米国の低所得者労働者向け住宅:リターンと社会的利益をもたらす

12 分間で理解する 22年5月6日

米国における低所得者労働者向けの手頃な賃料の賃貸住宅への投資は、物件の質を改善するためのスキルと資金力が必須であることから、集合住宅投資において見過ごされてきた分野です。しかしながら、低所得者労働者向け住宅は、機関投資家に魅力的なリスク調整後リターンを提供するとともに、インパクトのある社会的利益をもたらすことができる、規模の大きな投資機会となる可能性があります。重要なことは、米国では国レベルで手頃な価格の住宅の供給が不足しているため、住宅の質と状態の改善に焦点を当てている所有・運営のプラットフォーム企業が、入居者と周辺のコミュニティに社会的利益をもたらす可能性があります。

米国における手頃な賃料の低所得世帯向け住宅への投資

集合住宅投資は、一般的に他の資産クラスとの相関が低く、インカム収入による安定したキャッシュフローを求める機関投資家にとって魅力的な分野です。低所得世帯向けの、質が高く、手頃な賃料の集合住宅と定義される低所得者向け住宅は、他の資産に比べて専門的でアクティブな管理が必要なため、投資は本質的に容易ではありません。しかし、低所得者向け住宅は、新型コロナウイルス感染症によるパンデミック時においても強い耐性を備えていることが実証されました。恵まれた需給関係と人口動態が追い風になったことがその主な理由でありますが、手頃な価格の住宅が不足していることが集合住宅全般のおける賃貸市場の需要を刺激し続けています。

『住宅の質と状態を改善するためのスキルと資金力をもつ低所得者向け住宅のプラットフォーム企業は、入居者が社会的利益を享受することに寄与できると思われます』
 

2021年には、集合住宅の空室率が5%と、長期的な平均である6%を下回る水準に低下しました1。同様に、低所得者向けの「クラスC」住宅の空室率も、5%から2020年末には3.7%に低下しました。パンデミックからの経済回復が続いているため、総じて比較的低い空室率が続くことが予想されます。

低所得者向け住宅は、投資家が米国の集合住宅市場へ参入する際には、魅力的な分野であると考えます。特に、パフォーマンスが悪化した低所得者向け住宅物件に投資し、改良を加え戦略を転換することができるプラットフォーム企業は、魅力的なリスク調整後リターンを提供することが期待されます。

米国集合住宅市場の概要

米国における集合住宅とは、1つ以上の建物にある複数の住戸で構成され、所有権者と管理者がそれぞれ1社である住居用不動産を指します。

米国では、集合住宅は特に賃貸物件の需要が高い都市部で一般的な住居形態です。集合住宅への投資見通しは引き続き良好であると考えており、DBRSモーニングスターも、今後とも、米国の住宅市場のなかで、賃貸の集合住宅及び一戸建て住宅物件が最も早い成長を遂げる分野だと予想しています2。米国の集合住宅は、入居者タイプ、物件の品質、立地、築年数に応じて分類されています。

低所得者向け住宅とは

低所得者向け住宅は、クラスCとクラスBの一部の集合住宅であり、世帯収入が地域平均の60%~100%の世帯向けの住宅を指します3。「低所得者向け住宅」という用語は、コミュニティ・地域で働く労働者向けの手頃な価格な住宅を指すこともあります。米国の国勢調査局によると、2017年時点における低所得者向けの戸建て又は集合住宅に居住する世帯数は全国で1,350万であり4、その需要は都市中心部での住宅所有コストやプライムな物件の賃料の高騰によって高まっているとしています。

機関投資家の資本・投資が必要な理由

低所得者向け住宅に対する需要が増加しているにもかかわらず、適切に管理された物件の供給が限られていることを考慮すると、資産を効率的に取得し管理するための必要なスキルを備えたプラットフォーム企業にとって魅力的な市場環境であると考えます。

賃貸住宅によりアメリカンドリームを達成

低所得世帯による手頃な価格の住宅に対する需要は、主として住宅価格と住宅ローンの借り入れやすさに左右されるため、地域によって異なります。低所得者向け住宅の入居者は、一般的に平均よりも収入が少ないため、住宅価格が下落する、あるいは収入が増加した場合にのみ、不動産を取得することができます。長期的な住宅価格の見通しを勘案すると、低所得者向け住宅の需要は拡大するというのがM&Gの見解です。

10年間にわたる米連邦準備制度理事会 (FRB) の超緩和的金融政策により、2021年半ばまでは住宅ローン金利が歴史的な水準に低下しました。その後のインフレ率の上昇により、FRBはこの数か月でタカ派に転じ、2018年3月以降で初めて短期金利を引き上げたことを受けて、30年の固定金利住宅ローンの平均金利は5%超に上昇しました (フレディマック)。2021年のS&Pコアロジック・ケース・シラー全米住宅価格指数が、34年間で最大の前年比上昇幅となる+19%になるなど、住宅価格が手の届かないような水準に高騰しているため、初めての住宅を求める人々にとって不動産の所有はますます遠のいています。

