着実に進化する欧州のレバレッジドファイナンスとCLOにおけるサステナブル投資 パート1

6 分間で理解する 23年7月13日

過去2年間で、ESG要素を採用している欧州の運用資産の割合(サステナブルファイナンス開示規則 (SFDR) の第8条及び第9条に分類されるファンド) を採用した資産残高は全体の60%近くまで上昇しました1。欧州の大型レバレッジドファイナンス市場を形成しているプライベート企業の規模、成熟度、並びにプライベートエクイティ・オーナーの先進性を考慮すると、ファンドやローン担保証券 (CLO) に組み入れられているレバレッジドファイナンス資産も、同様に猛烈な勢いで拡大すると考えていいのでしょうか。

『欧州の大型レバレッジドファイナンス市場にとって明るいニュースは、企業のESGリスク管理の信頼性、そして持続可能性の意思を判断する材料が急速に成長していることです』
 

欧州レバレッジドファイナンスにおけるESG要素について、M&Gインベストメンツのレバレッジドファイナンスの運用担当者であるフィオナ・ハグドラップが2回にわたって解説いたします。パート1では、SFDRの定義に基づき、欧州のレバレッジドファイナンス投資戦略 (ファンド形式とCLOの両方)において、投資先企業の取り組みが見かけ上」どのような特徴を有しているのかを正確に把握し、一貫性のある正確な手法を用いた評価により、環境的、社会的な要素を促進させるポートフォリオを構築できるとハグドラップは考えています。

このような戦略は、パブリック市場と同様に、持続可能性の目標を設定し、運用ポートフォリオにおいて実際に持続可能性を高める企業に投資することにコミットすることにつながると予想されます。

クレジット分析にESG要素を統合することが特別でなくなったように、CLOを含む欧州のレバレッジドファイナンスにおいてサステナブル投資という言葉が当たり前のようにポートフォリオで使われるようになってきています。同様に、現在ではCLO投資は専門的な分野ですが、いずれは専門的でなくなり、投資の本流に吸収されるかもしれません。広範な資産担保証券 (ABS) のように、CLOがSFDR第8条要件を満たしたマルチアセット投資戦略として認知されることで、持続可能性、そしてそれを証明する方法に関する知識や一貫性が急速に普及すると考えられます。

環境面・社会面への貢献を「促進」させているのは何か

環境や社会にとって害になると考えられる事業に投資しないというマイナス面に着目する投資方針も持続可能性の促進に貢献するでしょう。どの程度を「有害」と感じるかは投資家によって異なります。禁止対象事業のリストが一般の人よりも長い人もいるでしょう。また、事業によっては、許容度が低い (または全くない) 人も存在するでしょう。ただ、基本的な考え方については、コンセンサスが確立されつつあります。武器、化石燃料、タバコ、世界的な規範に反する行為は投資対象から除外される事業ですが、その多くは、パーム油、ギャンブル、アルコール、金融資産の搾取、麻薬性鎮痛薬 (オピオイド) 、遺伝子組み換え作物、動物実験など、支持を集める他の項目と同次元で扱われる傾向があります。除外対象事業リストは、欧州で新規に発行されるほぼすべてのCLOに明記されているだけでなく、SFDR第8条や持続可能性を重視するローンファンドやマンデートにも明記されています。

より実質的な促進とは、ポジティブスクリーニングを適用し、環境や社会に大きく貢献すると見なされる企業に重点的に投資することが挙げられます。これは単にリスクを軽減するためだけではなく、環境や社会のさまざまな課題に対して、企業が将来的にどの方向に向かっているかを評価することを意味します。

環境面・社会面への貢献を推し進めるには、エンゲージメントを通じた効果的なスチュワードシップ (最も広義には、貸手や債券投資家は株主ほどでないにせよ、それなりに重要な「ソフト」な影響力を有しています) も必要です。責任投資原則 (PRI) の定義では、これは特定の目的をもった対話を意味します。

エンゲージメントとは、単に質問状を送ることや、問題に対する解答を求めるものではありません。重要なのは、エンゲージメントが貸手と借手との関係だけでは完結しないということです。実際に、二酸化炭素排出量が多いセクターにおける排出量目標設定のような課題においては、多くの関係者がエンゲージメントに参加することで高い効果を発揮します。レバレッジドファイナンス市場においてエンゲージメントを効果的にするためには、Climate Action 100+ のようなイニシアティブを起ち上げる必要があるかもしれません。

