景気後退が進行する局面でのディストレストデット投資

3 分間で理解する 22年10月18日

パンデミックが引き金となったサプライチェーンの混乱、ウクライナでの戦争が引き起こしているエネルギー価格の高騰、労働市場のひっ迫によってインフレが高進しています。中央銀行はインフレの高進に対処するため、大胆な利上げをせざるを得ない状況にあります。金利とエネルギー価格の上昇が相まって、米国や英国を含む欧州が景気後退に陥るというコンセンサスが生まれつつあります。景気後退の圧力が強まるなか、景気後退が企業とそのバランスシートにとって何を意味し、辛抱強い投資資金は現在の環境でどのような役割を果たすことができるのでしょうか。

新型コロナウイルス感染症が引き起こしたパンデミックの発生から既に2年以上が経過しました。パンデミック時における企業支援策は終了に向かっていますが、パンデミックが引き起こした構造的な変化や行動様式の変化の多くは元に戻っていません。パンデミックの間、事業の継続に苦労した多くの企業の先行きが不確実なものになっています。

エネルギー価格の上昇とサプライチェーンの混乱により、現在のインフレ率は40年ぶりの高水準に上昇しています。

各中央銀行はインフレを抑制するために金利を引き上げ続けています。最近の米国と英国での利上げのペースは、過去数十年間における主要国の中央銀行の利上げペースとしては最も大胆なものであり、2022年末まではこの状況が継続すると予測されています。歴史的に、積極的な利上げと景気後退の間には強い相関関係があります1

『このような厳しい市場環境は、多くの企業、特に多額の負債を抱えている企業に大きな影響を与えるでしょう』
 

足下では、政府は雇用維持スキームや一時的な家賃猶予など、パンデミック時に導入した企業支援策を終了させました。支援策が終了する一方で、金利とエネルギー価格が上昇し続けているため、企業のバランスシートに深刻な影響が生じている可能性があります。

金利の上昇と景気後退のリスクはどのような影響を市場に与えるか

市場のボラティリティが高まっており、同時に信用スプレッドが拡大しています。多くの企業が不況を乗り切るための追加資金を必要としているときに、資本市場は混乱に陥り、資金調達が困難になりかけています。景気サイクルにより、企業のレバレッジ比率が上昇しており、そのなかで資本市場に混乱が起きているため、一部の企業はリファイナンスに苦心する可能性があります。資本市場の混乱が継続すれば、一部の企業は別の資金源を探す必要性が生じることになるでしょう。

このような市場環境を背景に、レスキューファイナンス (破綻の回避などのための緊急的な資金供与)、企業の組織再編、比較的優良な企業のデットを魅力的な価格で購入する機会 (市場混乱取引) など、ディストレストデットやスペシャルシチュエーションの分野において魅力的な投資機会が見られるようになってきています。

債務過多の企業が直面するリスク

このような厳しい市場環境は、多くの企業、特に多額の負債を抱えている企業に大きな影響を与えるでしょう。債務過多の企業は、市場がまだ落ち着いていたときに、パンデミックから順調に回復できるというシナリオの下で調達した債務の返済負担に苦しむことが予想されます。食品、工業、消費セクターの企業には既にその兆候が現れており、実際にローンや債券の価格が下落しています。このように、セクター全体のデット価格が下落しているため、企業によってはデットの価格が企業の実力を正当に反映していない水準になる場合も考えられ、高い分析力のあるアナリスト陣やリストラの知識を備えた専門家を擁する投資家は、説得力のある投資機会を特定することができます。

また、債務過多ではあるが、堅固なビジネスモデルを有する企業に対しては、バランスシートの再構築やレスキューファイナンスを提供することで、企業がもっているファンダメンタルな価値を現実化させる支援策も考えられます。

パンデミックが引き起こした構造の変化により、資金が本来配分されるべき企業に向かわなくなりました。パンデミック後の世界で価値を発揮する新しいビジネスモデルや資産を備える企業に資金が正しく配分されるに従い、投資機会が生まれます。すべての資産クラスとセクターに投資できる柔軟な資本を有し専門知識を備えた投資家は、このような投資機会を捉えることができますと考えます。

M&Gのデット・オポチュニティ戦略の副運用担当者であるビリアナ・スーレコワ (Biliana Sourlekova) によると、「現在の不安定な市場環境では多くの資産クラスが一斉売却の対象となっており、それに巻き込まれている健全な企業が多々あります。また、存続する明確な価値がある企業のなかでも、景気後退の圧力が高まるにつれて、短期的な問題やバランスシートの悪化に直面する企業が数多く存在します。短期的な問題は、柔軟な資本とリストラをサポートする専門家の支援を得ることにより解決は可能であり、このような企業への投資は魅力的なリスク調整後リターンを提供する可能性があります。柔軟な資本やリストラの専門知識を有する投資家は、優れた企業がもつ隠れた価値を特定し、それを現実化する機会があると考えられます」。

状況は、改善する前に、さらに悪化する可能性がないとは言い切れませんが、どのようなリストラやリファイナンスの形態が適切かを見極める専門知識があれば、投資家は苦慮している企業を支援することを通じて魅力的なリターンを享受できる可能性があります。

1 出所:全米経済研究所


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