プライベートクレジット市場-不確実性のなかで成果を上げる

11 分間で理解する 15 12月 21

企業によるプライベートクレジットに対する需要は依然として高く、多くのセクターで新規案件組成が活況に推移しています。投資家サイドは、マクロ経済の不透明さとそれに伴う金融政策の不確実性を考慮し、引き続き比較的期間の短いプライベートクレジットが提供するメリットに着目しています。

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市場環境全般

2021年に入り、多くの先進国では、経済活動の本格化とともに、成長見通しが上方修正されました。パンデミックによって引き起こされた混乱からの回復は、行動制限の解除や成人へのワクチン接種の普及に伴い、消費者の支出増加と供給力を大幅に上回る財やサービスの需要がけん引役となりました。ただ、この数か月の間に、感染の再拡大、エネルギー価格の上昇、サプライチェーンの世界的な混乱、労働力不足などの逆風要因も顕在化しており、漸く芽生えてきた成長の勢いを鈍らせる可能性も生じてきました。


『インフレ懸念の拡大が、より短期の低流動性プライベートクレジットに有利に働いていることは驚くことではありません』

可能性が高まるインフレシナリオ

ほとんどの市場関係者は、新型コロナウイルス感染症を起因とした逆風要因が2022年中には解消すると予想していますが、経済見通しに対する不確実性が完全に払拭されたとは言い難く、特にオミクロン株のまん延は重大な懸念事項です。投資家はまた、現在のインフレ率が一時的なものであるか、この高いインフレ率が定着するリスクについて市場関係者のなかでも見解が分かれており、複数のインフレシナリオを検討しなければならない状況にあります。10月の英国の物価上昇率は、ほぼ10年ぶりの高水準となり、また、米国の消費者物価上昇率も過去30年間で最も速いペースで上昇し、インフレ期待が、特に英国で急上昇しました。この状況の変化により、各国の中央銀行は予定よりも早く短期金利を引き上げる必要性に迫られています。多くの中央銀行は資産購入政策を終了させることを示唆し始めていますが、現時点では利上げに抵抗感を有しています。それにもかかわらず、市場はイングランド銀行と米連邦準備制度理事会が2022年中に金融引き締めに着手することへの確信を高めています。ユーロ圏においても消費者物価上昇率が加速していることを受けて(この13年間で最高)、市場は2022年後半に利上げが開始されると予想していますが、欧州中央銀行にはその考えはないようです。

金融・財政の政策立案者が直面している課題は深刻です。ほとんどの先進国の10年国債利回りはインフレ率をはるかに下回っています。実質金利が低い、あるいはマイナスの状況にあるなか、対GDPの債務残高比率は第二次大戦後の最高水準で推移しています。

プライベートクレジット ー 確実性の高いインカム収入をもたらす

現在の低金利環境において、投資家は従来型の債券への投資ではインカム収入が期待できないことを感じています。一部の投資家は、インカム収入確保のためにより高い与信リスクを取る方向に動いているなか、固定金利の資産、特にクレジットスプレッドが小さい発行体の資産において、金利上昇局面では資産価格が下落することも理解しています。インフレ懸念の拡大が、より短期低流動性プライベートクレジットに有利に働いていることは驚くことではありません。プライベートクレジットの投資可能ユニバースは、主として短期金利に連動した変動金利で提供され、多くの場合、キャッシュフローは契約等において明確に規定され、また財務制限条項などの投資家保護策が講じられています。

投資家は、長期的なインフレの影響を受け難いという実績を有する、実物資産を含めたプライベートクレジットやオルタナティブ資産に投資を分散することで、ポートフォリオのリスクの軽減を図ることが賢明かもしれません。

ストラクチャードファイナンス ― 利回りの向上を目指す

投資家は、資産を満期まで保有することで調達コストを上回る利息収入が得られながら、パブリック市場で取引されている同等格付けの債券よりもボラティリティーが低く、さらには利回りの向上が期待できる、変動金利である欧州の資産担保証券(ABS)に投資の好機を見いだしています。ABS市場では全体にわたってスプレッドの低下が見られ、これにより原資産の資産評価額が上昇しましたが、想定外のことが起こらないかぎり、スプレッドがさらに低下する余地はあると考えています。

プライベートABS案件のメザニン(劣後)クラスの多くは、ハイイールド債指数や公募ABSのメザニンクラスに比べ大幅に高い利回りを提供しています。このような案件は、米国の住宅改修ローンやクレジットカード債権などの担保を裏付けとする、私募のフォワードファンディングのストラクチャーに多く見られます。ストラクチャーの複雑さと案件内容に合わせた契約の条項は与信の保全に役立つ、プライベートクレジット案件に固有のものです。

