プライベートデット
5 分間で理解する 23年10月23日
世界中の投資家が高い利回りを追求し、プライベートクレジットへの資産配分を増加させ続けた結果、2022年末時点における世界のプライベートクレジットの運用資産残高は1兆5,000億米ドルに達しました1。今後4年以内に運用資産残高が2兆3,000億米ドルに達すると見込まれています2。欧州のプライベートクレジットも急成長の一翼を担っており、Preqinによると、世界の運用資産残高1兆5,000億米ドルの約3分の1を占めるほどになっています。この急成長の原動力は、複雑性や不透明性がもたらすリターン・プレミアムだけではなく、分散投資の必要性や安定した利回りを重視する投資家が増加していることが挙げられます。
プライベートクレジットとは、基本的にはプライベートデットという資産クラスの中の企業向け融資を指しますが、米国と欧州ではプライベートクレジットに対するアプローチに根本的な違いがあるとM&Gは考えています。
米国では、プライベートクレジットの「プライベート」は一般的に企業向けローンの仕入れ方法と取引形態を指します。銀行による引き受けや関与なしに投資家が直接融資を実行する場合は、プライベートとして分類されます。すなわち、米国における一般的な定義では、プライベートクレジットは、ハイイールド債と同様に、幅広く組成され販売されるシンジケートローン (BSL) を含みません。BSLは日常的に取引され、規制の対象となっており、また、シンジケーションのプロセスや情報は公開されます。
むしろプライベートクレジットの定義は、借入企業が非上場であり、貸手の業態に基づくべきだとM&Gは考えています。そうでないと、欧州におけるローンは本質的にすべてプライベートになってしまいます。レバレッジドローンをプライベートクレジットの範疇から除外することは企業向け融資の範囲を狭めるだけでなく、規模が大きく、すでにある程度確立されたプライベート企業に対する融資の好機を減少させることになります。実際に、欧州のレバレッジドローンだけで市場規模は4,500億米ドルに上っていますが3、この金額は、広範なプライベートクレジットの市場規模の推定額には通常含まれません。つまり、欧州のプライベートクレジット市場の厚みは一貫して過小評価されており、実質的な規模は8,000億米ドルを超えている可能性があるとM&Gは見ています。
プライベートクレジットを、BSLや債券市場のプライベート版だと定義する米国の運用会社を目にすることがあります。このような運用会社は、プライベート市場が透明性の高い市場とは別の世界であることを喜んでいるように見えます。欧州では、BSLをプライベート資産に含めることなど、プライベートクレジットの定義を硬直的に考えることに抵抗があると考えます。欧州のプライベートクレジット市場では、組成時のみならず、残高があるかぎり、公債よりもはるかに多くの情報を入手することができます。
欧州では、より共生的に考え、配分が戦略的であろうが戦術的であろうが、また、満期まで保有する予定なのか流動性を重視するのかを問わず、投資家がプライベートクレジットから何を獲得する必要があるかを重要視します。このことは、ポートフォリオの構築、およびプライベートクレジット商品の組成に反映されます。
米国のプライベートクレジットのテールリスクは欧州よりも高く、それも多岐にわたります。米国の利上げの最終到達点が欧州よりも高くなることを市場金利は織り込んでおり、的中した場合、米国の借入企業はより高い債務負担に直面することになります。企業の財務面では、レバレッジ比率やインタレスト・カバレッジ・レシオ (ICR) などのファンダメンタルズ指標が大幅に悪化しているなど、米国企業は、欧州企業との比較において資本構造が劣ることを示しています。2021年以降の米国におけるバイアウト案件の上位20件 (金額ベース) の平均的なICRは約2倍です4。このような企業は新型コロナウイルス感染症の影響から順調に立ち直った企業であり、企業全般を見た場合、財務内容はより脆弱だと言えるでしょう。
欧州では規制が国ごとに異なるなど、細分化されているのに対して、米国の規制はより均質で借入企業に好都合だと言えるでしょう。これは表面的には長所にも映りますが、実際に米国では文書化基準の緩和が広がっています。昨今の金利上昇により、与信面で弱い企業が資金調達に奔走するなか、新規の貸手が優位に立つ一方で、既存のシニアの貸手が不利になるという状況になりました。これは、借手が少数の貸手から新たな融資 (実際には救済融資) を引き出すことを目的に、弁済順位を既存の貸手より上位にしていることに起因します。このことで、第一抵当権者の債権は実質的に資本構成の下位に押し下げられ、最終的な回収率の低下につながります。
欧州のローン市場の特徴として、平均的に資本構成がより単純であること、シンジケート団からハゲタカファンドの多くを除外する「ホワイトリスト」が存在すること、すべての利害関係者に対して公正な行動を取る基準が、明文化されてないとはいえ、企業の取締役に課されていることから、米国のような問題が起きることはそれほど多くありません。欧州には、積極的すぎるとも言える米国方式を法的に成り立たなくさせるような、より高い責任を企業の取締役に課す文化と法制度が存在します。
債務不履行のリスクが高くなると、信用リスクの高まりは企業全体に及びます。基本的なことですが、企業向け融資のパフォーマンスは企業が返済するかに左右されます。きちんと債務者を選択し、必要な情報を入手することでリターンを大きく向上させることができる考えられます。プライベートクレジット市場では、一般的に借入企業やスポンサーとの関係が緊密であるため、より多くの情報の入手が可能であることが、投資対象をプライベート資産に限定するメリットだと考えられます。この傾向は欧州において特に顕著です。
最終的には数字が物語っています。M&Gは、多くの市場サイクルにおいて、欧州のBSLが米国を一貫してアウトパフォームしてきたことを実際に目にしてきましたが、その最大の原因は2つの市場が根本的に異なることだと考えます。
多くの企業は長期間株式を公開しないことを選択する傾向があり、プライベートクレジットは、このような企業に成長のための資金を供与するうえで重要な役割を担っています。安定したポートフォリオを構築する鍵は、相関性の低いリターンで構成されるローンに分散して配分することです。プライベート市場が進化を続けるなか、機関投資家から個人投資家までの幅広い投資家層は、安定性、分散が図れるメリットを享受しながら好リターンの獲得が期待できるプライベートクレジットに着目しています。
米国の機関投資家は一般的に、プライベートクレジット投資をBusiness Development Companies (BDC、中堅企業や新興企業等の事業開発をサポートする投資会社) を通じて行います。欧州にはこのような制度は存在しませんが、英国のLong-Term Asset Fund (LTAF、長期資産ファンド) やEUのEuropean Long-Term Investment Fund (ELTIF、欧州長期投資ファンド) と呼ばれる補完となるような長期投資ファンドが制度化されました。規制当局は、企業と個人投資家の双方がプライベート市場にアクセスできないことによって生じる不公平さを問題視し、上記のような柔軟な投資形態を制度化することで対処しています。
プライベートクレジットは従来、クローズドエンド型ファンドでのみ投資が可能でした。上記の柔軟な投資形態は、潜在的に安定性のある、長期的かつ多様な収益源へのエクスポージャーを投資家に提供し、最終的にはプライベートクレジットという資産クラスが一般的な投資対象となることに寄与すると考えられます。
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