不動産業界の脱炭素化:困難な時代に求められるものとは?

5 分間で理解する 23年7月19日

不動産を所有するアセット・オーナーは、2050年までに建てられるすべての建物をカーボン・ニュートラルにするという壮大なネット・ゼロ目標に向けて取り組んでいます。しかし、昨今の厳しい経済情勢により、その目標の達成に遅れが生じる可能性も浮上してきています。このような環境においてこそ、資産運用チームとESGチームの統合を進めることが重要です。

ネット・ゼロ目標の達成は、今あるポートフォリオを細かく見直し、脱炭素化への道筋をつけることから始まります。投資を怠れば価値が著しく下がる、あるいは「座礁する」リスクのある資産を洗い出すためのこうした道筋は、資産の改修、売却、開発のいずれを行うにせよ、極めて効果的で実現可能な行動はどれかを判断するための情報を提供してくれます。

タイミングが重要

設備投資をいつどこで行うかについては、多くの場合、施策の実施に費やすコストと時間に基づいて決定されます。例えば、リース期間中に工事を行う場合のコスト効率を考えると、実施のタイミングが極めて重要です。これと同様、5年後に大規模な改修が必要になる建物に資本投入するより、今後15年間改修する可能性が低い建物に投資する方が、コスト効率は高くなります。

ESGはもはや 「補助的」な要素ではなく、建築物の管理手法、リースイベントや交渉の進め方に適切に組み入れる必要があります

「理想的には、テナントの入居スペースやその周辺で改善のためのプログラムを実施することも必要です」と、M&GリアルエステートのESG部門グローバル責任者、ローラ・ジョッカーズ は言います。「例えば、入居スペースを3フロアから1フロアに縮小することで生まれた空間を創造的に活用して工事し、3フロアすべての工事を完結させるなどです。また、照明のアップグレードのような小規模工事も可能で、テナントに大きく迷惑をかけることなく大幅な改善がみられる可能性もあります。厄介なのは、断熱、暖房、冷房機能のアップグレードなど、大規模な工事が必要な場合です。これらの工事で建物は使用できない状態になる可能性があるため、建物が空いている場合にのみ可能です」

ジョッカーズは、続けてこう述べています。「だからこそ、リースの種類、リースのタイミング、建物の長期的な計画を理解することが非常に重要なのです。ESGはもはや 『補助的』な要素ではなく、建物の管理手法、リースイベントや交渉の進め方に適切に組み入れる必要があります」

設備投資配分への選択的アプローチ

利用できる資本が少なく、建築コストも高騰しているため、現在の環境では財務的な実行可能性はより厳しくなっています。それでも、資産の位置づけを見直そうとする機運は増しています。例えば、規制の厳格化で、EPC基準に沿った建物の維持には、ある程度の投資が必要になります。また、テナントや投資家からの環境に配慮した建物の需要も増加を続けています。

「『立地、立地、立地』から『立地、仕様、持続可能性』へと、考え方にも大きな変化が見られます」

こうした状況を背景に、アセット・オーナーは設備投資の配分に選択的なアプローチをとっています。「目標を達成するための取り組みが問題になる可能性はほとんどありません。重要なのは、多額の投資を行うかどうかです」と彼女は言います。

これらの決定は、資産への投資判断のほか、設備の再発注や交換が必要な耐用年数に建物が達したかどうかなど、多くの要因に基づいて行われます。

例えば、より高性能な仕様にすることで、ESGの推進にも役立ちます。しかし、ESGコストは、大規模な改修を行うかどうかの判断の基準にはなりません。

「環境に配慮した対策を導入するコストは、コストではなく投資と見なされるようになってきています。最終的には、リース可能な資産を形成し、資産の減価や減損に直面する可能性は低くなります」

最小のコストで最大のコスト削減を追求

短期的には、最小のコストで最大限のエネルギー節減を達成するための施策に焦点を当てます。

「2050年を見据えるのであれば、すべての建物に対応しなければなりません。しかし、今後10年を見据えるのであれば、最小のコストで最大限のエネルギー節減を図ることを目標とすることが、不動産業界を軌道に乗せるカギとなるでしょう」と、ジョッカーズは言います。

この表は、潜在的な省エネ効果、建物のエネルギー使用強度の変化、再生可能エネルギーシステムへの移行と建物の電化がもた がもたらす長期的なメリットとコストを比較したものです。一般的に、改修が大規模になるほどコストが高くなり、省エネ効果も高くなります。しかし、削減されるCO2の1キログラムのコストを最小限に抑える対策を目指す方が、より現実的になる可能性があります。

 

実行可能な施策は建物によって異なりますが、倉庫のようなシンプルな構造物への設備の設置は、内壁が多く、建物の各部分でエネルギーシステムが異なることが多いオフィスよりも、はるかに容易であるケースがほとんどです。

カギとなるのは統合の推進

経済のファンダメンタルズが悪化の一途をたどる一方で、規制は交渉の余地がなく、テナントはランニングコストを抑えることのできるエネルギー効率の良いビルを求めているのが現状です。したがって、資産管理戦略を最大限に推進することが、現在の環境下で進歩を遂げるためのカギとなります。「テナントに余分な負担や混乱を与えることなく、環境に配慮した改善を行うために、あらゆる機会を最大限に活用するには、資産運用チームとESGチームのより高いレベルでの統合が必要になります」と、ジョッカーズは強調します。

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