債券
8 分間で理解する 25年10月21日
投資家として確かな実績を築くためには、自分にしかない強みが必要です。その強みが何で、どう言語化すればいいのかが分からなければ、他者と同じリターンしか得られないでしょう。
2000年代初頭にM&Gに入社した当時、ジェイミー(現M&Gファンダメンタル債券チーム共同責任者のジェイミー・ハミルトン)と私は、非常に伝統的なやり方でファンドの運用を始めました。しかし、私たちはすぐに自分たちが得意とする分野とそうでない分野に気づき、本当に得意とする分野に注力することにしました。こうして、私たちの哲学とも言えるものが生まれました。
私たちの強みは、いくつかの要素に基づいています。第一に、私たちは世界は絶えず変化していて予測が極めて困難であり、市場変動の最大の要因は往々にして予期せぬ形で現れることを受け入れています。以前は、毎年1月にその年の債券市場の懸念事項をリストアップし、(あまりのリストの長さに)楽しむようにさえなっていました。しかし、市場がショックに見舞われた時、その原因を私のリストに見つけることはできませんでした。これは驚くべきことではありません。予想できるようなことは、すでに価格に織り込まれているからです。
そこで私たちは、市場で何が起こり得るかを予測するのをやめ、代わりにある問いの答えを見つけることに集中することにしました。それは「この銘柄はリスクに見合ったリターンを提供するか?」、「より高いリターンが得られるリスクの組み合わせはないか?」、「同等のリターンを得られつつ、リスクが低い選択肢はないか?」といったものです。私たちは、未来を予測しようとするところから離れ、この問いに焦点を絞りました。
“リスクに見合ったリターンを提供するか?”
ディズニーの社債は典型的な例です。新型コロナウイルスの流行に伴いロックダウンが始まると、ディズニーは全テーマパークの閉鎖を余儀なくされました。しかし、運営は維持する必要があるため費用がかかります。同時に、ディズニーは「ディズニープラス」の立ち上げにも取り組んでおり、技術開発や法的契約、他のストリーミング・サービス会社からのコンテンツの買い戻しに巨額の資金を投じていました。これらは多くの観点から破滅的に見えたかもしれませんが、債券保有者の視点から見ると、どれも問題ではありませんでした。むしろ本質的な問いは、「ディズニーは破綻するか?」でした。答えは明らかに「ノー」でした。ディズニーは強固なバランスシートと素晴らしい資産を保有しており、1年後、2年後、3年後も存続すると思われました。そこで私たちは自問しました。数年後には会社の存続が危ぶまれるような破壊的にすら思われる投資をしているディズニーの社債を購入するべきか?答えは「イエス」でした。
2025年4月の貿易関税のように、それほど極端ではない例もあります。当時、関税がどの国にどのように課されるのかを正確に予測することはできませんでしたが、越境取引量を分析することで企業が受ける影響度合いを推測することはできました。これにより憶測を排除することができたのです。自動車メーカー関連銘柄は全面安となりましたが、関税により「車を買う人がいなくなる」とか「メーカーがハンドルなどの部品の購入を止める」ということがないことは分かっていました。こうした憶測を除外すれば、取るべきリスクに集中することができるのです。
2つ目の私たちの強みは、組織体制です。通常、大手の債券運用会社は、特定の市場セグメントに特化した組織体制を擁しています。例えば、米国投資適格社債チーム、新興国債券チーム、ハイイールド社債チームなどです。私たちの最大の差別化要因は、ポートフォリオ・マネージャーが個々の市場に狭く特化するのではなく、各々がクライアントのポートフォリオへの責任を負っている点です。チーム内に担当領域は存在しますが、全員が全てのポートフォリオの動向を把握しています。
優れた投資アイデアを見つけた時(例えば、とても割安に見える投資適格社債など)、私たちが真っ先に問うのは以下の質問です。「それはどんな意味で割安なのか?同じセクター内の他の銘柄と比べて割安なのか?それともセクター全体がまだ割高なのか?もしかすると、他の投資適格社債と比べて大幅に割安なのかもしれないし、絶対収益の観点で魅力的なのかもしれない。」
その答えによって、その債券が私たちの債券ポートフォリオの(ガイドラインで許容された投資適格枠内で)どのファンドに組み入れられるべきなのかがわかります。最適なのは、ハイイールド・ファンドなのか?もしくは、投資適格社債ファンド、またはマルチアセット・クレジット・ファンドなのか?あるいは全てのファンドなのか?
