プライベート・マーケット
7 分間で理解する 25年10月21日
今後数年間に技術革新が果たす役割がいかに大きいかは、多くの人が認識するところでしょう。低炭素経済への移行やAIの普及、さらに高齢化に伴う医療ニーズの増大などの課題は、いずれも革新的なソリューションを必要としています。
しかし、こうした革新的技術を生み出している有望な企業は、一般の人々にはあまり知られていません。年金やその他の長期的な資産を運用する機関投資家も、ほとんどの場合このような急成長企業には投資しておらず、将来の成長への期待値と資産配分にミスマッチが生じています。また、社会や環境に対して有意義なインパクトを与えるソリューションを後押しする機会も失われています。
私たちは、現在、個人投資家がこのような次世代型経済への移行をけん引する未公開(プライベート)企業に投資できるユニークな機会が存在すると考えています。今後数年間にわたり、これらの企業は大きな付加価値を創出し、成長を遂げることが期待されています。投資を通して、成長の恩恵を享受しながら、これらの企業が不確実な未来をより効果的に乗り越える支援をすることもできます。
英国や欧州には、革新的でありながら通常個人投資家の目にはあまり触れることのない、様々なプライベート企業が存在しています。英国だけでも、ベンチャーキャピタル(VC)が出資する、年間売上高2,500万米ドル超のプライベート企業は約800社にのぼり、フランスには321社、ドイツに265社、スウェーデンにも139社存在します1。また、欧州におけるイノベーションの進展は、域内で“ユニコーン企業”(株式時価総額10億米ドル超のプライベート企業)が多数生まれていることからも明らかです。ユニコーン企業の数は、米国と中国がそれぞれ793社、284社と先行しているものの、欧州にも少なくとも170社のユニコーン企業が存在します2。
これらの革新的なプライベート企業の多くは、既存のバリューチェーンやビジネスモデルを変革し、ユニークな技術や知的財産に基づいた独自のソリューションを提供しており、次世代型経済への移行やそれに伴う様々な変化をけん引する原動力になると思われます。
こうした企業は、パブリック市場からの資金調達が難しく、銀行の貸出余力も限られているため、他の調達手段に依存する必要があります。幸いなことにプライベート市場への投資は徐々に民主化が進んでおり、今日、より多くの投資家がこれらの有望企業に投資することが可能になっています。
M&Gは、2021年に社会や環境問題に取り組むグロースステージのプライベート企業への投資に特化したM&G Catalystというチームを立ち上げました。M&G Catalystは、革新的な技術を持つ企業への投資を通して、次世代型経済への移行を早めることを目指します。投資対象となるのは、商業的成功が期待されることに加え、世界的に喫緊の課題となっている気候変動対応や医療アクセスへの向上にも取り組む企業です。M&G Catalystの投資戦略は、それにより投資リターンと同時に社会や環境問題の解決において測定可能かつポジティブな変化をもたらすことを目指します。つまり、次世代型経済を形成する複数の潮流に投資を行う戦略とも言えます。
通常グロースステージの企業は、技術の有効性が確認されると、事業拡大と成長のために多額の投資を必要とします。例えば、従業員の増員、製造・オペレーション体制の強化、研究開発、さらに他地域への拡大などに資金が投下されます。
しかし、VCが活況を呈するカリフォルニアのベイエリアとは異なり、英国や欧州では、こうした後期ステージの資金調達ラウンドでは顕著な資金ギャップ(目標調達額と実際の調達額の差)があり、主に二つの問題を引き起こしています。第一に創業者は事業を成長させながら、排出削減や医療アクセスの改善、包摂的な経済機会などのソリューションを拡大するための資金確保という課題に直面します。第二に投資家は、狭い投資ユニバースから投資先を選定せざるを得ず、最も有望な事業に投資する機会を逃してしまう可能性があります。
M&G Catalyst は、このような資金ギャップの解消を目指しています。私たちは、後期ステージの調達ラウンドにおいて大規模な投資をコミットする数少ない機関投資家です。社会や環境課題に取り組む企業が次世代型経済への移行を推進できるよう支援するとともに、これまで個人投資家がアクセスできなかった市場への投資機会を提供します。
プライベート企業への投資は、これまでは米国が中心でしたが、構造的転換が見られており、英国および欧州の投資家に新たな機会が生まれつつあります。その背景の一つには、革新的かつ将来を見据えた技術を生み出す拠点として重要な役割を担ってきた米国の上位大学にトランプ政権が強い圧力をかけていることが挙げられます。ハーバード大学が最も注目を集めましたが、同校のみならず合計600もの教育機関向けの4,000件超の助成金が標的となっており3、数十億米ドル規模の追加補助も凍結されました。また、同政権による気候変動対策からの後退や、サステナブル投資の政治問題化も、クリーン・エネルギーや電動化といった将来の潮流を見据える企業および投資家にとって逆風となっています。
こうした状況を背景に、研究者やスタートアップ企業が米国から離れ、ロンドンのような欧州の国際金融センターへ移転し始める可能性があります。実際に、最近のNature誌の調査では、回答した科学者の75%が米国からの移転を検討しており、最有力候補として欧州を挙げています4。さらに欧州委員会は、研究者誘致を目的とする5億ユーロ規模の助成金プログラムを創設しました5。こうした流れは、将来を見据える長期の投資家に、英国や欧州における新たな投資機会を提示することにつながると思われます。また、既存のプライベートエクイティ・ポートフォリオにおいても、米国中心の資産配分から分散を図る余地が広がることが見込まれます。
M&G Catalystは、英国、シンガポールおよびインドに拠点を擁しており、これらの拠点を通して英国や欧州における投資機会を着実に捉えるとともに、新興国市場にもその範囲を広げています。新興国市場は、スタートアップ企業の投資においてはまだそれほど一般的ではないものの、私たちは今後数年間で著しい成長を遂げるとみています。
