脱炭素化とエネルギー安全保障の両立

3 分間で理解する 22年8月2日

エネルギー安全保障は、欧州の全ての国にとって以前から重要な政策課題でしたが、石油とガスのロシア依存からの脱却やネットゼロ達成のための施策など、最近になってさまざまな要素からその重要性が改めて強調され「インフラ資産の投資家と欧州大陸全体にとってエネルギー安全保障とは何を意味するのか」という問いにつながっています。

「エネルギー安全保障の問題は、脱炭素化と同義の部分がある一方、2つの問題の間には全く相容れない面があるので、別の問題として考える必要があります」と、インフラキャピタル社のトランザクション マネージング ディレクターであるハーマン・ディートマン (Herman Deetman) は述べています

エネルギー安全保障と脱炭素化は、どちらも1.5度社会 (産業革命前からの気温上昇を1.5度に抑える) を達成するために密接な関係にありますが、エネルギーの小売価格が急騰している現時点においてエネルギー需要を満たすという点では明らかに異なった方向性を有しています。

「最も顕著な例は、エネルギー源として石炭の使用を大幅に増加させるかです。石炭の使用は国のエネルギー安全保障を向上させますが、脱炭素化とは正反対の政策です」とディートマンは付け加えます。

『エネルギー安全保障は、脱炭素化と同義の部分がある一方、2つの問題の間には全く相容れない面があるので、別の問題として考える必要があります』

輸送を投資対象とする

昨年、ロシアはEUの天然ガス供給の40%、また、輸入石油供給の27%を占めました1。EU加盟国はロシアの供給への依存度を下げようとしており、エネルギーミックスの転換はEU全加盟国によって一旦棚上げにされ、「石炭の短期的な勝利」が起きました2

しかしながら、投資先という観点からは、必ずしも投資家が今後石炭に投資することを意味するものではありません。風力発電や太陽光発電などは、脱炭素化政策において明らかに投資が必要な分野ですが、欧州における脱炭素化とエネルギー安全保障の強化を同時に図るために、投資家はどのようなインフラ分野に投資するべきでしょうか。

1つの対象として、輸送分野が挙げられます。2019年のEUにおける道路運送による温室効果ガス排出量は全体の22%を占めていました3。欧州議会調査局は、『EU加盟国のうちの13か国は内陸水運 (IWT) を活用している。IWTのエネルギー効率は高く、輸送トンキロあたりの二酸化炭素排出量は、渋滞を絶えず引き起こす道路輸送のわずか17%であり、鉄道輸送と比較しても50%にすぎず、今後輸送能力を拡大できる大きな可能性を秘めている』と強調しています4

バージ輸送を普及させ、道路輸送による二酸化炭素排出量を削減

2021年、インフラキャピタル社はオランダとベルギーで内陸のコンテナターミナルを運営する企業を買収しました。複数のバージ (はしけ船) がターミナルを使用していますが、バージ1隻の輸送能力はトラック約100台分に相当します。バージによるコンテナ輸送は、短期的な面では、道路輸送よりはるかに炭素集約度が低い輸送方法であるのは事実です。ただ、投資家は中長期的な視野を併せてもつ必要があると思われます。

ディートマンは「現在一定の二酸化炭素排出量のある企業を買収しましたが、脱炭素化し、エネルギー源を化石燃料から電池や水素へ移行させる計画があります」と述べています。

「脱炭素化は一朝一夕で達成できるものではありませんが、経済的に理にかなっていると強く信じており、欧州経済の脱炭素化の2大目標、すなわち、化石燃料への依存の削減とエネルギー安全保障の強化の達成に寄与すると考えています」

「この解決策は決して直接的ではありませんが、風力発電所や太陽光発電所の建設と同じくらい重要だと考えており、投資額あたりの効果は発電所の建設よりも高い場合もあると考えています」

1 BBC「Russia sanctions: Can the world cope without its oil and gas?」、(bbc.co.uk)、2022年7月27日
2 Politico「Russia’s war is a short-term win for coal」、 (politico.eu)、2022年4月11日
3気候変動に関する国際連合枠組条約  国家インベントリー取り決め 2018、(unfccc.int).
4 欧州議会「Inland waterway transport in the EU」、 (europarl.europa.eu)、 2022年2月

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