これが、私たちがファンドの責任領域においてマトリックス構造を採用する理由です。チームメンバー全員が各ポートフォリオの投資目標を理解しているため、誰かが投資機会を発見した時に、それがどのポートフォリオに最適かを直感的に理解できます。私たちは、どんなに些細な事でも、共有するようにしています。「面白い投資適格社債銘柄を見つけたんだ。ハイイールド・ファンドの(ガイドラインで許容された)投資適格枠にぴったりだと思うけど、もしかすると投資適格社債ファンドの方が良いかもしれない」といった感じで情報を共有します。このようなやり取りが縦割りの組織にありがちなサイロを取り払います。重要なのは、その投資機会がどのクライアントまたはファンドに最適な結果をもたらし得るのかを理解することです。
リターンがリスクに見合わない場合、当然ながらポートフォリオのリスク量を減らします。そして、保有資産を見直し、リスクに見合った対価を得ているかを問い直します。もしそうでない場合は、利益を確定し、入れ替えの対象となる魅力的な銘柄がなければ、待機します。無理をしてポジションを構築する必要はありません。辛抱強く待つことで、新たな投資機会が出現した時にすぐに行動できるからです。
市場に対する見方と、どのようにポジションを構築するかという2つの要素は、資産運用会社が唯一コントロールできるものだと言えるでしょう。私たちの目標は、安定したパフォーマンスを達成することです。さらに他社と異なる方法で、何よりも市場環境によって投資判断がぶれることなく達成することが極めて重要だと考えています。つまり、投資機会が存在せずパフォーマンスが芳しくない時期も、ぶれることなく着実に小さな成果を積み重ねていくことが重要だと考えています。そうすれば、投資機会が訪れた時(市場で何らかの事象が発生し市場価値が下落した時など)に、待機資金を新たな投資機会に投下することができるからです。
市場が高値圏で推移する中で信念を貫くことは、決して容易ではありません。状況が長引くほど、自らの決断やタイミングに迷いが生じるのは当然で、「今回は違うかもしれない」と思うようになるかもしれません。しかし過去を振り返ると、そういったことは稀であることが分かります。市場は回復し、世界が終わることはありません。往々にして、最も不安な決断こそが正しい決断なのです。
“往々にして、最も不安な決断こそが正しい決断である。”
最も強力な武器の一つでありながら、しばしば見過ごされがちなのが時間です。時間はバランスシートには載りませんが、圧倒的な強みとなり得るものです。市場が混乱し、資産価格が下落している時に、「資産は目減りしているけれど、長期的な価値の向上に重きを置いているから明日の価格がどうであろうと気にしない」と言い切れれば、それは計り知れない強みとなります。多くの投資家は、証拠金の追加差し入れ要求やリスク制限、さらなる損失への恐怖といった短期的なプレッシャーに縛られ、本来投資行動を起こすべき時に動けなくなってしまいます。
クライアントは往々にして時間という強みを持っていますが、必ずしもそれを活用しているわけではありません。私たちが目指すのは、クライアントがその強みを活かせるようサポートすることです。即効性はないかもしれませんが、時間の経過とともに、その判断は多くの場合報われます。
まさにここが、私たちの組織体制が真価を発揮する場面です。先行きが不透明な環境で、たった一人で毅然とした態度で臨み、決断力を持って行動することは簡単ではありません。私たちのマトリックス型の組織体制は、単独行動をすることはありません。私たちは投資アイデアを共有し、ともに検証し、投資判断をします。重要なのは、完璧な投資判断ができる稀有な人材を見つけることではなく、全員が確信を持って行動できる体制を構築することです。
クレジット投資は特に華やかなものではありません。私たちの日常は、決まった岩を毎日ひっくり返し、その下に何か新しいものがないかを探すことの繰り返しのようです。私たちには投資対象となるユニバースがあるので、その中でクレジットのファンダメンタルズのバリュエーションに新たな動きが出ていないかを探し続けます。
企業は絶えず資金調達と借り換えを繰り返しているため、債券には一定のパターンがあります。午前中は、いつも一連の新規発行案件が山積みなので、チーム全員が総出でリストに目を通す時間帯があります。頻繁に発行を行っていて、既にリスクを把握している発行体がある一方で、全く新しいものもあり、アナリストが初めて調査結果を共有するような発行体もあります。
午前中に債券チームの定例ミーティングがあり、アナリストが企業業績やニュースについて最新情報を簡潔に共有します。これは、その後各自がポートフォリオを確認し、アナリストと関連事項についてより詳細な議論を行うための一種の準備のようなものです。その後、昼食時に米国市場が開くと、再度同じ流れが繰り返されます。この合間には、クライアントからの問い合わせや最新情報の共有、あるいはスチュワードシップやサステナビリティ・チームと連携し、特定の発行体に関するESG関連案件について議論することもあります。
この仕事の最も面白い点の一つは、常に進化していることです。クライアントのニーズは、ガイドラインの見直しやポートフォリオ戦略の再考などといった様々な要因で常に変化し、市場も常に動いています。そして、私たちは絶え間ない変化に適応していきます。この仕事では、変化を厭わないことが求められます。世界が一瞬止まってくれればいいのにと思う日もありますが、ほとんどの場合この変化こそが仕事の醍醐味です。
好奇心は不可欠です。ビジネス、政治、経済、企業財務がどう結びつくのかを理解したいと思うなら、この仕事はそれらすべてを探求する機会を与えてくれます。完璧な先見性を持っているかどうかは重要ではありません。そもそも、誰もそのようなものは持ち合わせていません。むしろ、自ら進んで疑問を投げかけ、複雑さを理解しようとする姿勢が求められます。
先日「つまらない」と言ったら苦言を呈されました。「『つまらない』ではなく、『規律正しい』と言うべきだ」と諭されました。市場は現在割高かもしれませんが、債券の良いところは常にするべきことがあることです。だから私たちは市場が割高であることを認識し、状況が変わるのを待ちながら、何とか水面に顔を出して持ちこたえています。そしてようやく転機が訪れた時、私たちのチームは静けさに包まれます。なぜなら、私たちが大好きなこと(モニターに向かい、割安銘柄を買い集める)をしているからです。
Contributor
Richard Ryan, Co-Head of Fundamental Fixed Income
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