債券
4 分間で理解する 25年8月6日
実際には、新興国市場は長年誤解されてきました。新興国市場という投資ユニバースが生まれた当初、投資家が懸念したリスクの多くは、各国固有のカントリーリスクでした。一方で、先進国市場の同様のリスクは楽観視されていました。しかし今日では、先進国市場も財政、経済成長、生産性といった課題に直面しており、新興国と先進国市場のリスクに対する見方は近づいています。
巨額の財政赤字と政治的な不安定性の高まりは、今や先進国経済の特徴となりつつあります。一方で新興国は、債務対GDP比率の低さや財政規律に対する評価改善の恩恵を受けています。これは2024年の格付け動向にも表れており、同年には14ヵ国もの新興国ソブリン債が格上げされ、2011年以降で最多となりました(格上げ数から格下げ数を差し引いたネット)。1
米国債務の持続可能性に対する投資家の懸念が強まる中、新興国は相対的に低い債務水準の恩恵を受けています。新興国および中所得国の平均債務対GDP比率が75%であるのに対し、先進国は110%となっています。2 安定した債務水準は、世界的なショックを吸収するクッションとなります。
新興国経済は、過去数十年にわたり、ほぼ一貫して先進国経済を上回る成長を続けており、この傾向は今後も続くと思われます。国際通貨基金(IMF)が2025年に発表した世界経済見通しによると、2025年4月までの1年間で新興国・発展途上国経済が3.7%成長したのに対し、先進国経済の成長率は1.4%にとどまっています。
米国の関税引き上げを考慮しても、IMFが2025年4月に予測した米国の成長率は1.8%と1月の予測から-0.9%ポイントの下方修正となった一方で、新興国の成長率は-0.5%ポイントの下方修正にとどまりました。3
トランプ関税後の新たなパラダイムにおいても、製造業者がニア・ショアリング(隣国回帰)やフレンド・ショアリング(友好国回帰)への移行を図ることで、成長水準がさら押し上げられる可能性があります。また、国内消費や域内貿易によって成長が促進されることも考えられます。加えて、新興国市場の範囲は約100ヵ国に及ぶため、一部の国に関税による成長リスクがあったとしても、分散投資の余地は十分にあります。
新興国の成長ストーリーは、より好ましい人口動態にも支えられています。世界人口の85%が新興国に居住していることから4、多くの新興国経済が人口増加による恩恵を受けています。労働年齢人口も増加しており、国内消費の高まりが成長を加速させると思われます。一方で、先進国経済は、労働年齢人口の減少や高齢化に伴う政府債務の負担増という追加的な課題に直面しています。
新興国におけるインフレ対策は、先進国に比べ概して明解でした。新興国の中央銀行は、新型コロナによるインフレ急騰の局面において、効果的な政策を講じ、インフレの暴走を抑制しました。例えば、ブラジル中央銀行は、米国連邦準備理事会(FRB)が利上げを開始する12ヵ月も前に利上げを実施しています。このように断固とした対応を取った結果、大半の新興国でインフレが抑制されただけでなく、多くの国では実質金利もプラスとなり、投資家にとって魅力的な投資機会が生まれました。
この迅速かつ断固とした対応がもたらした大きな効果に加え、一連の出来事は新興国の中央銀行が自らの能力を示す機会ともなり、投資家からの新興国債券市場に対する信頼向上にもつながりました。
近年の米ドル高は、新興国債券市場にとって逆風でしたが、2025年に入り米ドルの独走が終焉を迎えました。
本年の米ドル相場は、1973年以降で最悪のスタートとなりました。そしてこれが、新興国の現地通貨建て債券にとって好材料となり、2025年前半、新興国債券市場は、ほとんどの他の債券市場をアウトパフォームしました。
米国が直面する債務問題を踏まえると、米ドルが世界の基軸通貨としての地位を失いつつある現在の動きは、長期的なトレンドの始まりの可能性があります。
新興国社債の信用状況も着実に改善しています。
2025年4月末時点で、CCC+またはそれ以下に格付けされた新興国社債の発行体数は9社で、1月時点の15件から減少しました。5 新興国企業は、一般的に純レバレッジ水準が低く、利払い能力(インタレスト・カバレッジ・レシオ)が高い傾向にあり、より健全な財務指標を有しています。
さらに新興国社債市場は、先進国市場と比較して低いデフォルト率を維持しています。過去12ヵ月の投機的格付け銘柄のデフォルト率は、新興国市場が0.9%であるのに対し、米国は4.3%、欧州は3.8%となっています。⁶
投資家が米国資産へのエクスポージャーを縮小しつつある中、新興国債券は比較的安全な避難先として注目されています。
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