最近のプライベートクレジット市場動向

2021年の第3四半期から第4四半期の初めにかけては、借手の調達意欲が引き続き高かったことを背景に、プライベートクレジット市場の多くのセクターで多くの新規案件が組成され、ました。

レバレッジドローン ― 良好な相対価値を提供する投資機会の特定

市場全体を見渡すと、一部の分野では、過剰流動性を背景に、利回りを追求する投資家が与信リスクのより高い資産を求める傾向が強まっているため割高になっていますが、パブリック市場の同等格付けの資産に比べて魅力的 な相対的価値を提供する分野も存在します。当社では欧州のレバレッジドローンがハイイールド債指数よりも魅力的なスプレッドを提供していた局面で、戦略的に資産を配分しました。また、欧州でのローン組成額も高い水準にあり、このペースを保てば世界金融危機以降で最高水準になると思われます。2021年下半期は、プライベートエクイティ(PE)スポンサーが多額のドライパウダー(未投資資金)をM&Aに投資し、また、レバレッジドローン市場に新たな借手を登場させたため、投資家の選択肢が拡大したともに、利回りの向上も見られました。

ローン金利が変動金利であるため、短いデュレーションにもかかわらず、比較的高いインカム収入が期待できることや、セカンダリー市場において担保付きシニアローンの売買を通じた投資機会があることは良くは投資家によく知られていますが、そのほかにも、ローン市場において相対的価値が期待できる投資機会も魅力的です。また、売却者層・購入者層に厚みがあり、取引が活発なセカンダリー市場が存在することは、プライベートクレジットの他の分野に比べて高い流動性があることを意味しており、プライベートクレジットや流動性が低い資産の他分野にスイッチする際や、魅力的な投資機会が出現した際に柔軟に対処することを可能にします。

同様に、投資機会を機動的にに求めている際、セカンダリー市場において、確信度の高い、シングルB格(M&Gのクレジット分析チームによる内部格付け1)のローンが額面をやや割れた価格で取引されている事例を多く見かけました。このようなローンのディスカウントマージンは、シングルB格やセクターを代表する借手がもつ高いレバレッジ水準を懸念する投資家の動向を反映した短期ローンのスプレッドを基に根付けされているため、現在は新たに投資するには魅力的なタイミングだと考えます。ローン市場における相対的価値が今度どのように変化するかにもよりますが、このような投資機会が出現した際は常に検討対象となります。ただし、質の高い案件のみに投資する姿勢を変えるつもりはありません。リスクに見合ったリスクリターンを提供する投資機会のみを検討対象とし、ファンダメンタルとなる与信リスクを犠牲にすることはしません。

中堅企業向け融資 ― 力強く拡大する市場

M&Gのダイレクトレンディングのチームは、年末の数か月間を含めた2021年の大部分を通じて、スポンサーの支援が厚く、業界最高水準の優良企業に対する融資ファシリティ、在ニュージーランドの農業事業を営む企業、英国の不動産投資信託(REIT)など、さまざまな中堅企業に対する多くのダイレクトレンディング案件を目の当たりにしました。総じて、中堅企業に対するダイレクトレンディング案件のスプレッドは引き続き魅力的な水準にあります。

インフラデット ― 本質的な価値を見いだす

インフラセクターに対する投資家の関心は依然として高く、デット供与の投資機会は多くの分野で存在します。インフラ資産のなかで、シニア債権の投資機会として、選択的に着目しているセクターは空港業界です。

注目すべき分野:航空関連セクターに対するデット供与

航空関連セクターは、新型コロナウイルス感染症まん延が旅行及びレジャー業界に及ぼした影響により、強烈な逆風環境におかれていますが、乗降客数に増加が見え始めるなど、回復の兆しがあります。短期的に不確実性が残るのは仕方ありませんが、長期的な視点に立つと、良好なファンダメンタルズを有する空港関連の資産担保証券に対する価格設定は、同等の公募債(同じ発行体が発行した同様の年限をもつ公募債)に対し、流動性が低いことを十分に補うプレミアムを提供していると考えます。

潜在的なリスクは、二酸化炭素排出量削減を図る政策や、人々のライフスタイルの変化などに伴う乗降客数の大幅な減少です。本案件においては、融資枠の期間が短いことから、リスクは低いと判断しました。環境・社会・ガバナンス(ESG)要因の評価に関して、多くの空港は、二酸化炭素排出量削減に取り組む国際空港に付与する認証制度「Airport Carbon Accreditation(空港カーボン認証)」の高いレベルの認証を取得し、排出量削減の措置も講じています。また、持続可能性にリンクした資金調達も見られ、投資した案件の例としては、持続可能性の主要業績評価指標(KPI)を発行体が達成できなかった場合はペナルティが課されるものがありました。

