日本企業とのエンゲージメントについて深堀りする

3 分間で理解する 23年7月26日

日本の文化や企業情勢を深く理解し信頼を得ている日本株投資家は、企業とのエンゲージメントを通じて企業に付加価値を与えることができる独自な立場に立つことができるかもしれません。ここでは、2 つのケーススタディをご紹介します。

日本は世界第 3 位の経済大国 1でありながら、日本の株式市場は、ほんの数ヶ月前までグローバル投資家の大半から注目されない状態が続いていました。安倍前首相が日本経済における企業の役割に変化をもたらし始めた10年前から、日本の企業セクターは構造的な発想の転換を迫られています。例えば、2014 年のスチュワードシップ・コード、2015 年のコーポレートガバナンス・コードが導入され、日本企業がコーポレートガバナンスを受け入れ、より株主重視の経営を確立するための道筋をつけました。これにより、日本の株式市場に織り込まれていた膨大な潜在力が解き放たれ、投資家が恩恵を受ける道が開かれました。この前向きな変化が、この資産クラスが最近になって海外投資家から注目を集めている理由の 1 つとなっています。

「株主として変化を促し、日本企業へ付加価値を高められるようなレベルまで関与する過程は、一夜で成し遂げられるものではありません。投資家には知識と経験が必要です。」

M&G では、「付加価値のある株式保有」というコンセプトについて、何度か取り上げてきました。ここでは、具体例を用いて、当社のアクティブ投資がどのようにプラスの投資成果をもたらすかを紹介したいと思います。当社の投資プログラムは、数十年にわたる継続的な調査と企業経営陣との関係構築に基づいています。これにより当社は、投資先企業のパートナーとして付加価値を提供できる立場にあります。

可能性を解き放つ

サンリオは、日本の大衆文化で「かわいい」を前面に打ち出した、日本のエンタテイメント企業です。サンリオは自社ブランドの中で「ハローキティ」や「ミスターメン」など、数十のキャラクターについて知的財産権を所有しています。

M&G は 3 年ほど前からサンリオに投資を行い、エンゲージメントを行ってきました。当社は、数十年かけて非常に価値のある知的財産権のポートフォリオを巧みに構築してきたものの、その潜在能力が十分に発揮されていないとみていました。これを念頭に、当社はサンリオの新経営陣とのコミュニケーションに多大な時間を費やし、サンリオの強みと弱みをよりよく理解することが出来ました。

M&G ジャパンの副社長(非常勤)であり、日本におけるエンゲージメントの専属コンサルタントである柳良平が関与し、長期的視点での意図や提言が適切に伝わるよう努めています。

M&G とサンリオとの間で極めて建設的な双方向の対話が行われるようになり、サンリオは当社のアイデアや提案をオープンに受け入れ、その多くを実行に移しました。とりわけ、中国戦略に関するサンリオとのブレインストーミング・セッションが、その後の大きな事業展開につながったことを誇りに思っています。この 3 年間、サンリオの中国事業は有意義な発展を遂げました。ディズニー・チャイナ幹部の者を成長戦略のリーダーとして採用してからまもなく、サンリオは、中国の EC 大手のアリババとの大型ディールを発表しました。これはサンリオの株価にとってプラスの要因となりました。2

3 年が経過し、サンリオは変革を遂げました。引き続き、世界に「笑顔を届ける」という同社独自の使命に注力しつつも、現在は堅固な商業戦略に基づいて持続的な成長と収益性を確保しています。このような変革を遂げるのは容易ではありません。急激な変革期を乗り切ったサンリオは、称賛に値します。M&G は、この変革期において、サンリオの強力なパートナーとなるべく懸命に取り組んできました。市場は、サンリオが所有する幅広い知的財産権がもたらす潜在的な収益力を評価し、サンリオの時価総額はこの 3 年間で 4 倍となりました。新経営陣が持続的な成長に熱心に注力していることから、当社はさらなる発展が訪れると確信しています。

