不動産
5 分間で理解する 23年9月20日
アジア太平洋地域の都市人口は、都市化の進行と都市部以外からの人口流入により、過去15年間で2倍に増加しています。現在、アジア太平洋地域の都市には、世界全体の都市人口の半分に相当する22億人が居住しています。この人数は2050年までにさらに50%増加すると予想されています1。
各国政府は、パンデミックを契機に経済の活性化と労働力不足対策として、外国人労働者と学生を積極的に受け入れる政策を採用しています。オーストラリアでは、医療、教育、工学、農業に熟練した専門家を呼び寄せるため、2023年に、1年間に受け入れる永住可能な移民の上限を20%超引上げ、19万5,000人としました2。
留学生もアジア太平洋地域の主要都市では大きく回復しており、オーストラリアと韓国ではパンデミック以前の5年間では年率10~15%増加しています。中国とインドでは、親の世代が豊かになり、子供の教育が重視されるようになったことから、今後数年間は留学生数の増加が持続すると予想されます。さらに、日本や韓国では、婚姻率の低下、離婚率の増加、長寿化により、単身世帯と二人暮らしの数が増加しており、過去20年間の人口増加を上回っています3。
このような都市化の傾向に対応する住宅を供給することには多くの課題が存在します。都市計画や土地供給の制約により新規開発が制限される場合もあります。他の都市では、需要の高さと低金利によって、住宅価格が買い手の手が届かない水準まで押し上げられています。
オーストラリアでは、供給が常に需要を下回っており、現在の空室率はパンデミック前の水準を下回っています。一方韓国では、低い住宅ローン金利と市場の流動性の高さを背景に、ソウルの住宅価格は2018年から2021年にかけて70%近くも上昇しました4。現在、オーストラリア、日本、韓国の住宅価格は平均年収の10~15年分に達しています。
金利の上昇は、住宅の購入をさらに困難にするでしょう。そのため、特に初めて仕事に就いたような若い社会人にとって、住宅を購入するよりも賃借する方がより現実的でしょう。例えば、日本と韓国では、集合住宅の平均賃料は平均月収の20~25%であるのに対し、住宅ローンの月間返済額は40~50%に達しています5。
歴史的に見てアジアでは、人々だけでなく政府も住宅の所有を選好してきました。そのなかで、この10年は賃貸住宅に居住する人の割合が着実に増加しています6。日本と韓国では、全世帯の半分以上が住宅を購入せずに賃貸住宅に居住しています。この背景にあるのは、手頃な価格での住宅購入が現実的ではなくなってきていることのほか、考え方の変化があると考えます。
日本や韓国では、独身者や子供のいない夫婦が増加していることを受けて7、学校の近隣に住宅を購入する必然性が希薄になっています。さらに、若い世代は、賃借が故に得られる柔軟性のほか、住宅を所有することに伴う費用や責任から解放されるといったメリットを重視するようになってきているため、賃貸住宅に居住することが以前にも増して一般的になってきました。
住宅問題解決のための各国政府の方針にも変化が見られるようになりました。具体的には、シンガポール、香港、オーストラリア、韓国の各政府はこの10年間、住宅に投資する個人所有者の数を減らすことを通じて住宅価格の高騰を抑制するための措置として、印紙税の引上げなどを実施しました。
賃貸住宅の促進も住宅問題解決のための施策の1つです。例えば、中国政府はこの5年間、教育や医療を含め、住宅の賃借人が住宅所有者と同じ公共サービスを受けられるようにするなど、若い家庭層に、住宅を購入せずに賃借することを奨励してきました。2017年以降、政府は賃貸住宅を数多く整備し、20万戸以上の集合住宅を供給しました。一方、韓国は賃貸住宅への投資を奨励する一貫として、2015年後半に賃貸住宅REITの制度を導入しました。
2023年に、賃貸住宅開発のインセンティブとして政策や税制にさらに変更が加えられたことは、機関投資家にとって賃貸住宅分野が今後数十年以内に投資対象として奥行きのある、規模の大きな市場に成長する可能性を示唆していると考えられます。オーストラリアでは、ビルドトゥレント (「BTR」、賃貸のために建設された物件) を奨励するため、土地税と源泉徴収税が引き下げられ、韓国では、学校・工場の外に共同宿泊施設を建設できるよう建築規制が改正されました8。
過去10年間で集合住宅市場が確立された日本以外の地域でも、機関投資家が求める高い水準の賃貸住宅市場が形成され始めています。
最近まで、ほとんどの不動産開発業者は集合住宅を完成前に個人に販売する、いわゆる分譲方式を採用していたため、賃借人は個人の家主から賃借することが一般的でした。しかし、ここにきて市場の力学は変わりつつあります。
オーストラリアのBTR市場は、住宅を購入する非居住者に対する印紙税が2019年に引き上げられたことで、開発業者による売れ残り物件の賃貸用への転換が進み、成長に勢いがつきました。このことで、竣工直後や開発中のBTR物件に機関投資家が投資する道筋ができました。
オーストラリアでは、移民政策の見直しや留学生需要の回復により、賃貸市場がさらに厚みを増すと考えられます。このようなファンダメンタルズが、民間住宅の賃料の上昇と機関投資家向け物件の市場の拡大を長期的に支えると予想されます。
韓国では、賃貸住宅市場の構造的な障壁が解消され始めたことで、機関投資家による投資が可能になりました。賃借人が「チョンセ (『伝貰』、預託金制度)9」方式から月払の家賃方式に移行し始めていることを受け、個人所有者の物件購買力が低下していることで、開発業者による「分譲」のビジネスモデルが立ち行かなくなる懸念に直面しています。同様に、金利上昇も「分譲」モデルに影響を及ぼしています。
賃貸市場においては、この2年の間にソウルで開発された新しいコリビング物件 (職住一体型のシェアハウス) が成功を収めたことが証明しているように、機関投資家が提案する、専門性の高い不動産管理、アメニティ、法制面の予防対策、賃貸契約の確実な更新が期待できるような集合住宅の価値をテナントが認識し始めています。このような物件は、高い入居率と市場平均を上回る賃料が期待できます。賃借人がこのような賃貸物件に対する認識を改めるにつれ、魅力的なインカム収入と持続的な成長性を提供する集合住宅への投資機会が徐々に増加すると予想されます。
世界最大の賃貸不動産市場をもつ米国では、賃貸されている集合住宅の40%を機関投資家が所有していることを考慮すれば、オーストラリアや韓国などの新興市場を中心に、アジア太平洋地域において機関投資家が投資できる賃貸住宅市場の成長余地は大きいと考えています10。
アジア太平洋地域各国の賃貸住宅市場が成熟するにつれて、利回りは低下すると考えられ、投資家は低いボラティリティでありながら物件価値の上昇を享受できる可能性があります。今後10年間で、住宅投資額は2.5倍に拡大し、アジア太平洋地域における全投資額の12~15%を占めるほどの規模になる可能性があると考えます。そのなかで、住宅分野も今後10年で、流動性の高い中核的な資産クラスに成長する可能性が高いと考えます。
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