不動産:脱炭素化を図るうえで不可欠なデータ

4 分間で理解する 22年11月8日

投資家は不動産における脱炭素化の促進を積極的に後押ししていますが、不動産業界でネットゼロを達成するためには、二酸化炭素排出量とエネルギー消費に関する信頼できる正確なデータが不可欠です。

不動産の脱炭素化を図る投資家が年々増加しています。例えば2019年には、英国のベター・ビルディング・パートナーシップ (Better Buildings Partnership) が気候変動への取り組みに着手しました。以来、署名者は、世界中で3,800億英ポンドを超える規模の資産を運用する33社となり、運用ポートフォリオにおけるネットゼロ達成のための行程表と具体的な計画を公表することにコミットしました。

不動産における脱炭素化の議論が急速に熱を帯びるようになりました。しかし、ネットゼロを達成するためには、投資家から規制当局に至るまでのすべての利害関係者が一体となって目標達成に取り組む必要があります。

『一貫性のない二酸化炭素排出量の報告データは、投資決定に大きな影響を与える可能性があります』
 

現在、不動産物件そのもの、そして、二酸化炭素排出量の大きな割合を占める使用中の建物に対して、ネットゼロの統一された定義が存在しないことが取り組みを困難にしています。不動産のネットゼロへの道のりにおいて、建物自体のエネルギー使用量とテナントによる排出量に関する完全なデータが入手できないことが妨げになっています。

不動産における二酸化炭素排出を定義する

建物による二酸化炭素排出は、「オペレーショナル カーボン (使用時の排出)」と「エンボディド カーボン (使用以前の排出)」に大きく分類されます。オペレーショナル カーボンは、不動産による排出量の大部分を占めているため、規制当局と投資家の両方が重要視しています。

エンボディド カーボンの排出量が全体に占める割合は大きくありません。今日に至るまで、規制当局やネットゼロ投資家がそれほど注意を払っている様子はありません。

気候変動に関する機関投資家団体 (Institutional Investors Group on Climate Change「IIGCC」) が策定したネット ゼロ投資の枠組みにおいても、エンボディド カーボンを排出に含んでいません。

定義がないこと及び二酸化炭素排出量データに一貫性がないことは、投資決定に大きな影響を与える可能性があります。特に物件の事業計画において、どの部分に、どの段階で改修費用をかけるかの判断を難しくしています。

建物による二酸化炭素排出量のデータ

不動産投資においてネットゼロにコミットする投資家が増加しているなか、二酸化炭素排出量とエネルギー消費に関する正確なデータを投資家が入手できない場合、脱炭素化目標の達成に腐心することになるでしょう。

ネットゼロの取り組みを支援する利便性の高いツールとして、EUが後押しする不動産炭素リスクモニター (Carbon Risk Real Estate Monitor「CRREM」) があります。このツールは、投資家が二酸化炭素排出量とエネルギーの削減目標を設定し、低炭素経済への移行に伴う資産の陳腐化リスクの評価を可能にする一方で、不動産資産の二酸化炭素排出量とエネルギーの削減の進捗をモニターすることを可能にします。

M&Gのプライベート資産及びオルタナティブ資産運用のサステナビリティ責任者であるニーナ・リード (Nina Reid) は、次のように説明しています。「CRREMは、異なる市場のさまざまな種類の建物におけるオペレーショナル カーボンのネット ゼロへの行程表を策定することを可能にします。まだ完全にグローバルなツールとは言えませんが、グローバルになりつつあります」

「グリーン ビルディング認証の多くは、ネット ゼロを定義するツールとしてCRREMを使用することを検討し始めており、オペレーショナル カーボンのネット ゼロ策定と親和性が高くなり、利用度が高まることを期待しています」

ネットゼロ達成の妨げになるデータ不足

しかし、CRREMには限界があります。現在のモデルはすべてのタイプの不動産に適用するには内容が一般的すぎます。例えば、スーパーマーケットは小売倉庫に分類されていますが、エネルギー使用のパターンは、被服用の倉庫とは大きく異なります。

次に、CRREMのモデルは、オペレーショナル カーボンの試算には対応していますが、エンボディド カーボンには対応していません。また、必要なデータが揃っている場合にのみ、ツールが有効性を発揮します。

「エンボディド カーボンの扱いにはあまり一貫性がありません。しかし、規制を導入している国もいくつかあります。今後欧州の多くの国が、エンボディド カーボンのみならず、ライフスタイル全体を通じた二酸化炭素排出量の規制を導入すると予想しています」とリードは指摘します。

「規制が導入されるまでの間は、市場があらぬ方向に向かうことを抑制する規則が存在しないため、不動産物件のエンボディド カーボン対策はより難しいものになるでしょう」と付け加えています。

エンボディド カーボン データ入手の先導役になる

脱炭素化には建物のエネルギー効率の向上が必須ですが、エンボディド カーボンを取り込まないかぎり、環境に負荷をかけている、建設のサプライ チェーン全体で生じる二酸化炭素排出量が含まれず、業界のネット ゼロ達成の阻害要因になります。

建物使用時のエネルギー効率が向上するにつれて、建物のライフスタイル全体に占めるエンボディド カーボンの比率は高くなります。1

開示義務がないかぎり、サプライチェーンが排出するエンボディド カーボンのデータを入手することは困難です。義務化されるまでの間にネットゼロを達成するためには、資産運用業界が先導役となり、独自に不動産物件の二酸化炭素排出量基準を設定することで、脱炭素化の促進を図る必要があるとM&Gは考えています。

1 M&G リアルエステート, 建築・建設に関するグローバルアライアンス、2018年グローバルステータスレポート

 

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