債券
5 分間で理解する 22年12月15日
既に2022年の年初時点で、時間の経過と共に具体化が予見できた重大なリスク要因が存在していました。そのなかで最大のものは、パンデミックの影響により世界中で発生した供給のボトルネックを起因としたインフレが収束せず、それに対処するために金融を引き締めなければならないことでした。ロシアによるウクライナ侵攻、及びそのことで生じた食料とエネルギー価格の高騰、その後の英国で発生した、債務連動型運用 (LDI) 戦略を採用する確定給付型年金基金における流動性危機など、多くの予期せぬ出来事が起きました。このような出来事が勃発する度にボラティリティは急上昇し、2022年はリスク資産にとって非常に厳しい年であったことを再確認させられています。
現在のところ、主要国の金融政策が正常化するには予想よりも時間を要する可能性が高く、バリュエーションに深刻な影響を与えています。しかし、欧州のABS市場は、変動金利という特徴のおかげで、類似する他の資産クラスの多くをアウトパフォームしています。
2022年は広範なクレジット市場と株式市場において厳しい滑り出しとなりましたが、変動金利という特徴のおかげで、欧州ABSのパイプライン案件数は多く、相対的に堅調なスタートを切ることができました。しかしながら、第2四半期になると、より広範な市場の低迷とロシアのウクライナ侵攻により新規案件の組成はストップし、年初の勢いを維持することができませんでした。
夏の終わり頃には、スプレッドの落ち着きと共に新規案件の組成に回復が見られましたが、この比較的安定した期間は長続きせず、英国政府の破滅的とも言える「ミニ予算」が英国債の急落やLDI戦略の運用機関に対するマージンコールの発生という流動性危機を引き起こしました。
予算成立直後の数週間で、ABS市場における売買高は急速に膨らみ、売買が活発だった2020年3月の売買高が少なく見えるほどの額となりました (下グラフ参照)。流通市場は、売却に躍起になっていた売り手が先導した市場となり、売買高は過去に類を見ない100億英ポンドを超えるほどになり1、資本構成にかかわらずスプレッドが大幅に拡大しました。売却の対象はAAA及びAA格の欧州のCLO (ローン担保証券) と英国のRMBS (住宅ローン担保証券) に集中しましたが、CLO、RMBSを含めた欧州大陸の各資産クラスも巻き込まれた格好になりました。ABSに関しては、当然のことながら大幅にスプレッドが拡大しましたが、他の債券市場に比べて流動性は十分に保たれていたことは注目に値します。
ボラティリティの高まりを受けて、発行体とアレンジャーが新発市場を再稼働させることを躊躇させていたことは明らかでした。年初来の欧州ABSの新発市場における販売額は約520億ユーロでしたが2、これは、世界金融危機以後の平均である665億ユーロを25%近く下回った額です。実際に新発市場で取引された案件のかなりの割合は、M&Gなどの主要市場参加者がアンカー役を務め、発行体の調達リスクを抑えることができる「クラブスタイル」のシンジケーションで行われました。
2023年になれば供給が改善される見通しですが、ネットベースでは純減傾向が続く可能性が高いと考えます。2022年の取引額が特に減少したユーロ圏では、銀行に対する中央銀行の長期資金供与が終了することに伴い、銀行が証券化市場で、特にSTS (単純、透明性、標準化) の枠組みに基づく案件に注力することが期待されています。英国では、住宅ローン金利の上昇が住宅価格に影響を与えており、英国のRMBS市場における主要な発行体であるノンバンクによる住宅ローンの供与が減少し、その結果としてRMBSの発行額が減少することが考えられます。
2022年におけるボラティリティの上昇がスプレッドに与えた影響は顕著であり、その影響はあらゆるセクター、そして資本構造のあらゆる部分に及びました。一例として、AAA格の英国RMBSのスプレッドは、(Sonia+) 70bpsから200bpsに拡大しました。スプレッドだけでなく、各中央銀行がインフレ対策として利上げを実施していることに伴って指標金利も上昇しており、その結果、現在の利回りは、世界金融危機の終盤以降で最も高くなっています。