次世代型経済への投資は、単にテクノロジーの変化を予測するにとどまらず、より良い世界を積極的に形成しようとする企業を支援することでもあります。そのような企業は、クリーンエネルギーのシステム構築や、より効率的なインフラの整備、さらに革新的医療など、長期的な社会的目標の達成につながる成果を生み出しています。以降では、今後数年間で顕在化すると考えられる二つの構造的テーマを取り上げ、M&G Catalystの投資先企業が提供する革新的ソリューションをご紹介します。
コンピュータの演算処理能力に対する需要は今後数年間で急拡大すると思われ、AIの急速な普及に伴い、演算処理能力の需要は今後10年以内に1万倍に達することが見込まれています6。また、世界的にデータセンターに対する需要も2030年までに3倍近くまで拡大することが予測されており、その大部分がAI関連の需要によるものです7。これにより、すでにひっ迫しているエネルギーや水道などのインフラに、より大きな負荷が掛かることになるでしょう。次世代の経済が求める処理能力を提供しながら、資源利用を最小限に抑える効率的なソリューションの必要性は明らかです。
M&G Catalystの投資先である Submer は、データセンター向けの「液浸冷却」技術により、このような課題の解決に取り組んでいます。同社は、自社開発の非導電で無害かつ自然分解可能な液体が入ったタンクにITハードウェアを浸して冷却するシステムを開発しました。タンクは、性能と効率性を高めるため、ソフトウェアのアルゴリズムにより制御されています。この液浸冷却システムは、空冷に比べて1,400倍の冷却効率を誇り8、従来のシステムに比べて水の使用量とエネルギー消費をそれぞれ99%、50%削減します9。さらに、回収された熱を施設内の他の用途に再利用することにより、消費エネルギーのさらなる削減が可能です。
近年、AI およびコンピュータの処理能力の飛躍的進歩を背景に、ヒトの生体メカニズムに関する解明が進んでいます。その結果、世界の医療システムの様々な分野で、質と効率が大幅に向上する可能性があります。高齢化の進行とともに生活習慣病は一段と増加しており、さらに新興国では中間層の拡大に伴い医療ニーズが増加しています。一方で、医療従事者は慢性的に不足しており、医療技術の革新は今後数十年にわたり無くてはならない技術になることが見込まれます。
幸いにも、革新的なテクノロジーは広範な領域で新たなソリューションを生み出しており、診断の迅速化や高精度化、疾患の早期発見、新薬開発、さらには予防法の開発などが進められています。
M&G Catalyst の投資先である Nuritas は、予防法の開発を専門としています。植物由来の成分から抽出したバイオアクティブペプチド(アミノ酸の短い結合体)を発見し、筋肉の健康増進、骨密度の向上、睡眠の質や代謝機能の改善などを促す様々な製品を開発しており、その効果は臨床試験により実証されています。同社の旗艦製品PeptiStrongは、ソラマメのタンパク質からAIを用いて発見された成分で製造されており、筋力・筋持久力の強化および筋萎縮の抑制効果が実証されています。
プライベート投資の民主化は、技術進歩をけん引する有望企業への投資という、新たな選択肢を個人投資家に提示しています。最先端のイノベーションを生み出すプライベート企業への投資を通じて、企業の長期的成長からの恩恵が期待できるだけでなく、環境の改善や生態系の再生、将来世代に向けたレジリエンスの構築にも貢献することができます。つまり、次世代の経済を見据えた投資だけでなく、社会的インパクトの創出にも参加することができるのです。
1 Phoenix Court, ‘Capital Allocation in the Innovation Economy’, (phoenixcourt.vc), November 2024.
2 Visual Capitalist, ‘Visualising Unicorns by Country in 2025’, (visualcapitalist.com), August 2025.
3 Center for American Progress, ‘Mapping Federal Funding Cuts to U.S. Colleges and Universities’, (americanprogress.org), July 2025.
4 Nature, ‘75% of US scientists who answered Nature poll consider leaving’, (nature.com), March 2025.
5 European Commission, ‘Choose Europe for Science: EU comes together to attract top research talent’, (ec.europa.eu), May 2025.
6 UK Government, ‘UK Compute Roadmap’, (gov.uk), July 2025.
7 McKinsey & Company, ‘The cost of compute: A $7 trillion race to scale data centres’, (mckinsey.com), April 2025.
8 Data Centre Frontier, ‘LiquidCool Brings Immersion Cooling to the Server Chassis’, (datacenterfrontier.com), January 2018.
9 Submer, ‘Submer, global leader in data center immersion cooling, announces investment from Planet First Partners’, (submer.com), January 2022.
寄稿者
Alex Seddon, Head of Impact & Private Equity
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