第2の故郷?米国市場の不透明感の中で高まる欧州・アジア太平洋の住宅セクターの魅力

9 分間で理解する 25年10月21日

過去10年、グローバル投資家は米国市場を選好してきました。圧倒的な知的資本や資本市場の厚み、そして起業家を生み出すダイナミックなエコシステムといった米国市場の特徴は、全て米ドルへの信用力を基盤としたものでした。

しかし、関税戦争や同盟国との緊張感の高まりといった最近の混乱は、米国だけでなくグローバル経済にとって転換点になり得るでしょう。財政見通しの悪化やFRBの独立性への脅威が重なり、経済・市場環境のボラティリティがかつてない水準に高まる中、米ドルを基軸とするグローバル金融システムの将来の安定性に対する懸念が高まっています。

こうした課題は、これまで世界の資本を惹きつけてきた米国の役割と影響力に対して、重要な再考を促しています。投資家のセンチメントは変化しており、米国への投資はリスク低減よりも、むしろリスク集中を生じさせているのではないか、より良い投資先が米国以外にあるのではないかという声が増えています。しかし、米国の機関投資家が引き続き米国の住宅セクターを選好していることは注目に値します。住宅セクターは、2024年時点の機関投資家の米国不動産投資の32%を占めており1、米国機関投資家が住宅セクターに見られる安定性と回復力のあるリターンを求めていることを示しています。

“投資家のセンチメントは変化しており、米国への投資はリスク低減よりも、むしろリスク集中を生じさせているのではないか、より良い投資先が米国以外にあるのではないかという声が増えている。”

米国例外主義という考え方が見直される中、グローバル投資家は欧州とAPACの不動産へのリバランスを模索しています。中でも、世界情勢が変化する中で魅力的なリスク調整後リターンが期待される住宅セクターへの関心が高まっています。

現在、インカム収入を創出しているグローバル不動産市場の約37.5%は米国ですが、MSCIグローバル不動産指数の米国の構成比率は65.1%であり、その割合は不均衡です。こうした集中リスクは、不透明なマクロ環境を背景に、投資家により安定的かつ成長性が期待できる地域への分散投資を促しています。

米国の住宅市場の利回りは、機関投資家の旺盛な買い取引と、熾烈な競争によって圧迫されており、オフィス市場の利回りを100~200ベーシスポイント下回っています。一方、欧州およびAPACの主要都市では、全く異なる状況が見られます。

M&Gの欧州住宅セクターを統括するマーカス・アイラーズは、この差について「オフィスは立地するエリアの景気に大きく左右されるが、住宅市場は経済見通しが不明瞭な時期でも耐性があり、賃料は堅調に上昇している」と述べています。

欧州およびAPACの市場においては、スプレッドは資本コストを上回る良好な水準であり、安定した環境下で優れたリターンを追求する投資家を惹きつけています。

さらに、アイラーズは、住宅セクターは利回りが低いという認識が過去20年間で徐々に変化したと指摘します。需給の不均衡や規制の影響などにより、欧州では住宅セクターの価値が高まりました。価格高騰やリモートワークへの移行により、ボラティリティに直面している米国のオフィス市場とは対照的です。

M&Gのアジア太平洋地域住宅戦略ポートフォリオ・マネジメント部門ディレクターのデイビッド・アスカムは、アジアでも住宅セクターはボラティリティが低く、リスク指標の面では商業用不動産を凌駕しており、欧州と類似の傾向が見られると指摘します。また、アジアの経済指標は、米国に匹敵する力強いGDP成長見通しを示しているといいます。

供給不足が欧州とAPACの賃貸市場の安定をサポート

短期的な利回りに加え、より広範な構造的トレンドが世界の不動産市場を再構築しています。高金利が需要のファンダメンタルズを変革し、主要都市部では住宅購入の先送りと賃貸期間の長期化が見られています。

この傾向は世界的にみられるものの、地域間の住宅供給状況には顕著な乖離が見られます。米国では、所得水準と住宅価格のギャップにより、住宅購入は依然簡単ではないにもかかわらず、住宅供給戸数は大幅に過剰となっています。

2000年から2020年にかけて、広大な土地や効率的な建設プロセス、多様な資金調達手段に支えられ、米国の住宅建設は世帯数の増加を330万戸上回りました³。この過剰な供給を反映して、米国の賃貸アパートの空室率は2025年6月時点で7%に達しました⁴。これは、英国(3%)⁵、ドイツ(2.5%)⁶、東京(3.2%)⁷、北欧諸国(4.5%)⁸、オーストラリア(1.2%)⁹などの他の都市と比較して著しく高い水準です。

対照的に、欧州およびAPACの一部では、新築住宅の供給が急激に減少しており、短・中期的には当面の需要水準を下回る状況が続くと予想されます。この持続的な供給不足は、以前からの新築住宅の供給不足が解消されない中で起きており、さらに状況は深刻化しています。

