電気自動車の普及に不可欠な急速充電設備

3 分間で理解する 22年10月31日

輸送部門は、温室効果ガス (GHG) の大きな排出源です。確かに電気自動車という解決策は存在しますが、電気自動車の普及を確実なものにするためには、急速充電設備という不可欠なインフラを整備し、内燃エンジンを遺物にする必要があります。

1990年からの10年間、米国における最大の温室効果ガス排出源は輸送部門でした (27%1)。同じ期間において、欧州連合 (EU) では、化石燃料を使用する分野のなかでエネルギー、製造・建設、農業、廃棄物管理のすべてが温室効果ガスの排出量を削減させたのに対して、唯一増加させた分野は輸送分野でした2。英国においては既に2016年時点で、輸送部門がそれまでずっと最大であったエネルギー分野を抜いて最大の排出源になっています3

米国及び欧州 (含む英国) の双方で道路輸送が最大の温室効果ガス排出源であり、特に乗用車が大きな割合を占めています。1990年からの10年間において、輸送部門が増加させた温室効果ガス排出量の最大の原因が交通量の増加であるとの説明に一理あるものの、「全体として、輸送部門における燃料効率はほとんど改善していない。輸送に使用されるほとんどの燃料は石油製品であり、再生可能エネルギーへの転換がわずかにとどまっているため、他の部門のように、環境にプラスに働く燃料構成の大幅な改善は起きていない」というのがEurostatの解釈です4

『政府は電気自動車への転換を強く推進しており、電力会社 (発電) と電気自動車 (充電) の双方の努力がこの動きを加速させるでしょう。過去20年間で効率の大幅な向上を達成できたように』
 

ゼロミッション車への移行を加速させることは、ネットゼロ達成のための非常に重要な要素であり、各国の政府もそれを十分に認識しています。2020年11月には英国政府が、2030年をもってガソリンとディーゼルを燃料とする自動車・小型商用車の販売を禁止すると発表しました。翌2021年のバッテリー式電気自動車の販売台数は19万に上り、それまでの5年間の合計を超えました。

一方、EUの「Fit for 55 (55%削減を達成するための政策)」パッケージは、2030年までに二酸化炭素排出量を、乗用車で55%、小型商用車で50%削減することを目標にしています。さらに、EUで販売される乗用車・小型商用車の新車を2035年までにゼロエミッション車にすることが定められています。国際エネルギー機関 (IEA) によると、昨年の欧州で販売された自動車のうち、17%が電気自動車でした5

道路輸送部門の脱炭素化において電気自動車が果たす役割は明白です。最近の電気自動車の販売増は好ましいことではありますが、期限までに電気自動車の普及を確実なものにするためには、急速充電設備という不可欠なインフラを整備し、内燃エンジンを遺物にする必要があります。

電気自動車移行に不可欠な急速充電

インフラキャピタル (Infracapital) の トランザクション マネージング ディレクターである クリストフ・ボルデス (Christophe Bordes) は次のように述べています。「長距離の移動を可能にするための設備への投資なくして、電気自動車は普及しません。そのため、急速充電器の分野は大きなチャンスであると考えます。自宅用の設備では充電の速度が非常に遅く、1時間充電しても走行できる距離は15km程度です。通常の家庭用電源で充電できる容量が3.5kWであるのに対し、急速充電設備では最大150kWが可能であり、超急速充電設備ではさらに大きな容量が可能です。急速充電器がなければ、人々は電気自動車への乗り換えに二の足を踏むことになるでしょう」

政府が先導役となっている北欧諸国が世界の電気自動車市場の最先端を走っています。ノルウェーでは昨年の新車販売台数が17万6千台を超える水準に増加したなか、そのうちの65%が純電気自動車であり、その充電需要への対応策が投資機会となっています。

「課題はインフラの整備です。ノルウェーにおいてさえ、充電器数が不足しています。年末には、自動車の20%が電気自動車になる見込みです。そして、毎月新規に登録される自動車の80%が電気自動車であるため、ノルウェーにおいては内燃エンジン車が今後減少し、それほど遠くない未来にゼロになることを意味しています」とボルデスは述べています。

急速充電のネットワークの必要性は明らかですが、投資家は同時に、カーボンフリーの電力を調達することも考慮しなければなりません。低炭素経済への移行を後押しするために、インフラキャピタルはリチャージ社 (Recharge) を買収しました。リチャージは北欧において充電設備を提供する大手業者であり、800か所で4,600超の充電器を稼働させています。自動車による二酸化炭素排出量をゼロにするために、必要な電力を供給する態勢を構築することは不可欠です。

「リチャージが購入する電力の100%はCO2フリーです。インフラキャピタルが電力会社との契約には厳格な精査規定が織り込まれており、CO2フリーの電力であることが間違いでないようにしています。このような動きは、他の国、特にポーランドのように現在でも石炭火力発電に大きく依存している国では短期的には困難であると考えられます。このような国にとってCO2フリー電力は時期尚早ですが、このような動きは、再生可能エネルギーによる発電への移行を加速することにつながり、想定されるよりも早く達成する可能性があります」とボルデスは付け加えています。

脱炭素化競争は、プラネタリーバウンダリー (人々が地球で安全に活動できる範囲)で生活するために、業界、政府、投資家のすべてが緊密に協力することを必要とする団体競技 のようなものです。「その点で、各国政府はエネルギー転換策を強力に推進しており、電力会社 (カーボンフリー発電) と電気自動車 (充電) の両方の努力がこの動きを加速させるでしょう」とボルデスは結論付けています。

1 米国環境保護庁 (2022年5月)『U.S. Transportation Sector Greenhouse Gas Emissions 1990 – 2020』nepis.epa.gov
2 Eurostat (2022年5月)『Climate change – driving forces』ec.europa.eu 
3英国ビジネス・エネルギー・産業戦略省 (2022年2月)『2020 UK Greenhouse Gas Emissions, Final Figures』assets.publishing.service.gov.uk
4 Eurostat (2022年8月)『Climate change – driving forces』ec.europa.eu
5 国際エネルギー機関  (2022年5月)『Global EV Outlook 2022: Trends in electric light-duty vehicles』iea.org

 

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