「ミレニアル世代」や「ジェネレーションZ」などの若い生産年齢層は、購入するよりも賃借することを好むと広く考えられていますが、年齢が唯一の要素ではありません。若年層世帯は、借金の返済、初めてのマイホーム購入のための頭金づくり、親族や職場との距離や、個人的なさまざまな理由により、手頃な賃料の低所得者向け住宅に居住することを選択する場合もあります。

生活の場として、あるいは労働、グループ活動にとって都合が良い立地など、変化する好みやニーズに合わせて転居できる柔軟性を備える賃借の生活を単に選好する人々も多く見られます。低所得者向け住宅の需要の一部は、人口の多い都市中心部から郊外に移り住む世帯によるものです。これは、新型コロナウイルス感染症のパンデミック時に、より広い居住面積や屋外のスペースに対する注目度が高まったことが理由だと考えられます。

供給が不足する低所得者向け住宅

米国では、国レベルでの低所得者向け住宅供給に対する支援は限られていますが、各州と地方機関が手頃な価格の住宅供給をできる限りの方法で増やすことに努めています。2021年9月には、バイデン・ハリス政権が手頃な価格の住宅開発に低利資金を供与することを含め、質の高い手頃な賃貸住宅の供給を増やすことを目的とした政策を打ち出しました。

低所得者向け住宅に関しては、新たに専用の物件を建設するのは経済的ではありません。実態として、全国のクラスB及びクラスCの供給は、物件の老朽化や立地が魅力的でなくなったなどの理由で、AからBあるいはBからCへクラスが下がることによる供給です。改修コストが高すぎると、賃料の値上げが必要となり、低所得世帯にとって手の届かない水準になる傾向が強くなります。手頃な価格の住宅の供給が不足する理由として、多くの州や郡が新規不動産開発案件に手頃な価格の住宅を含めることを義務化していないことも挙げられます。

そのため、不動産業者が新規に開発する場合、高級な物件、つまり、より高い賃料収入が期待できるクラスAの住宅に注力し、また既存物件の場合は、クラスBの物件に付加価値を与えてクラスB+やクラスA格に引き上げる戦略を採用する傾向があります。この結果、集合住宅全体に占めるクラスB及びCの低所得者向け住宅数の比率は低下しており、「陳腐化、再開発、クラスAへの改修により、平均してクラスB及びCの物件が年間に約12万戸減少している」との調査結果があります5

このような要因により、高い需要が続いているにもかかわらず、供給不足に拍車がかかっており、クラスA物件ほど新規供給競争が激しくありません6。その結果、低所得者向け住宅に対する投資の必要性はますます高くなっており、特に、低パフォーマンスの低所得者向け住宅物件を取得しグレードアップする案件に魅力的な投資機会があります。

低所得者向け住宅に投資する理由

集合住宅への投資は、安定したキャッシュフローと分散投資効果を求める投資家にとって魅力的であり、資金流入が増加しています。資産運用会社、年金基金、株式ファンド、保険会社、政府系投資ファンドなどの投資規模の大きい機関投資家が、運用資金の一部を配分するのに関心も高まっています。CBREは、2022年における米国の集合住宅への投資額が2021年比で少なくとも10%増加すると予想しています7

低所得者住宅は、投資家に魅力的なリスク調整後リターンを提供すると考えています。採算性の悪い物件を取得して採算性を良化させる改修に必要なスキルを備えたプラットフォーム企業を介して投資する場合は特に当てはまります。低所得者向け住宅はクラスAの住宅に比べてより専門的でアクティブな管理手法が必要なため、投資は本質的に容易ではありません。

投資家にとって低所得者向け住宅への投資は、適切なスキルを備えたプラットフォーム企業に投資を通じて、多くの潜在的利益を享受できる可能性があります。

リスク調整後リターン獲得の可能性:低所得者向け住宅への投資は、利回りを追求する機関投資家に魅力的なリスク調整後リターンを提供することが期待できます。投資物件からの賃料収入だけでなく、1) 賃料収入を再投資することで物件の付加価値を高め、 2) 物件からの収入を安定化させたうえで、売却のタイミングや方法の好機を捉え、購入価格よりも高い価格で売却することによるキャピタルゲインも可能と思われます。

賃料収入による安定したキャッシュフロー:安定した資産とは、純賃料収入 (賃料から空室や賃料不払いに伴う損失、修繕費用、その他の営業費用、及び債務返済負担を差し引いた額) のキャッシュフローが収益の中心である資産を指します。低所得者向け住宅の需給が他の分野に比べて不均衡であるため、空室率は歴史的な低い水準にあり、平均的な賃料は上昇傾向にあります。このことは、クラスAの物件の賃借人に比べて、クラスB及びCの物件の賃借人は選択肢が少ないため、転居しない傾向が強いことが理由です。

