プライベートクレジット市場 - 投資方針を堅持

10 分間で理解する 22年3月23日

逆風環境が続き、パブリック市場でボラティリティと不確実性が高まっているなかで、どのようにすれば長期投資家はリターンを確保できるのでしょうか。今年は、主要国の中央銀行が利上げする方向にあり、変動金利のプライベートクレジットは、インフレ率が上昇する局面において魅力的なヘッジとして機能するとM&Gは考えています。プライベートクレジットの貸手もまた、世界的なパンデミック下において、その効力を多くの借手に示すことができ、流動性が一時的に枯渇した市場においてもその有効性が証明されました。

市場概観


この数か月間は、インフレ率の上昇と利上げ(イングランド銀行は12月以降短期金利を0.75%引き上げた)のダブルパンチと、新型コロナウイルスの変異株(オミクロン)に対する懸念が市場を支配しました。新年を迎えた時点では、市場動向に詳しい者は、2022年における最大の(既知の)リスクは、政策の失敗だと考えていました。

『より広い意味でプライベートクレジットと低流動性資産への投資は、多くの企業や、投資資産のファンダメンタルズとは切り離された乱高下や悪影響から比較的隔離されたままであると予想しています』

高まる地政学的緊張

ウクライナでの戦争が収束せず、当然のことながら世界の金融市場では、価格が大きな変動に見舞われている資産クラスが見られる一方、西側がロシアに課している制裁が同国の経済と金融システムに与え得る影響を投資家は計ろうとしています。現段階ではまだいろいろな面で先行きが見えませんが、世界有数のエネルギー生産国に対する制裁は、エネルギーを始めとするコモディティの価格を押し上げることにつながります。

インフレ率の見通し

欧州大陸の各国では、サプライチェーンの混乱と労働力不足が物価を押し上げており、ここ数か月だけでユーロ圏のインフレ率が過去最高の水準に達しているなかでのエネルギー価格の上昇は、ロシアが供給する石油と天然ガスに大きく依存している(20%と40%)各国におけるインフレ高進の圧力になることは自明の理です。英国の場合は、天然ガスの最大の供給源は英国領北海の大陸棚であり、さらに輸入分に関しても大半はノルウェーなどからであり、2021年における総天然ガス供給量のうちロシアからの輸入分が占める比率は4%未満でした。

それでも、天然ガス価格が高止まりすることは、欧州全体の消費者と企業信頼感(及び企業活動)を低下させ、ひいては経済成長に大きく影響すると考えます。市場においてディストレストの兆候はまだ見られておらず、欧州企業のデフォルト率も引き続き非常に低い水準にあります。ただし、M&GのRADS (債務再編・デットソリューション)チームの分析によると、ロシア向けの販売に依存していた多くの欧州企業は、ロシアから撤退するにつれて収益が減少すると考えられ、それに伴って資本構造の調整に迫られる可能性があります。同様に、石油と天然ガスの供給が不安定な状態と高値が持続的することは、一部セクターの企業のコストを上昇させることも考えられます。

各中央銀行は、今後数か月間、主要なマクロ経済指標動向に細心の注意を払うことになるでしょう。

変動金利のプライベートクレジット商品は、インフレ率が上昇する局面において魅力的なヘッジとして働き、安定したインカム収入の確保に寄与すると考えられていることをここでも強調したいと思います。インフレ率の高い時期に「高いキャリー収益、短いデュレーション」のプライベートクレジットが債券投資家に提供するメリットについてのM&Gの最新のレポートも併せてご参照ください。

混乱を切り抜けている市場

刻々と変化する状況と広範な影響が明らかになるにつれて、パブリック市場では短期的にボラティリティと不確実性が高まることが予想されます。

2020年3月に新型コロナウイルス感染症のまん延に伴いボラティリティが上昇した際に、テクニカル要因で拡大したスプレッド水準は、積極的な投資家に魅力的で質の高い投資機会をもたらしたことを皆様はきっと覚えているでしょう。当時、中央銀行は、流動性が枯渇し、価格が低下したパブリック市場に間髪を入れずに救済の手を差し伸べました。今年に関しては、本稿執筆時点で、市場における取引高が小さいなか、投資適格債(IG)指数が2018年後半の水準にまで低下するなど、欧州クレジットのスプレッドは拡大しています。M&Gのパブリック債運用チームは、コストプッシュによりインフレ率が上昇しているときに、量的緩和(QE)により市場の安定化を図ることは、需要を増加させインフレを引き起こすことにつながると考えており、現在の市場のバリュエーションは、ロシアとウクライナの紛争に衆目が集まるなか、各中央銀行が金融刺激策の縮小を開始するリスクを反映していないことを示唆しています。

