不動産
5 分間で理解する 22年9月21日
ポートフォリオが将来リターンに影響を与え得る重大な気候リスクに直面している可能性があることから、不動産の脱炭素化に対する機運が高まっています。不動産業自体が、世界の炭素排出量の約40%の原因となっています1。つまり、2050年までにネットゼロを達成するには、不動産業の役割が重要だということです。
多くの投資家は不動産の保有と脱炭素化目標を整合させるという複雑な問題に対処しようと努めており、「より環境に優しい」建築物とより良いパフォーマンスを生み出すことの関連性については、いまだに議論が続いています。
しかし、ここ数年で建築物のグリーンプレミアム(高格付けのエネルギー性能証明書(EPC:Energy Performance Certificate)やグリーンビルディング認証(green building certification)を取得した建築物など)が、賃貸料収入と評価額の両面でどのように優れた成果を示すことができるかに関する証拠が増えてきています2。
「逆に、特に規制上の要因がある場合、低格付けのエネルギー性能証明書が評価額に影響を及ぼす事例が見られます。これらの建築物を改修するために必要なコストが、投資家や評価市場によって価格に反映され始めているためです」と、M&Gインベストメンツの個人・代替資産サステナビリティ部門責任者であるニナ・リードは述べています。
しかし、不動産の脱炭素は、特に移行リスクと物理的リスクという側面を持つ気候リスクを不動産の評価額に反映することに関して、課題と微妙な差異を伴います。
リスク調整後リターンの最大化の恩恵を長期的に得るために、機関投資家は、気候リスクがポートフォリオに与える影響を考慮し、将来の気温上昇や気象パターンの変化により資産がどのような悪影響を受ける可能性があるかを検討する必要があります。
これらのリスクはまだ不動産の評価額に大きな影響を与えていませんが、今後数年間で変化が始まると思われます。それまでに、投資家は今すぐこれらの考慮事項を分析に組み込み、将来のリターンの悪化を避ける必要があると、我々は考えています。
「規制上の措置がある市場では、それによって、鑑定人や市場が移行リスクがある状況で価格設定を開始することがはるかに容易になります」と、リードは述べています。
一部のヨーロッパ諸国は、今後10年間で建築物の最低エネルギー効率基準がさらに厳しくなることをすでに名言しています。例えば、オランダでは、2023年までにオフィス物件に要求される最低EPC格付けがCとなります3。一方、英国政府は、新規の居住用物件については2025年までに同水準(EPC C)を、居住用以外の物件については2030年までにEPC B(2番目に高い格付け)を達成することを求める法案を提出しています4。
不動産業界の法整備が進み、テナントも自社のネットゼロ目標を達成するためにより環境に優しい建築物を必要としているため、投資家は、既存の建築物を環境に優しいものに移行させるために必要なコストも考慮する必要があります。
政府が今後数年間でEPCの基準値がどのように変化するかを明確に示すことで、投資家は、建築物を適切なエネルギー基準に適合させるために必要な支出額をある程度明確に把握することができます。これは移行リスクの重要な側面の1つです。
「基本的に投資家は、建築物が条件を満たす性能水準を達成するために必要な資本支出(CapEx)はどの程度か、そのコストが価格に反映されているかどうか、将来的な工事で当該コストに対する控除があるかどうかの情報を求める必要があります」と、リードは述べています。
Carbon Risk Real Estate Monitor(不動産炭素リスクモニター「CRREM」)と照らし合わせてポートフォリオを構築することで、投資家は、資産が座礁資産となる前に、エネルギー性能を超えたネットゼロへの経路に整合させるために必要な資本支出を見積もることができます。
しかし、建築物を脱炭素化目標に合わせて改修することは、必ずしも簡単ではありません。短期間に実行すると短期的なリターンに影響を及ぼす可能性があり、作業が遅れた場合は、コストが全面的に増大します。それでもなお、既存の不動産をより環境に配慮したものにすることは、将来の気候関連リスクの低減に役立つ可能性があります。
リードによると、改修に対する資本支出を価格に反映していない者に対して原則として罰則を科すために、この資本支出を建築物の評価額に含める必要が生じる可能性があります。
「これは、規制上の措置がある市場で一般的になりつつあります」と彼女は述べています。これは、同様の規制が行われている英国やオランダ、そしてフランスにおいて、すでに明らかとなっています。
評価額の調整がより困難になるのは、不動産におけるネットゼロの定義に一貫性が欠如している場合です。
「このセクター内では、ネットゼロを説明するためにさまざまな方法が使用されています」と、リードは述べています。「これが単に営業上の使用を指す場合もあれば、建築物の建設中に排出される炭素を指す場合もあります。また、ライフサイクル全体の炭素を意味する場合もあります。不動産におけるネットゼロを取り巻くコミュニケーションには、一貫性がありません。このように異なる定義があるため、このリスクにおける価格設定が非常に困難になっています」
ネットゼロへの移行がもたらす評価額への影響を把握するには時間がかかり、事前にさらなる標準化が必要です。
「現時点では、不動産業には多くの不確定の要素があります。しかし私たちは、経験を通して方向性を見出し、ネットゼロへの移行にアプローチする方法を習得して、不確実性を抱えながらも前進することができます」と、リードは述べています。
2022年夏に北半球で気温が記録的な水準に達するという状況では、投資家は長期的に見て、自身の不動産ポートフォリオを将来の気候関連リスクからすぐにでも保護する方法を検討したほうがよいかもしれません。
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