分の1以上が欧州企業であることを勘案すると、2024年に発効するICSは、欧州企業にとって特に重要性が高いものになると考えます。

多くの点で、欧州は持続可能性とESG基準の設定に関して主導権を握っています。MSCIは、米国の規制当局であるSECが定めた気候関連の開示規則を満たすために、多くの米国上場企業が温室効果ガスのデータを採用した財務諸表を導入する必要があると指摘しています。欧州の企業は米国企業と異なり、開示や目標設定に前向きであり、また近いうちに開示等が義務付けられる予定です。

欧州委員会は、世界全体のバリューチェーンにおける人権と環境への影響に取り組むための「コーポレートサステナビリティ・デューディリジェンス指令案」を公表しました。ECは、EU企業13,000社とそれ以外の4,000社が指令の対象になると推定しています。これには、「サステナブルファイナンス開示規則 (SFDR)」及びタクソノミー (地球環境にとって企業の経済活動が持続可能であるかを判断する仕組み) の規則と共に、世界の各国のコミットメントに沿ったESG方針に則した  ESG関連のデューデリジェンスの実施を企業に課すことが含まれています。

プライベートエクイティ業界における「ESG革命」は貸手にとって追い風になるか

非上場企業がESGと持続可能性を採用するにつれて、非上場企業に融資するプライベートローンの貸手も、気候変動対策 (及び達成のための計画) のコミットメントが多くの分野に及ぶことや投資規模が拡大するだけでなく、共通基準、報告様式、ESG統合が統一化されることによる恩恵を受けるようになると考えられています。

スポンサーが所有するプライベート企業の歴史が浅いことをある程度は考慮する必要があるでしょうが、プライベート企業の利害関係者が設定する基準は、特に欧州において高いものになっており、なかには規制基準よりも厳しいものさえあります。プライベートローンの貸手は、借手企業がESGの開示内容を充実させ、目標に対して十分な進捗を示すために、借手企業やオーナーであるPE投資家と積極的にエンゲージする必要があります。

このシリーズの次のレポートでは、過去最大規模になっているサステナビリティリンクローン市場や、急拡大している欧州における「ESGラベル付き」CLO市場など、ESGと持続可能性がレバレッジドローン市場にどのような影響を与えているかを解説いたします。

1 「McKinsey Global Private Markets Review 2022」(2022年3月)
2 PwC Luxembourg 「2022 EU Private Markets: ESG Reboot」

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