Climate Action 100+は、MSCI ACWI銘柄の中で排出量が多い100社余りの企業を対象とした世界最大級の投資家参加型イニシアティブです。第一段階は終了し、現在は2030年に終了予定の第二段階に入っています。第二段階では、スケジュールを進めるなかで適切なエスカレーションの方法、さらにそれを可能にするネットワークの構築が行われます。設備投資も第二段階の重点項目の1つになっています。なぜならば、設備投資は財務と財務外の関係を明らかに2」するものであるため、企業のコミットメントが具体化するかをはかることができるからです。レバレッジドファイナンスの投資家もClimate Action 100+と同様の考え方をすることができ、設備投資についての聞き取りは、キャッシュフロー融資を実施するかの意思決定において重要な役割を果たします。

投資戦略、ファンド、CLOは、投資家に対して、環境的、社会的目標の達成度を測るための持続可能性指標を開示する必要があると考えます。

体系的なアプローチ、データの増加

欧州の大型レバレッジドファイナンス市場にとって朗報なのは、企業のESGリスク管理の信頼性や持続可能性の意思を確認する判断材料が急速に増加していることです。また、データ・アグリゲーター (データを集約・整理し配信する業者) やESGコンテンツの提供業者も急速に増加しています。これらの業者は、企業による活動やグローバル規範に対する準拠度の評価を含めた開示資料の分析、データ評価に役立つ考察 (例えばISO認証の価値) を提供します。このような情報は、バランスの取れた評価を行う必要のあるレバレッジドファイナンスのアナリストや運用担当者にとって役に立ちます。ただし、評価は、体系的でなければならず、かつ枠組みに則して行う必要があります。

規制は、指標のなかで企業のどの指標が劣っており、検討すべきかといった包括的な管理や、企業の情報開示がどの程度進んでいるかをはかるうえで役に立ちます。EU当局が必要性を感じるのであれば、主要データをデジタルタグ化することにより、情報の把握と分析の質の向上を図ることができると考えられます。

既に一部の指標は、以前に比べて体系的に特定、分類、評価できるようになっています。運用会社、特に世界中の株式や投資適格債などの公募証券に投資する大手運用会社は、指標が入手できる恩恵を受けています。プライベート企業が、同じセクターの上場企業と比較し、「クラスで最高級」や「遅れている」といった評価を客観的にできるようになります。投資家にとって、投資先企業の野心と意図を評価する枠組みを共有することが必要です。企業の質を明確にすることを、企業に任せっきりにするべきではないと考えます。

現在のところ、レバレッジドファイナンスの投資家は、市場における持続可能性のベンチマークを策定する手段を持ち合わせていません。現状は、先進国株式であれ、新興国社債であれ、他市場への投資をベースに、大手運用会社が独自でベンチマークを策定するのが一般的です。BSL (広範にシンジケートされたローン) のESG指数の登場は歓迎すべきことだと考えます。

EU理事会とEU議会が持続可能性データへのアクセス窓口の一元化で合意したことは投資家にとって朗報です。EUを網羅するこのプラットフォームは、企業の資金調達を容易にするための核になるように設計されています。また、機械判読の精度を向上させるための情報のデジタルタグ付けの促進も同時に進めており、将来的には体系的な照合と報告に役立つと考えられます。

一方、レバレッジドファイナンス市場の業界団体であるローン市場協会 (LMA)、欧州金融市場協会 (AFME)、欧州レバレッジドファイナンス協会 (ELFA)も、並行してシステム化の推進に着手しています。例えばELFAの場合、(発行体と投資家をPRIが仲立ちして多くの協議を重ねた後) 企業に対し、セクターごとのESGデータ開示の推奨案を示した一方、レバレッジドファイナンス投資家のグループは、ABS投資家の役に立つべく、CLOアレンジャーが作成するESGデータの照合方法の標準化案を発表しました。このイニシアティブは、ABS投資家が自身に課せられた開示要件を満たすため、原資産に関する情報だけでなく、ABSの重要関係者 (スポンサー、オリジネーター、マネジャーなど) に関する情報が必要であることが背景にあります。

協調性をさらに強くしたアプローチに発展すると思われますが、現在までの進展は、投資家層にとって最重要な市場である欧州の大型BSL市場や変動利付債 (FRN) 市場における実りの大きな前進と言えるでしょう。

1 モーニングスター『SFDR article 8 and article 9 funds: Q1 2023 in review』、morningstar.com、2023年5月4日
2 Responsible Investor『CA100+ tightens signatory requirements, ups ambition in phase 2 launch』、responsible-investor.com、2023年6月8日

 

投資価値の変動により、投資価格は上昇することもあれば、下落することもあり、お客様の投資元本は保証されません。

過去の実績は将来の運用成果を示唆するものではありません。

本資料に記載されている見解は、受領者への情報提供を唯一の目的としており、金融商品取引法に基づく取引の推奨、投資の助言、又は将来予想の提供を行うものではありません。

プライベートデット運用戦略についてもっと調べる

もっと見る