プライベートクレジットを形成する3つのテーマ

6 分間で理解する 21年11月29日

プライベートクレジットは、変化し続ける投資環境において、投資対象としての優位性を維持していることを投資家と借手の両方に示しています。プライベートクレジットの貸手は、ESGを重視する姿勢を強めており、ESG課題解決のためのテクノロジーの採用やイノベーションの推進に積極的です。このことは、プライベートクレジットの新時代の幕開けにつながると思われます。

ここでは、現在及び今後のプライベートクレジットの投資展望を形成する3つの主要なテーマについて解説します。3つのテーマはいずれも中期的なものであり、既存のみならず、新規の投資家からの要求であるポートフォリオの多様化と長期的な投資目標達成に、どのように変化、適応し続けているのかを明らかにします。

ESG要件に対するモメンタムとインパクトはプライベートクレジット分野でも高まっており、貸手はESG要件をさらに重要視する傾向にある

次世代の資本提供者の1つはプライベート市場であり、これまで以上に環境や社会を考慮することになると考えられています。世界中の人々が、持続可能な世界への転換が深刻、緊急かつ不可逆的な課題で、投資のパラダイムがシフトしつつあると信じています。ESG要件の採用に関してはパブリック市場の方が進んでいるのは明らかですが、プライベートクレジット市場におけるESG重視のモメンタムも、パブリック市場に負けないくらい顕著であり、注目に値します。

『プライベートクレジットの貸手は、ビッグデータの分析方法の開発を含め、ESG要素の開示とプライベートクレジット関連のデータ入手の困難さを克服する新たな手法を見出しています』

プライベートクレジットは、今日の世界が直面している諸問題の解決策の一部に資金を提供することができるため、持続可能な融資に適していると考えます。インフラデットや社会住宅などの特定のプライベートクレジット戦略は、主要なESG要素に対するモメンタムや、脱炭素化、貧困削減、経済的包摂などの主要な持続可能性のテーマに沿って、学校や病院などの社会インフラ資産、エネルギー生産、暖房、交通など投資の必要性が高まっているインフラ分野に投資する機会を提供します。プライベートクレジットによる資金は多くの場合、特定のプロジェクトに限定され、資金がピンポイントで活用される可能性が高い中小企業に供与されることが多く、複数のテーマを対象とするインパクト投資のポートフォリオに非常に適しています。

最近のイノベーションも、プライベートクレジット市場におけるESGの促進に役立っています。レバレッジドファイナンス市場でのESGラベル付きのローンや「サステナビリティ・リンクローン(SLL)」が組成されるようになったことは、非上場企業が変化を受け入れていることを象徴しています。このことは正しい方向に向かう第一歩であることは事実ですが、貸手は、借手や発行体が設定した、持続可能性の目標にリンクするマージンが借手や発行体にとって真に意味をもつか、また持続可能性にリンクすることが持続可能性の枠組みを適切に反映しているか、さらに目標が持続可能性と深い関連があり、借手や発行体が持続可能性に対して真摯であるかなどを積極的に確認する必要があります。

プライベートクレジットの貸手は、体系的で組織化されたエンゲージメントなどを通じて、プライベートクレジット市場でのESGのスイッチを入れ、借手・発行体が持続可能な行動を採用することを奨励していますが、プライベートクレジット分野では、気候リスクに関するデータを含め、一貫性のある正確なデータが欠如していることが少なくなく、貸手を悩ますことがあります。

これは、短期・中期・長期の目標を含め、借手・発行体が開示内容の充実を奨励されていることを意味します。そして、プライベートクレジットの貸手は、ビッグデータの分析方法の開発を含め、ESG要素の開示とプライベートクレジット関連のデータ入手の困難さを克服する新たな手法を見出しています。

データ分析の機能を高めることにより、プライベートクレジット投資の課題をチャンスにする

データは、すべての資産クラスにおいて運用と分析のための中核的な役割を果たします。プライベートクレジットの貸手は複雑な案件を扱うことが多いのですが、第三者の見解や情報が不足しがちです。投資は、オリジネーション、デューデリジェンス、与信審査からポートフォリオの構築、投資の継続的なモニタリングに至るまで、非常に多くの人材を必要とします。通常、投資対象資産は相当量の基礎的データを有していますが、そのなかには投資のリスクに関する重要な情報が埋もれていることがあり、案件内容の把握を困難にすることがあります。