逆風環境に強く安定したファンダメンタルズ:低所得者向け住宅は、パンデミックの間も長期的な需要が低下するどころか、実際には拡大し、他の分野に比べて逆風環境に強い特性が証明されたと市場では評価されています。低所得者向け集合住宅のパフォーマンスは、世界金融危機時も好調でした。2021年の全体的な入居率と正味実効賃料は、パンデミック以前の水準を上回りました。特に、手頃な価格の「クラスC」の集合住宅は、2021年末時点の空室率が前年比で▲1.3ポイントの3.7%まで低下し8、経済がパンデミックからの回復が継続することが想定される今後も、比較的安定的に推移すると予想されます。

ポートフォリオにおける分散効果:低所得者向け住宅投資の運用戦略に資金を配分することで、投資ポートフォリオにおける多様化が期待できます。さらに、低所得者向け住宅のポートフォリオは、数多くの賃貸契約で構成されることが多く、信用リスクの面において、多くの契約・賃貸人にリスクが分散されるのが一般的です。

低所得者向け住宅投資に対する投資家の関心が高まっていますが、投資機会に簡単にアクセス可能なわけではありません。採算性の悪い物件を取得して採算性を良化させる改修に必要なスキルを備えたプラットフォーム企業に対しては、なおさらです。古い物件を取得し、採算性を向上させるには、専門的なスキルと実践的で積極的な管理が必要であるため、他の集合住宅分野よりも参入障壁が高いといえます。

社会的利益をもたらす大きなインパクト

ニーズの高い地域において手頃な価格の住宅を提供することは、特に住宅価格・家賃の高騰に直面している低所得世帯にとってプラスの社会的利益をもたらす可能性があります。住宅の品質と状態を改善する (快適で、安全で、安心できる住居にするための物理的な改善を含む) ためのスキルと資金力をもつ低所得者向け住宅のプラットフォーム企業は、入居者が社会的利益を享受することに寄与できると思われます。

また、開発やプロジェクトが地域コミュニティの発展につながる可能性もあります。例えば、地域社会に根ざした取り組みを実施する物件の運営会社は、長期的に近隣のコミュニティの発展に貢献できる可能性があります。

賃借人やコミュニティにプラスの社会的成果をもたらす可能性があることに加えて、古い住宅の修理や修繕、又は高成長している地域における不採算物件の採算向上を目的とした設備投資に焦点を当てた投資戦略は、空室率と延滞率が低水準に推移するという前提で、賃料水準を格段に向上させることができると思われます。

低所得者向け住宅に投資する手段

低所得者向け住宅の資産価値は、対象地域における需給環境の影響を受けます。したがって、最良のリターンを獲得するためには、地域における入居率と賃料に影響を与える人口動態や転居の傾向を把握しており、この分野で長期的な実績を有するプラットフォーム企業を通じて投資することが重要だと考えます。

また、プラットフォーム企業が、採算性の悪い物件を取得して採算性を良化させる改修に必要なスキルを備えていることも重要です。このような手法により、投資家が魅力的なリスク調整後リターンを享受できることが期待されます。ただ、このような経験とスキルを備えたプラットフォーム企業はまれにしか存在していません。

そのため、M&Gは、長年にわたる不動産、プライベート資産、スペシャルシチュエーションへの投資・運営の経験を活用し、低所得者向け住宅向けプラットフォームを自社で運営することを選択しました。2020年9月、M&Gは、長期にわたる実績を有する不動産管理企業であるElandisと、低所得者向け住宅の専門プラットフォームを共同で設立しました9

1 Fannie Mae (2022年2月) 『Multifamily and Economic and Market Commentary』CoStar Inc.の推測値を引用
2 DBRS Morningstar『Multifamily and Single-Family Rentals to Continue Outpacing the Rest of the U.S. Housing Market』
3 CBRE (2018年11月) 『The Case for Workforce Housing』
4 CBRE (2018年11月) 『The Case for Workforce Housing』
5 RealtyMogul『Potential benefits of investing in workforce housing during a recession』
6 Wall Street Journal『Aiming at Wealthy Renters, Developers Build More Luxury Apartments Than They Have in Decades – WSJ』
7 CBRE『U.S. Real Estate Outlook 2022”, Multifamily』 | CBRE
8 Fannie Mae (2022年2月) 『Multifamily and Economic and Market Commentary』CoStar Inc.の推測値を引用
9 「Elandis and M&G Investments Announce Joint Venture for Multifamily Platform」 (2020年9月25日)

投資元本は変動し、投資から得られる利益は上昇することもあれば、下落することもあり、お客様の投資元本は保証されません。

本項に記載されている内容は現時点におけるM&Gの見解であり、投資に関する推奨、助言に該当するものではなく、また将来の状況やパフォーマンスを予測するものではありません。

当資料は、一般的な情報提供を目的としており、金融商品取引業登録に基づく業務又は当社関連会社が組成するファンドの持分等の勧誘を目的としたものではありません。


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