注目される戦略

日本の企業では、バランスシートや損益計算書に、、自助努力の機会が相当に見いだせる可能性があります。株式会社ニコンが良い例です。M&G は、2020 年 12 月にニコンに投資しました。

当時の市場は、ニコンの世界的に有名なカメラのフランチャイズが厳しい競争圧力に晒されていたことにのみ注目していました。世界最大級のリソグラフ・フランチャイズに価値が見出されることはほとんどなく、同社の多額の純キャッシュバランスに価値が見出されることもなかった。M&G にとって最も重要な点としては、市場が新社長と新 CFO のの来歴とスキル・セットを正確に評価できていないように見えたことでした。

市場は、カメラ事業の収益性を回復し、新たな事業分野を開拓するというニコンの戦略に懐疑的でしたが、当社は、新経営陣と入念に構築された計画に、リスクを上回る魅力を見出しました。

当社は株主として、特に新規事業分野における同社の目標達成を支援することに努めました。M&G のグローバル・ネットワークを活用し、当社は、ニコンの新たな成長アジェンダを後押しし、付加価値を創出する目的で、いくつかのアイディアをニコンに紹介しました。その 1 つが、次世代 DNA シークエンス分野のパイオニアであるオックスフォード・ナノポアでした。この紹介が技術提携につながり、長期的に興味深い結果につながると期待しています。

M&G も、バランスシートの資本をより効果的に活用することを支持してきました。同社は過去3 年間、大幅な自社株買いを実施し、配当を増やし、戦略的に興味深い M&A を行いました。

今にして思えば、経営陣に対する当社の評価は正しかったということが言えます。カメラ事業の収益性は大幅に改善し、新規事業分野も引き続き有望で、ガバナンスと透明性の継続的な改善により、企業の将来性に対する市場評価は大幅に回復されました。損益計算書とバランスシートでともに改善し、投資以来大幅な株価上昇となりました。今後もさらなる発展が見込まれます。

サンリオと同様に、M&G はニコンに対して可能な限り積極的に支援しました。当社はパートナーシップの精神で株式保有に取り組んできました。これによりパー建設的な双方向の対話が生まれ、様々なアイデアをブレインストーミングする能力が生まれ、ビジネスが直面する脅威と投資機会についての理解を常に向上させることができます。

エンゲージメントの権利を獲得

株主の所有権を通じて変化を促し、付加価値を高めることができるような日本企業への関与のレベルに達するには、一夜で成し遂げられるものではありません。投資家には、企業と文化の両方に関する知識と経験が必要です。株主として付加価値を創造するには、投資先企業と業界を極めて深く理解し、その企業の利益をテコ入れできる関係のネットワークを持つことが求められます。

当社にとって、エンゲージメントは単に「監督」ではありません。ほとんどの場合、それは「サービス」なのです。当社の長期投資プログラムは、当社の立場を「選ばれる株主」として位置付けるためのものであり、投資先企業がより良くなるよう支援すること実現したいと考えています。当社は、自己改革の過程に踏み出したばかりの企業を見極めるのにふさわしい立場にあるだけでなく、その道のりを共に歩むことで投資先企業と投資家の双方に付加価値を提供できると考えています。日本企業にはこのような機会があふれており、当社は、投資家の皆さまの利益のために、日本企業での新たな活力を最大限に活用するつもりです。

1 世界銀行、「GDP(名目米ドル)」、(data.worldbank.org)、2023 年 3 月 21 日時点
2 BBC、「ハローキティの会社が、急激なヒットに続き中国との取引を成立させる」 (bbc.co.uk)、2022 年 6 月 30 日。

投資元本は変動し、投資から得られる利益は上昇することもあれば、下落することもあり、お客様の投資元本は保証されません。

本項に記載されている内容は現時点におけるM&Gの見解であり、投資に関する推奨、助言に該当するものではなく、また将来の状況やパフォーマンスを予測するものではありません。

当資料は、一般的な情報提供を目的としており、金融商品取引業登録に基づく業務又は当社関連会社が組成するファンドの持分等の勧誘を目的としたものではありません。

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