スペシャリティファイナンス ― ポートフォリオの分散化を図る投資機会

スペシャリティファイナンスの分野では、貸付を行うノンバンク向けの証券化案件のウェアハウスファイナンス(つなぎ融資)であるジュニア債権案件、クレジットカード債権を担保とする米国のクレジットカード企業に対するメザニンクラスのウェアハウス案件の借り換えなど、ウェアハウス案件への投資機会が散見されました。2番目の案件は特に興味深いものでした。この企業は経験豊かな経営陣によって経営され、またローンサービサーとしての経験も豊富であり、対象消費者層のなかで最適なリスク調整後リターンが期待できる顧客(具体的には「フェアな与信先」として分類されるプライムではない消費者)を抽出する独自のシステムを開発しました。また、ポートフォリオの質を維持するための、債務者あたりの厳格な限度額設定や適格性基準などを備えた融資条件の基礎となる一連の包括的なコントロール策など、複数の与信保全策が契約に織り込まれています。

今後の見通し

新型コロナウイルス感染症により、プライベートクレジット市場は一時機能不全に陥りましたが、その後再開し、2021年は年間を通じて取引高は増加しました。広範な経済情勢と金融政策の見通しが不透明ななかで、プライベートクレジット市場は2022年以降どのように推移するのでしょうか。今後数か月間、プライベートクレジット市場全体でどのような案件が市場に登場するのでしょうか。

短期で低流動性のプライベートクレジット案件は、市場環境がどのように変化したとしても、なくならない資産クラスであり、同等の信用リスクのパブリック商品よりも低い価格ボラティリティーを有しながら、より高いリスク調整後リターンを提供すると考えています。インフレ率が上昇した場合でも、投資可能なユニバースを構成する主なストラクチャーである変動金利のローンやその他の商品は、インフレ率と金利上昇の影響を受け難い特性を有しています。変動金利商品に投資する投資家は、金利が上昇した場合でも収益が期待できます。

順調に拡大する案件パイプライン

民間企業向けの融資に関しては、複数の投資機会が現れており、今後数か月の間には投資が実行できる予兆があります。特殊部品メーカーへの融資案件、また、英国を拠点とする資産管理会社の既発行の債券を、与信の質を劣化させずにより良い条件への私募ベースのリファイナンス案件はほんの一例です。同様に、動産担保融資(ABL)の案件フローも引き続き有望です。中堅企業は、不動産、在庫、売掛金、機械、設備などの資産を担保として提供することで、より魅力的な金利で融資を受けることができることを認識しています。プライベートクレジットの貸手側から見ると、ABLは、さまざまな形態の資産によって与信の全額が担保され、リスクに対して十分な水準のリターンを提供するストラクチャーです。

相当のリスク移転(Significant Risk Transfer)案件は毎年第4四半期に案件が集中しますが、2021年においてもSRTを含め、他の分野の潜在的な案件数は多く、近い将来に投資を実行できる可能性があります。

グローバルなオリジネーションに注力

2021年を通じて、M&Gはアジア太平洋や米国など、世界のより多くの地域でオリジネーション能力の確立・構築、及び欧州でのオリジネーション能力を高めることに引き続き注力し、その結果、プライベートクレジットと低流動性資産の投資可能なユニバースを拡大させることができ、案件パイプラインとポートフォリオの構築に寄与しています。アジア太平洋地域など、欧米以外の地域でオリジネーション能力を構築することで、企業の経営陣、パートナーとなるオリジネーター、地場の銀行との関係を拡大し、緊密にすることができるようになると考えます。

グローバルなチャネルを活用することにより、多くの投資機会を見いだすことができるようになりました。2021年、アジア太平洋地域のオリジネーションチームは、環境面で優れた持続可能性を示す「グリーン」認証を取得した建物を担保としたオーストラリアの商業不動産ローン案件や、インドで貸付を営む企業に対するファイナンスなど、多くの国で案件フローが増加していることを目の当たりにしました。アジア太平洋地域のチームは、ストラクチャードファイナンス分野において多数の潜在的な案件(多くはローンと不動産が担保)を目の当たりにしています。ストラクチャードファイナンスは、今後も成長が期待できる分野と同チームは考えています。

ESGと持続可能性の分野での融資案件が多く現れており、この分野も期待を持っていますが、多くの案件に接することができるようになったのは、M&Gのプライベート&オルタナティブ・アセット運用部門全体のオリジネーション能力の向上が反映されているためと考えています。

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本項に記載されている内容は現時点におけるM&Gの見解であり、投資に関する推奨、助言に該当するものではなく、また将来の状況やパフォーマンスを予測するものではありません。

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