「欧州諸国の建設件数は必要な水準に達していないと言われていますが、それは事実です」とアイラーズはいいます。新型コロナウイルス、ウクライナ紛争による地政学的緊張、金利上昇といった外的要因が従前の構造的な問題をさらに深刻化させたためだと指摘します。

「このような構造的な問題は、不十分な建設と規制面の制約が相まって、住宅需要と供給に持続的な不均衡をもたらしており、それが欧州の住宅市場への参入を正当化する根拠になっている」とアイラーズは説明します。

APACの一部では同様の供給不足に直面しており、特に2016年から2024年において、オーストラリアの住宅の在庫の増加率が年間約1.7%だったのに対し、世帯数は平均で約2.4%増加したとアスカムは指摘しています10

アスカムは、賃貸住宅(BTR)減税など、政府と民間部門の連携を通じた開発促進策を例に挙げ、「供給を促す取り組みが必要だ」と強調します。

住宅供給におけるこの格差が、世界的な賃貸のトレンドに影響を与えています。住宅が豊富に供給されている米国では、ニューヨークやサンフランシスコといった賃料が高騰している一部の都市を除き、賃料はほぼ横ばいで推移しています。一方、欧州やAPACの都市部では、深刻な供給不足と持続的な需要圧力により、賃料上昇率がインフレ率を上回る状況が続いています。

市場サイクル全体にわたる賃料の伸びを分析すると、一貫して他のほとんどの主要なグローバル市場と比較して米国のボラティリティが高いことをデータは示しています。この要因には、市場の安定性に影響を与える経済変動や規制変更が挙げられますが、こうした状況は現在さらに顕著になっています。一方、欧州とAPACはより予測可能な成長軌道を示す傾向があり、安定した収益を求める投資家にとって魅力的な選択肢となっています。

投資家の最終的な利益、すなわち純営業収益も、賃料が横ばいの都市は運営コスト上昇の影響を受けています。インフレ圧力と高度な設備への需要の高まりを受け、特に米国の集合住宅セクターの経費が上昇しています。こうした継続的なコスト上昇の影響は、設備が充実した高級アパートメントにおいて特に顕著となっています。

こうした圧力の中、日本の集合住宅市場は米国とドイツに次いで世界第3位の規模を誇り、底堅く推移しています。流動性と透明性の高さで知られる日本の集合住宅セクターは、低い空室率、堅調なキャッシュ・オン・キャッシュ利回り、収入変動の安定性から、世界の投資家に支持されてきました。さらに過去3年間は、賃金上昇を背景に住宅の賃料の伸びが著しく加速しています。ローン・トゥ・バリュー(LTV)比率50%で戦略的にレバレッジを活用することで、10%を超えるトータルリターンを達成し得ると私たちは考えています11

同時に、私たちは北欧の集合住宅市場が、世帯数の堅調な増加と、高い賃貸志向に支えられ、有望な投資機会を提供していると考えています。アムステルダム、コペンハーゲン、ベルリン、ストックホルムなどの都市は特に有望です。新規住宅の供給が限られているにもかかわらず、これらの都市は他の都市と同様に堅調な入居率を維持し、豊かさ、住みやすさ、活力といった都市環境のバランスを効果的に保っています。私たちは、この組み合わせが集合住宅セクターにおいて魅力的なリスク調整後リターンを達成する条件であると考えています。

留学先の変化が学生向け宿泊施設の需要を後押し

米国では、高等教育分野において進行中の政策論議と緊張が留学生を遠ざける要因となり、米国に代わる留学先を求める留学生がさらに増える可能性があります。オーストラリア、日本、韓国などの国々がますます魅力的な選択肢を提供していることに加え、欧州各市場における支援政策も相まって、留学先の選好に変化が生じると予想しています。

M&Gでは、現在米国の教育機関に在籍している中国人留学生の半数が米国以外を選択した場合、APACの留学生数は10~20%増加すると推計しています。さらに、既に中国人留学生需要が根強い成熟した欧州市場も恩恵を受ける可能性があります。これには、現在留学生に人気の高い上位3カ国である英国(15万人)、ドイツ(3万9千人)、フランス(2万6千人)が含まれます。

機関投資家は、こうした留学先の変化を受けて、特に欧州とAPACで成熟しつつある学生専用住宅(PBSA)市場を重要な資金配分先として見据えはじめています。例えば南欧では、学生向け住宅市場が引き続き堅調で、イタリア(学生数210万人に対しベッド数8.5万床)、スペイン(同180万人に対し12万床)、ポルトガル(同45万人に対し1.6万床)などで力強い需要がみられます。

過去5年間で、留学生数は年率7%以上のペースで増加している一方で、実家を離れて就学することを選択する自国学生の割合も上昇傾向にあります12。しかし、南欧全域で1ベッドあたりの学生数は19.5人(他の欧州地域では5.6人)と、欧州で最も低い供給率に直面しています。これは先進国全体で見ても最低水準です。

同時に、OECD加盟国の中で最も高い人口増加率を誇るオーストラリアは、2026年までに留学生数を年間9%増加させるという野心的な目標を掲げています13。オーストラリアを選ぶ留学生が増えれば、魅力度と需要の高まりによって、住宅用不動産の利回りプレミアムの縮小につながる可能性があります。

