アジアの物流施設:更なるリターン向上の可能性

6 分間で理解する 23年3月13日

アジア太平洋地域ではオンラインショッピングの成長速度が引き続き世界の他の地域よりも速いため、新鋭の設備を備えた物流施設に対する強い需要が持続すると考えられます。今後の不動産価格調整や新たな投資機会がリターンをさらに向上させることが期待されます。

今後も上昇が見込まれるオンラインショッピングの普及率

 アジア太平洋地域のオンラインショッピングの規模は、都市人口の増加もあって大幅に拡大しており1、消費額の増加とともにデジタル決済プラットフォームの普及に拍車がかかっています。オンラインショッピングは、パンデミックによって購入形態として一層、一般的になりました。それまでオンラインで買い物をしたことがなかった人も、ワクチン接種の予約や食料品の購入、建物に入るための接種証明の取得などをスマートフォンで行うことに慣れ、オンラインショッピングを始めるようになった人も少なくありません。また、一部の国では、社会的弱者向けの食券をデジタル化したことが、高齢者によるオンラインショッピングの促進につながりました。

『世界のハイテク企業が耐性向上とリスクの分散化を図るためにサプライチェーンを見直しているなかで日本の魅力が増しており、主要都市以外の物流施設に対する需要が増加する可能性がでてきました』
 

特にオーストラリアや日本など、今までオンラインショッピングがあまり浸透していなかった国を含めて、オンラインショッピングの普及率が上昇しています。アジア太平洋地域全体の普及率は2026年に35%に達する可能性が高く、世界平均よりも高い状態が続くとCBRE社は予測しています。

多くの新たな物流施設が必要

オンラインショッピングの拡大に伴い、商品を保管し、家庭に直接配送するために、より多くの、倉庫を含めた物流施設が必要になると考えられます。一般的にオンラインショッピングで必要とされる物流施設の面積は、従来型の小売業で必要な面積の3倍程度と言われています。 

現在、多くのアジア太平洋地域の国における物流施設の空室率は5%を下回っており2、物件を見つけるのが厳しい状況が続いています。さらに、オンライン販売業者がより迅速な配送を求めるようになったことでサプライチェーンが再構築されていることも、状況を悪化させています。

当面は物件の供給が増加する予定ですが、賃借需要を満たすほど増加するとは考えにくい状況です。アジア太平洋地域では、2021年から2026年にかけて最大で1億3,000万平方メートル分の物流施設が新たに必要になるとM&Gは予測しています3。需要のある物流施設の特徴として、配送需要の増加に対応するため、交通の便が良く、都市部へのアクセスに優れた立地にある、自動化システムを採り入れた新鋭の施設が挙げられます。

引き続き日本は魅力的な投資対象

日本の物流施設は、需給関係が投資家にとって有利であることに加えて、今後は為替差益が期待できることから、引き続きコアな投資家にとって重要な投資対象です。インフレや金利水準が他の国に比べて低いため、不動産のバリュエーションが比較的堅調に推移する可能性が高いと考えられます。また、現在のオンラインショッピングの普及度がそれほど高くなく、今後の上昇が期待できるため、条件の良い物流拠点がインカム収入の増大と物件価値の上昇の両方をもたらす可能性があります。

現在稼働している物流施設は「古い倉庫」のような施設が多く、日本全国でみた場合、新鋭の設備を備えた物件は全体の6%に過ぎません。このため、特に大阪、福岡、名古屋など、東京に比べ開発が遅れている地域において、高規格でエネルギー効率に優れた施設の建設など、魅力的な投資機会が存在すると考えられます。


世界のハイテク企業が耐性向上とリスクの分散化を図るためにサプライチェーンを見直しているなかで日本の魅力が増しており、主要都市以外の物流施設に対する需要が増加する可能性がでてきました。日本は、部品サプライヤーの強いネットワーク、成長を続ける自動車産業における優位性、高度熟練労働者層の厚さ、コスト競争力の面で非常に優位な立場にあります。

日本政府は半導体産業の投資促進を図っており、新たな工場の建設費の半分までを融資するために6,000億円 (46億米ドル) の基金を設置しました。それに加えて、マイクロコントローラーやパワー半導体などの特定の製品用に特化した部品の製造を支援するために、470億円の基金を設置しました4

半導体メーカーの台湾積体電路製造公司社 (TSMC) が日本で2番目の半導体工場を九州に建設するとの予想があり、福岡県などで物流施設の需要が高まっています5

また、トラック運転手の労働時間を制限する措置が2024年に導入されることで、物流施設に対する需要が高まる可能性があります。日本は辺地が多いため、従来は物流のハブには適さなかった幹線道路沿いの物流拠点での物資保管のニーズが生じるかもしれません。

山が多い日本では土地の確保が容易でないことに加え、融資や建設のコストが上昇しているため、適当な投資先の発掘には現地に精通した企業とタッグを組むことが必要だとM&Gは考えます。M&Gは、高品質で持続可能な物流施設 (ESR市川ディストリビューションセンターはその一例) の開発や取得を目的に、ESRグループと戦略的パートナーシップ契約を締結しました。この施設は東京都心部へのアクセスに優れており、建築環境総合性能評価システム (CASBEE) 認証Aクラスを取得した物件です。

価格調整に苦慮する国での投資機会

インフレ高進、金利上昇、銀行による貸し渋りが起きている、オーストラリアのような国においては、投資家は不動産価格の調整の恩恵を受けることができると考えられます。一方、不動産市場のファンダメンタルズは依然として魅力的であり、賃料の上昇が持続することも期待されます。

物流施設に対する需要は、オンラインショッピングの普及が着実に進んでいるなかで、人口の増加や交通・インフラへの大規模な投資に支えられ、堅調さを維持しています。このような環境下、シドニーとメルボルンの空室率はゼロに近く、資金調達の難しさや建設の遅れにより、供給が限定的な状況が当分は続くと考えられます。

明るいリターンの見通し

アジア太平洋地域の物流施設は、逆風環境に強い長期的な投資対象だと当社は考えています。この数年でキャップレートが大幅に低下したため、不動産価格が今後調整されれば、リターンの見通しの改善とともに、インカム収入の増加が期待されます。国によって不動産のサイクルが異なるため、さまざまなリスク・リターン特性を備えた投資案件を選択することができます。そのなかで重要なのは、現地での専門知識であり、また、戦略的立地にある新鋭の物流施設に焦点を当てることです。

1 アジア太平洋地域の都市人口は、2020年から2030年の間で15%増加すると予想されている。出所:オックスフォード・エコノミクス、2023年1月
2 CBRE、2022年12月現在
3 オンラインショッピングの売上高が10億米ドル増加するごとに、100万平方フィート (92,903平方メートル) の面積の物流施設が必要になる前提で試算
4『Companies (and government) spending big to produce chips』、朝日新聞、2022年5月16日
5 『Top chip manufacturer TSMC considers second plant in Japan』、ジャパンタイムズ、2023年1月13日

 

投資元本は変動し、投資から得られる利益は上昇することもあれば、下落することもあり、お客様の投資元本は保証されません。

本項に記載されている内容は現時点におけるM&Gの見解であり、投資に関する推奨、助言に該当するものではなく、また将来の状況やパフォーマンスを予測するものではありません。

当資料は、一般的な情報提供を目的としており、金融商品取引業登録に基づく業務又は当社関連会社が組成するファンドの持分等の勧誘を目的としたものではありません。

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