より広い意味でプライベートクレジットと低流動性資産への投資は、多くの企業や、投資資産のファンダメンタルズとは関係がない原因で発生したボラティリティの悪影響を受けない状況が続くと予想しています。比較的満期が短いプライベートクレジット市場には、スプレッドが市場価格に影響している分野もあり、センチメント悪化に伴うパブリック債市場の価格変動の影響を受けてボラティリティが高まる可能性があります。しかしながら、M&Gが投資するプライベートクレジットの多くはモデルによって価格を算出していますが、通常は公募市場におけるクレジットスプレッドもその要素の一つです。したがって、プライベートクレジットは、評価替えの対象になる可能性を完全には否定できないものの、リスクが若干軽減されていることを意味します。

直近のプライベートクレジット市場

企業向け融資、消費者金融、実物資産融資、ストラクチャードクレジットなど、プライベートクレジットの多様な分野に投資することができる当社の生来の柔軟性を考えると、この数か月間、魅力的なリスク調整後リターンの獲得が期待できる多様な投資機会が現れていることを心強く感じています。特に2021年第4四半期は、投資実行額において順調な四半期でした。

多様な投資ユニバースの全体を見渡す柔軟性

M&Gは、プライベートクレジット市場全体でのさまざまな投資機会を見出してきました。例年どおり第4四半期は、相当のリスク移転(SRT)案件が多く見られましたが、新年は、借手がオーダーメイドの融資を求める状況が続いたことで、さまざまなセクターで興味深いダイレクトレンディング案件が見られるようになり、好調な滑り出しでした。私募債に関しては、予想していたとおり、以前の案件が期限前償還になったことを受けて、既存の相対(あいたい)案件のリファイナンスがありました。

相当のリスク移転(SRT)案件

2021年における英国・欧州大陸の銀行の融資額がパンデミック以前の水準に回復したため、これら銀行オリジネーターとなった案件を中心に多くのSRT案件がありました。

第4四半期中の注目に値する案件として、著名なグローバル銀行と、主に投資適格級企業向けローンのポートフォリオにおけるファーストロスとセカンドロスのトランシェのSRT案件を相対ベースで締結した案件が挙げられます。市場で締結される案件の大半は大企業向け、又は中小企業向けのローン関連ですが(2010年以降の案件ではほぼ2/3)、消費者向けローン、貿易金融、キャピタルコール(投資ファンドが投資家に出資を求める権利)、スペシャライズド レンディング(プロジェクトファイナンスのように、特定資産のみを返済源とするローン)、商業用不動産など、幅広い種類の資産を参照する多くの案件も市場に登場しています。

ミドルマーケット企業向けダイレクトレンディング

2020年のダイレクトレンディング市場は混乱に満ちた1年でしたが、その後は活況を呈しています。欧州のオルタナティブレンディング市場をけん引する68社の動向をまとめたデロイト トゥシュ トーマツの『Deloitte Alternative Lender Deal Tracker Spring 2022: Flash Results』によると、2021年は、第4四半期の取引が大幅に伸長し、通年ベースでは、2012年にプライベートクレジット市場動向の調査を開始して以来、最も活発な1年でした。デロイトは、2021年の案件総数が「2020年対比で89%増、それまでの最多であった2019年対比で51%増であり」、「この尋常とは思えないほどの案件数の背景には熱を帯びたM&A市場があった」としています。