アスカムは、メルボルンの活気ある学生向け住宅市場を例に挙げ、学生にとって魅力的な留学先であるオーストラリアの優位性を強調しています。この優位性と、米国からの学生の流入に影響を及ぼす地政学的変化が相まって、近年学生向け住宅に対する需要と入居率が大幅に上昇しています。

オーストラリアを例に挙げながら、アスカムは、BTR市場の当初の不明瞭さについて振り返ります。開発者が市場の需要を十分に理解しないまま、必要最低限の設備しか備えていない物件からハイスペックな物件へと揺れ動いたため、家賃が高騰したのです。

アスカムは、ジムや交流スペースといった、入居者のニーズを真に満たす必須設備に重点を置くよう助言する一方で、ターゲットを絞った高級開発物件でない限り、付随的な設備については慎重に検討すべきだといいます。設備を簡素化することで運営コストを最小限に抑え、賃料の引き下げと入居者の負担を軽減できるためです。

世界の学生の移動パターンが変化する中、現地チームの専門知識を活用し、文化的な嗜好や地域のニーズに応えることがますます重要になっています。こうした変化を戦略に取り入れることが、PBSA市場において優位なポジションを築く上で重要になると思われます。

「グレート・ローテーション」により拡大する欧州・APAC住宅セクターの投資機会

不動産投資家にとって重要な投資先として世界的に認識されている住宅セクターは、安定的かつ成長性が期待されるキャッシュフローを生み出す能力と、持続的な構造的追い風に支えられ、投資家調査で常に選好する資産クラスの上位に入っています。PBSA、集合住宅、戸建て住宅、共同生活施設、高齢者向け住宅などを始め多岐に亘る住宅セクターは、若年層、子育て世帯、シニア層など、ライフステージ全般に亘って多様なニーズに対応しています。

現在、政策の変更、市場ボラティリティの上昇、そして特定の市場セグメントにおける飽和状態を背景に、投資家の関心は大きく転換しつつあります。「グレート・ローテーション」と呼ばれるこの新たな潮流は、投資家の関心を欧州とAPACへと向かわせています。これらの地域では、住宅関連資産が極めて魅力的なリスク調整後リターンを提供すると私たちは見ています。

経済および政策の先行きが不明瞭な中、住宅セクターは底堅く推移し、分散投資と持続的な成長を求める投資家にとって魅力的な存在となっています。米国市場が集中リスクの圧力にさらされる一方、欧州やAPACは、需給環境の好転と力強い成長ポテンシャルという恩恵を享受しており、人口動態の広範なトレンドとも整合しています。こうした変化の中で、投資家はグローバル市場の複雑さを乗り越えるための新たな道筋を見出しています。

1 MSCI, as of January 2025.
2 MSCI and PMA, as of July 2025.
3 Kirk McClure and Alex Schwartz, ‘Where Is the Housing Shortage?’, (tandfonline.com), April 2024.
4 U.S. Census Bureau, ‘QUARTERLY RESIDENTIAL VACANCIES AND HOMEOWNERSHIP, SECOND QUARTER 2025’, (census.gov), July 2025.
5 CBRE, ‘Build-to-Rent (BTR)’, (cbre.co.uk), 2023.
6 Reiner Braun and Jan Grade, ‘Significant decline in vacant flats’, (empirica-regio.de), December 2023.
7 Jon Salyards, Andy Hurfurt, Tetsuya Kaneko and Simon Smith, ‘Tokyo Residential Leasing Q1/2025’, (savills.co.uk), April 2025.
8 For Sweden, Denmark and Finland. Source: Combination of national data from SCB, Ejendom Danmark and StatFin, as of August 2025.
9 SQM Research, ‘Residential Vacancy Rates’, (sqmresearch.com.au), 2025.
10 Australia Bureau of Statistics, ‘Census data’, (abs.gov.au), PMA and National Housing Supply and  Affordability Council, ‘State of the Housing System’, (nhsac.gov.au), 2025.
11 This denotes gross returns (pre-taxes) from purchasing a Tokyo multifamily asset in 2025 and selling it four years later. The scenario presented is an estimate of future performance based on evidence from the past on how the value of this investment varies, and/or current market conditions and is not an exact indicator. What you will get will vary depending on how the market performs and how long you keep the investment. Source: M&G Real Estate estimates, as of May 2025.
12 It covers the period from the 2018/19 to 2023/24 academic years (latest available) and includes all international student enrolments, encompassing part-time and distance learning programmes. Source: Based on data from the Ministero dell’Università e della Ricerca (Italy), the Ministerio de Ciencia, Innovación y Universidades (Spain) and Direção-Geral de Estatísticas da Educação e Ciência (Portugal), as of August 2025.
13 Australian Government, ‘Increased student intake for Australia in 2026’, (studyaustralia.gov.au), August 2025.

Contributors
Marcus Eilers, Head of European Residential
David Askham, Director, Portfolio Management, Asia Living

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