現在の利回りと、構造的にインフレや金利上昇に対する強い耐性を勘案すると、ABSが非常に魅力的な投資対象であるというのがM&Gの見解です。今後数か月は、基本的なパフォーマンスが悪化する可能性もありますが、概して言えば、ABSは現在の厳しい時期を乗り越えるだけの多くの強みをもっている資産クラスだと考えられます。
第1に、現在の住宅ローンの延滞件数が歴史的に見て非常に低い水準にあることであり、住宅価格が大幅に上昇していること、労働市場が堅調であること、LTV が低い水準にあること、世界金融危機を機に審査基準が強化されたことと相まって、ABSは、経済の逆風環境を乗り切ることができる安心感を提供する資産クラスと考えられます。
次に、借入コストが上昇しているにもかかわらず、家計所得に占める利払い額の比率は長期平均よりも低い水準にあります。実際、英国では指標金利が5%程度になって初めて、家計所得に占める利払い額の比率が長期的な水準に戻る計算になります。
RMBSは依然として欧州ABSのなかで最も耐性のある資産クラスであり、借手は住宅ローンをデフォルトする以前に多くの無担保ローンをデフォルトすることになるでしょう。また、英国のRMBSプールの住宅ローンの借手は、生活費の上昇に十分に耐えられる高所得層が多いというデータがあります。次のグラフは、英国のノンコンフォーミング (基準を満たしていない) ローンの借手のわずか12.9%が所得の第1~第4十分位に分類されていることを示しています。
RMBS市場が耐性を持ち続けるものと考えられますが、案件ごとのパフォーマンスの優劣が拡大することは不可避だと考えます。したがって、ローン単位のデータを調べ、パフォーマンスに影響を与える可能性のある特性を評価するための人材を確保することが非常に重要です。RMBS分野において重要な特性とは、自営業者の割合、LTVの水準、いつ抵当権が設定されたか、当初の固定金利期間がいつ終了するか、などです。
RMBSには金利ステップアップ・コールオプションといった条件が設定されており、通常はコールオプションを行使しない場合、金利等の条件が懲罰的になりますが、最近のスプレッド拡大により、コールオプションを行使する経済性が低くなっており、期限前償還されないリスクが浮上してきました。英国のRMBSのうち、2022年にコールオプションが行使されなかった案件は1件だけにとどまっており、また、2023年中にはスプレッドの正常化によりオプションが行使されないリスクが徐々に軽減されるはずですが、投資家にとっては、購入した債券が突然期限前償還されないというシナリオに基づいた価格になる可能性があるRMBSを回避することが引き続き重要と考えます。
ABSは多くの債券クラスと比較して良好なパフォーマンスを挙げていますが、将来を考えた場合でも、魅力的なリターンが期待されます。債券指数銘柄のスプレッドが拡大したことで、ABSへの投資はリスクリターンの観点から非常に魅力的であると考えられます。
M&Gの見解では、足元の流動性が低下した環境が、質も格付けも高く、ディフェンシブな特性を有するシニア債・投資適格債のバリュエーションを非常に魅力的な水準にしました。これは、ABSの信用リスクに対する根本的な再評価が行われたのではなく、単に極短期の間で流動性を確保するためのコストが大幅に上昇したことが原因だと思われます。これは流動性不足に起因するテクニカルな相場下落であり、長期的な視点を持つ投資家にとって、この好機を捉えることは検討に値するというのがM&Gの見解です。
投資元本は変動し、投資から得られる利益は上昇することもあれば、下落することもあり、お客様の投資元本は保証されません。
本項に記載されている内容は現時点におけるM&Gの見解であり、投資に関する推奨、助言に該当するものではなく、また将来の状況やパフォーマンスを予測するものではありません。
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