既成のソフトウェアの機能に勝る革新的な技術ソリューションと精緻なデータ分析ツールを構築することは、完全にとは言えないまでも、他では得られない有益な情報を得ることを可能にします。

プライベートクレジットの貸手は、ESGに関するデータと開示内容が明らかに不足していることに対処するために、すでにビッグデータの分析手法を採り入れています。

Carbonatorは、プライベートクレジットの全ポートフォリオの二酸化炭素排出総量を推計する独自のツールです。インターネット・データ・スクレイピング(Web上から必要なデータを取得すること)などの他のテクノロジーツールや技術とともに、Carbonatorの機械学習技術を使うことにより、二酸化炭素排出量が入手出来ない場合や非開示の場合でも排出量を推計できます。企業の二酸化炭素排出量を推計する論理と技法は、住宅ローン、一般のローン、実物資産のプールを参照する証券化商品とは異なり、個別に内容が異なり、モデル化が困難あるいは比較できる公表データがないことが往々にしてあります。いずれの場合も、推計値は借手・発行体、オリジネーターに、より正確な数値の開示を求めるための話し合いや開示を奨励するための第一歩となります。つまり、Carbonatorのような な革新的なテクノロジーツールは、持続的で体系的なエンゲージメントのプログラムの有効性を高め、プライベートクレジットの貸手が、融資取引終了までの期間にわたって全ポートフォリオにおけるESG関連リスクを適切に管理しモニターするのに寄与します。

プライベートクレジットの一部の分野では、スピードが差別化の重要なポイントになることがあります。大量のデータを入手し、形式をそろえて処理する機能を有することは、投資を検討している、例えば住宅ローンや消費者ローンのポートフォリオを評価する際の貴重な武器となります。この分析を実行するために必要なデータの絶対量は、既製のスプレッドシートやデータベースプログラムの最大容量をはるかに超えており、分析に先だってデータを保存するために、まず独自のPythonベースのデータベースとシステムを構築する必要があります。その結果は、売却者との交渉において、ポートフォリオの中のどのローンを購入・除外するかの判断や購入価格の算定の基になります。

新しい投資機会や市場で成功を収めるためには先駆者としての革新的な考え方が必要

代替的資金の提供者のなかには、借手の間で高評価を受けるようになり、この10年間ほどで特定の業種や国において存在感を高めることに成功した者もいれば、革新的なソリューションを求める堅実な需要にも対応しようとしている者もいます。債務者との協働が有効であることは実証済みであり、この手法を新たなセクター・市場や異なる国に適用することは、アルファとベータの源泉の分散化を最終投資家に提供するとともに、ポートフォリオの構築にあたり、優良案件だけで太い新規案件のパイプラインを築くのに役立ちます。

例えば、多くのセクターや幅広い種類のプライベートクレジットに証券化のストラクチャーと手法を適用することにより、さまざまな投資家層が有する多様なリスク・リターン目標を1つの案件で満たすことが可能となるため、異なるリスクプロファイルをもつ複数のトランシェで構成される案件が増加しています。この考え方をアジア太平洋や米国など他地域に適用し今後数年間の成長に焦点を当てます。グローバルでオリジネーション能力を確立することは、投資ユニバースをより多様で幅広いものに拡大し、多様性に富む案件のパイプラインとポートフォリオの構築に寄与すると考えます。

今後は、スケールの大きな、新しい革新的な投資アイデアを考え出すことが、プライベートクレジットの進化を継続させ、さまざまなタイプの投資家・借手にその魅力を訴求するうえで不可欠であると考えています。

本稿はM&Gの最新のレポート『プライベートデット市場の次のステップ』の要約です。

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本項に記載されている見解は、投資の推奨、助言、予測に該当するものではありません。投資元本は変動し、投資から得られる利益は上昇することもあれば、下落することもあり、お客様の投資元本は保証されません。数値は過去の実績であり、将来の結果を保証するものではありません。

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