テナント需要が貸し手にとっての融資機会を創出

4 分間で理解する 23年4月12日

新型コロナウイルス感染症の収束に伴い、非常に質の高いオフィスビルに対するテナントの需要は強く、貸し手に投資機会が訪れているとM&Gインベストメンツの不動産デットの共同責任者であるダン・リッチズは考えています。

オフィスセクターの先行きが不透明にもかかわらず、なぜオフィス物件に融資を続けているのですか。

オフィス物件は、労働形態の変化に伴うテナント需要や、そのことがどのように物件価値に影響を及ぼすかなどの課題を抱えています。最終的には、投資家はテナントの要望を受け容れる必要があるため、まずはテナントの需要が何であるかを見いだすことが重要であり、資金調達 (デットであれエクイティであれ) はその後に考えるものです。つまり、物件の選択が最も重要だということです。アクセスが良く、快適な環境であり、近隣に快適さをもつ他の施設が所在しており、そして当然のことながら環境に配慮しているなど、基本的に勤務する人々がそこを職場にしたいと考えるようなオフィスビルを選ぶ必要性があります。このような物件に対するテナント需要は、引き続き高い状況にあります。新型コロナウイルス感染症以降におけるロンドン中心部のオフィスビルの新規契約動向を見ると、需要が最高クラスのビルに偏っているのが分かります。また、悲観視する市場の見方とは裏腹に、オフィスの賃料は過去最高の水準に達しています。このような最高クラスのオフィス物件は供給が不足しており、M&Gはこの種の物件に融資することをそんなに心配していません。

2022年の特筆すべき案件として、ロンドンでのオフィス改装のための7,900万英ポンド(8,900万ユーロ)の融資がありましたが、オフィスセクターでの融資機会は改装案件にあるのでしょうか。

オフィス分野では、ESG要件、快適性、アクセスに優れたグリーンビルに融資機会があると考えています。2020年、新型コロナウイルス感染症の最悪期に、M&Gは2棟 の既存物件を担保にした合計6億英ポンドを超える融資を2件実行しました。2件とも信用の高いテナントと長期賃貸契約を締結しており、BREEAM (英国の建築研究財団の環境性能評価) の「エクセレント」認証を受けた高品質な物件です。M&Gはこのような案件に特に積極的に取り組んでいます。

もう一つM&Gが積極的に取り組んでいるのは、改装や開発を伴う案件であり、テナントが新たに抱くようになった期待に応えられる物件を供給することです。新型コロナウイルス感染症により、この2~3年のテナントの要求事項はかなり具体的になってきています。現在、改装や開発案件に資金を供与することは、最新の仕様を求めるテナントの要望をすべて満たすような物件を供給することにつながるでしょう。

この1年間で欧州のオフィス市場における不動産融資の環境はどのように変化したのでしょうか。

オフィス物件については、状況は厳しさを増しています。欧州のゲートウェイ都市に所在し、強力なテナントと長期の賃貸契約を締結している最新のビルに関しては、資金の調達は引き続き円滑に行えます。物件が値下がりし、LTV (総資産有利子負債比率) も若干低下しました。そのなかで、バリュエーションが見直されたかどうか、また見直されたのであれば、どの程度見直されたかが重要です。例えばベルリンの場合、プライムなオフィス物件の利回りは、新型コロナウイルス感染症以前は3%以下でしたが、現在では3.75%近くに上昇しています。同様に、ロンドン (シティー) の利回りは、12か月前から1%程度上昇しました。

バリュエーションの見直しが妥当だとすれば、最優良物件のレバレッジ水準はほとんど変化していないことになります。貸し手側では、質への逃避が確かに起きています。市場全体では、バリュエーションに基づく価格と実際に取引されるであろう価格との間にまだ時差あるように思われます。そのため、融資の依頼者がLTVを55%だと主張したとしても、バリュエーションが見直されていない物件の場合、実勢LTVが65%程度であるとの判断に基づいてプライシングすることになる可能性があります。オフィス物件に関しては、物件価格の見直しが少なからず進んでおり、徐々に取引されるようになりました。実際に取引があることで、バリュエーション見直し後の利回りがどの程度であるかを理解することを通じて実勢価値をより正確に把握できるようになったため、貸し手にとって融資することの安心感が増しています。