またM&Gは、最近公表した『2022年レバレッジドローン市場見通し』において、活発なM&A市場の後押しにより2021年における新規レバレッジドローン市場の規模が過去最高の約6兆米ドルであった、との調査結果を公表しました。このことは、欧州のローン市場の規模が1,300億ユーロと、2017年の1,210億ユーロを上回り、世界金融危機以降で最大になったことに寄与しました。プライベートエクイティ(PE)ファンドが、投資家から集めた資金のうち未投資分(ドライパウダー)の投資を開始したことを背景に、PEのシェアが拡大し、新規組成額の約60%がM&A関連(2017年は約40%)となりました。オルタナティブ投資のデータベースであるPreqin Proによると、現在の世界におけるPEのドライパウダーの額は2.2兆ドルを超える規模になっています。

アジア太平洋地域のオリジネーション

アジア太平洋地域のオリジネーションチームは、開発案件を中心とした不動産ファイナンスなどのストラクチャードファイナンスに投資機会があると考えています。オーストラリアにおける完成済みの住宅用不動産開発事業の案件はその一例です。

スペシャル シチュエーションのファイナンス

不確実な環境は、スペシャル シチュエーション ファイナンス(企業経営の特殊な局面をとらえたファイナンス)に対する需要を高めています。企業やスポンサーは、マクロ経済環境の変化に起因する資本的支出に関する自社固有の課題に対処するために、スペシャル シチュエーション ファイナンスの必要性が生じています。例を挙げると、ビジネスを成長させるために必要な追加資本を提供できない投資家から、英国のブラウンフィールド開発(既存設備の増設・更新)案件を取得する投資機会と、新しいESG要件を充足するための設備投資を自社では賄えないと判断した企業から、複数の物流物件を購入する機会がありました。

他の分野では、小売業のように投資家が余り注目しないセクターの不動産物件に付加価値を与える可能性がある投資機会が引き続き見られます。このような案件は、セクター全体では懸念材料があるものの、個別物件としては懸念を緩和する特殊事情を有していると考えられる物件です。
 

今後の展望


プライベートクレジットの投資家は、短期的には逆風を受けることに注意しつつ、ポートフォリオ全体での分散やリスクに見合ったリターンの獲得を図りながら、忍耐強く、長期的な投資目標の達成を目指すことになります。プライベートクレジットの貸手は、新型コロナウイルス感染症によるパンデミックの間、本来流動性が高い市場の流動性が一時的に枯渇した際も、既存の借手・発行体にとって安定的に資金を供給する貴重な貸手であることが証明されたように、不確実な環境のなかでも資金を供与する姿勢を貫いています。

プライベートクレジット資産は、一般的に上場証券との相関が低く、多くのディフェンシブな特性を備えているため、市場のボラティリティが上昇し、混乱が大きい時期においても投資収益がそれほど低下せず、そのため投資家は通常満期まで保有し続ける傾向があります。近年、機関投資家による保有が増加していることも、市場の安定につながっていると考えられます。細心の注意をもってプライベートクレジット投資をストラクチャーする能力をもち、さらに、多くの候補のなかから優れた案件を選択するための強力なオリジネーション機能、及びプライベートクレジット全体に投資する柔軟性を備えることにより、ポートフォリオの下振れリスクをさらに軽減することができると考えます。

現時点におけるプライベートクレジット及び低流動性クレジットの新規案件のパイプラインは潤沢で、かつ多様性があり、投資するには優れた環境だと考えます。ダイレクトレンディングのパイプラインもここ数か月間は順調に育ってきており、欧州の家具デザイナー・メーカーのリファイナンス案件などが見えています。また、ストラクチャードクレジットに関しても、魅力的なリスク・リターンが期待できる投資機会が散見されます。

アジア太平洋地域のオリジネーションチームは、潜在的な投資機会のパイプラインが潤沢であることを確認しており、さまざまな進捗状況にある案件が進められています。一方、欧州のレバレッジドローン市場においても投資案件を引き続き検討しています。

1 英国政府『Russia-Ukraine and UK energy: factsheet - GOV.UK (www.gov.uk)』(2022年2月25日)

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本項に記載されている内容は現時点におけるM&Gの見解であり、投資に関する推奨、助言に該当するものではなく、また将来の状況やパフォーマンスを予測するものではありません。

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