全般的な不動産物件に対する融資市場も同じ問題を抱えているのですか。

そのとおりだと思います。新型コロナウイルス感染症以来、人々の生活様式が変化したため、不動産市場に影響が出ています。パンデミックにより電子商取引が拡大したため、ショッピングセンターが悪影響を受ける一方で、郊外の小売業用倉庫はかなり好調に推移しており、またハイストリート (繁華街) に関しては、都市によってまちまちでした。電子商取引の拡大が物流施設の成長をいかに加速させるかを目の当たりにしました。人々が在宅勤務をすることによるオフィス物件への影響も目にしました。結論とすれば、影響はほとんどすべての物件種類に波及しました。

根本的には、貸し手は融資対象の物件の価値がどれほどか、および現在のインカム収入がどの程度持続可能なのかを常に自問自答しています。この10年間の大半は、インフレ率が比較的低く、金利がほぼゼロという、極めて穏やかな環境においてこうした問いを投げかけていました。しかし、この12か月間は、英国では四半期ごとに景気後退に陥るのではないかという、金利の上昇や生活費の危機といったインフレ環境下において、同じことを自問自答しています。現在の環境が過去とあまりに異なるため、私たちは特別な注意を払う必要があります。

オフィス以外では、現在どのようなセクターが魅力的でしょうか。

学生向け住宅と民間賃貸住宅は、物件価格の見直しとは関係なく、引き続き融資の対象としてディフェンシブで魅力的な物件種類だと考えられます。需給のバランスが崩れているため、質の高い物件を提供する所有者にとって有利な状況が続いています。よりハイリスク・ハイリターンを求めるのであれば、改装・新築の分野に大きな投資機会があると考えられます。一般的な貸し手は、建設業界全体におけるコストの上昇や倒産リスクの増大を懸念するようになっており、改装・新築物件の融資に及び腰になっています。この分野こそ、魅力的なリターンが期待できる絶好の融資機会を獲得できると考えています。

ノンバンクの貸し手として、市場環境の変化に対応するために、どのように融資戦略を修正しているのですか。

市場環境の変化に応じて修正しているわけではなく、市場に存在するリスクをより詳細に理解することで物件価値のバリュエーションを正確に行い、物件の収益がどのように推移するかをより理解することを心掛けています。不動産のファンダメンタルズ、スポンサーの専門知識、信頼できるビジネスプラン、エクイティ比率等の要素はすべて同じです。

2023年の欧州不動産市場にはどのような脅威と投資機会があるのでしょうか。

市場独自の課題ではなく、マクロ経済動向が脅威です。これには、インフレ動向、ウクライナ情勢、英国を含む欧州における金融引き締めが含まれます。これらすべての不確実性が高まり、欧州全域において投資額の減少を引き起こしました。投資家は現在、行動を起こさずに立ち止まって考えているところです。これはデット投資戦略にとって、大きなチャンスだと考えられます。銀行が融資を完全にストップしたわけではありませんが、融資額は減少しているように見えます。一方、多くのデット投資戦略には、銀行のような制約がありません。市場の流動性が低下すると、非金融機関の貸し手にとって、魅力的な融資の機会が増加します。不動産が値下がりすることで、担保価値の低下を通じて融資可能額融資可能額が減少し、借り換えが必要な融資案件が担保不足となって必要とする資金を調達できない事態に陥ることになります。これは、特にM&Gのようなノンバンクの貸し手にとって融資の好機になると考えられます。

このレポートは当初「Real Estate Capital Europe」の2023年春号で、『K Key note interview: Office lender’s flight to quality』として掲載されたものです。

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